【被告とする共有者が亡くなっていて戸籍上相続人がいない場合の対応】
1 被告とする共有者が亡くなっていて戸籍上相続人がいない場合の対応
たとえば、共有物分割訴訟では共有者を被告とするので、通常は登記に出ている共有者を被告とすることになります。この点、実際には、登記は長期間そのままとなっていて、数代にわたる相続で、現在の共有者(相続人)が多数に増えているということがよくあります。そして、亡くなっているけれど相続人が(戸籍上)存在しないという共有者が含まれていることもあります。
本記事では、このように被告とする共有者がすでに亡くなっていて戸籍上相続人がいない場合にどうするか、ということを説明します。典型例である共有物分割訴訟をもとにして説明しますが、登記引取請求など、ほかの訴訟にもあてはまります。
2 状況(段階)ごとの対応のまとめ
最初に、原告としてどのような対応をすればよいか、という結論を状況別に整理しておきます。
<状況(段階)ごとの対応のまとめ>
(※2)手続中に共有持分が売却された場合、購入者が被告となる
中身については、以下順に説明します。
3 相続財産清算人選任「前」
まず、共有者ABCのうちCはすでに亡くなっていて、戸籍上相続人がいない状況を想定します。戸籍が誤っている、また、戸籍に間違いはないが、この後死後認知により相続人が現れる、などの可能性もあります。つまり、戸籍だけでは理論的に相続人が存在しないかどうかは確定できないのです。
このような場合の原則的な手続は、相続財産の清算です。清算の手続が完了していない場合、被告は相続財産法人となります。ただし、この法人は代表者がいないので訴訟手続をすることができません。相続財産清算人の選任申立をするのが原則的方法ですが、手間、時間を要するので、共有物分割訴訟の中で特別代理人の選任申立をする、という方が実用的です。
相続財産清算人選任「前」(※1)
あ 被告→相続財産法人
相続財産法人が共有物分割の被告となる
詳しくはこちら|相続人不存在では遺産は特別縁故者か共有者か国庫に帰属する
い 手続の遂行→相続財産清算人または特別代理人
相続財産清算人を選任する
共有物分割訴訟の中で相続財産法人の特別代理人を選任することもできる
※大決昭和6年12月9日
詳しくはこちら|民事訴訟法の特別代理人の選任の要件の内容と解釈
4 相続財産清算人選任「後」
相続財産清算人が選任された後であれば、相続財産清算人が被告として訴訟を遂行できます。
清算手続の中で、費用をつくるために売却されることもあり、この場合は共有持分を購入した者が新たな共有者となっています。
そして、清算手続が完了していれば、共有持分の帰属が決まっているはずです。具体的には、裁判所の判断により特別縁故者に帰属するか、他の共有者に帰属することになります。
相続財産清算人選任「後」
あ 相続人不存在確定「前」→相続財産管理人
ア 基本
相続財産法人が被告となる((前記※1)と同様)
相続財産管理人が訴訟手続を遂行する
イ 相続財産清算人による売却
清算手続の中で売却されることもある
共有持分を購入したものが当事者となる
い 相続人不存在確定「後」→特別縁故者または他の共有者
当該被相続人が有していた共有持分は特別縁故者または他の共有者に帰属している
※民法958条の2、民法255条
詳しくはこちら|相続人不存在では遺産は特別縁故者か共有者か国庫に帰属する
共有持分権を取得した者が当事者となる
本記事では、被告とする共有者が亡くなっていて戸籍上相続人がいない場合にどう対応するか、ということを説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産や共有物分割に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。