【株式の準共有における議決権行使の変更・管理・保存分類】
1 株式の準共有における議決権行使の変更・管理・保存分類
相続などにより、株式が準共有となることがあります。この場合、権利行使者の指定が必要になるなど、いろいろな法的な問題が出てきます。
詳しくはこちら|株式の準共有における権利行使者の指定・議決権行使
そのような問題の中に、株主総会で株主として議決権行使をするためには、共有者のどこまでの同意を得る必要があるか、という問題があります。別の言い方をすると、共有物の変更、管理、保存のどれに分類されるのか、という問題です。
詳しくはこちら|共有物の変更・管理・保存行為の意思決定に必要な同意の範囲と大まかな分類
本記事ではこの分類について説明します。
2 平成27年最判→原則管理分類
平成27年最判は、準共有の株式の議決権行使を決めること、つまり賛成票を入れるかどうかを決めることは、原則として管理分類になる、と判断しました。たとえば株主総会のある議案甲に賛成票を入れる、と決定するには、過半数持分の準共有者が賛成することが必要、ということになります。
ただし、この判例は、特段の事情があれば管理分類にはならない、とも示しています(後述)。
平成27年最判→原則管理分類(※1)
※最判平成27年2月19日
3 「特段の事情」による変更分類
前述のように、平成27年最判は、特段の事情がある場合には例外となる、つまり管理以外の分類となる、ということを宣言しています。判例の中で、特段の事情の例として、株式の処分、株式の内容の変更につながるような議案(に賛成票を入れること)が出ています。
特段の事情について、より詳しい解釈を紹介します。
(1)冨上智子氏見解(判例解説)
冨上智子氏は、特段の事情にあたるかどうかの判断基準を立てています。議案が重要なことは当然の前提として、さらに、当該準共有株式について賛成票を入れるかどうかで結果が異なる、ということも必要である、という見解です。
重要な議案といえるかどうかに関しては、役員の選任は一律に否定する、つまり管理分類のまま(特段の事情にあたらない)という見解です。
冨上智子氏見解(判例解説)
あ 「特段の事情」の抽象的判断基準
ア 判断基準
上記の特段の事情がある場合とは、抽象的には、
①議案の内容自体が、株式の処分又は株式の内容の変更をもたらすものであり、
かつ、
②当該準共有株式に係る議決権の行使をもって可決要件を満たすような場合
ではないかと考えられる。
※冨上智子稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成27年度』法曹会2018年p38
イ 理由(具体例)
例えば、発行済株式のほぼ全部が準共有となっている場合に、株式の処分や株式の内容に変更をもたらす議案に対して当該準共有株式全部について賛成の議決権が行使されるような場合を想定すると、このような議決権行使は、株式の処分や株式の内容の変更に直結する行為ということもでき、これを持分の過半数を有する者のみの意思で決することができるとするのは妥当でないとも考えられる。
※冨上智子稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成27年度』法曹会2018年p30
い 役員選任の判定→一律管理分類
ア 他の見解(紹介)→変更分類もあり得る
この点、学説には、役員の選任の議案に対する議決権行使について、同族的な非公開会社の株式の大部分又は過半数が共同相続されている場合には全員の同意が必要となるとする見解(青竹正一『新会社法(第3版)』126頁)や、会社の業務執行に及ぼす影響力の大きさから処分行為に当たる場合があると解する見解(江頭憲治郎=門口正人編集代表『会社法大系機関・計算等第3巻』70頁[岡正晶])などもある。
イ 自説→一律管理分類
その者が役員に選任されることが直ちに会社の価値の毀損に当たるということは通常想定し難いことや、業務執行権の掌握を志向する者ら間の紛争であるかどうかなど、株主構成、株主の属性や意思、背景事情等を考慮して、議決権の行使が処分ないし変更行為に当たるか否かが判断されるものとするのは、会社法が予定する組織法上の法律関係の規律としては適当ではないように思われることからすると、役員の選任の議案に対する議決権行使は、株式の処分や変更行為には当たらないと見るのが妥当ではないかと考えられる。
仮に閉鎖会社特有の配慮をすべきものとすれば、別途規律を設ける必要があるのではないか
と思われる(岩原紳作ほか「座談会改正会社法の意義と今後の課題[下]」商事2042号18頁参照)。
※冨上智子稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成27年度』法曹会2018年p37
(2)青竹正一氏見解
青竹正一氏はまず、解散や合併の議案(議題)は特段の事情にあたる、つまり変更分類になると指摘します。
取締役や代表取締役を選任することは、原則的に管理分類となる(特段の事情にあたらない)ことを前提として、同族会社や非公開会社(小規模な会社)では変更分類になるという見解です。株主への影響が大きい、という実質面に着目した解釈です。
なお、令和3年の民法改正で軽微変更という概念ができて、管理分類として扱うものとなりました。
詳しくはこちら|共有物の「軽微変更」の意味や具体例(令和3年改正による新設)
これに関して、小規模な会社の代表取締役選任は軽微変更ではなく通常の変更(重大変更)であるという見解を示しています。
青竹正一氏見解
あ 解散・合併→変更分類
会社の大部分の株式が共同相続され、解散、合併などが議題となっている場合は、議決権がどのように行使されるかによって、共有株式の内容、共有持分権に変更を生じさせる可能性があるため、変更行為に当たり、共有者・共同相続人全員の同意が必要となる。
い 取締役選任→同族会社では変更分類
取締役の選任であっても、同族会社・非公開会社の大部分の株式が共同相続された場合は、変更行為として、全員の同意が必要と解することができる。
誰が取締役になるかによって、後述(278頁、363頁)のように、少数持分権者は剰余金の配当を受けられなくなるなど、共有持分権の内容に変更を生じさせる可能性があるからである。
う 代表取締役選任→非公開会社では変更分類
ア 管理分類否定(変更分類)
非公開会社の代表取締役の選任に関する議決権行使は、実質的に会社の事業承継者の決定を意味し、単なる管理行為とはいえない(以上につき、なお、青竹正一「会社の権利行使の同意と共同相続株式の議決権行使の決定方法」商事2073号(2015)18頁以下)。
イ 軽微変更否定
令和3年4月改正(令和5年4月1日施行)の民法251条1項は、共有物の形状または効用の著しい変更を伴わない軽微変更については、共有者全員の同意を必要とする事項から除外している。
しかし、この改正により、実質的に事業承継者の決定を意味する、同族会社・非公開会社の大部分の株式が共同相続された場合の代表取締役の選任に関する議決権行使が管理行為になるとはいえない。
※青竹正一著『新会社法 第6版』信山社2024年p139
4 「特段の事情」による保存分類→可能性あり
平成27年最判は前述のように、特段の事情がある場合は例外的に変更分類になる、と読める判決文となっています。この点、議案内容が軽いものであれば例外的に管理分類になることもある、と指摘されています。
「特段の事情」による保存分類→可能性あり
※冨上智子稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成27年度』法曹会2018年p36
本記事では、準共有の株式の議決権行使が変更、管理、保存のどれに分類されるか、ということを説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に、相続などにより準共有となっている株式の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。