【「管理」権限者による賃貸借・用益物権設定の範囲(共有者・各種管理人・被保佐人など横断的まとめ)】
1 「管理」権限者による賃貸借・用益物権設定の範囲(共有者・各種管理人・被保佐人など横断的まとめ)
「処分権限はないけれど管理権限だけを持つ者」には、過半数の共有持分を持つ共有者、各種の管理人などがあります。被保佐人も同じような扱いを受けます。
これらの者が賃貸借をする場合、あるいは地上権を設定する場合(要するに貸す場合)、にはそもそもできるかどうか、できるとして上限期間がある、など細かいルールがあります。似ているけれど貸す人によって違いがあるので間違えやすいです。そこで本記事では横断的に貸すことについての制限を比較しつつ整理します。
2 まとめの対象とするルール(貸す人の具体例)
最初に、本記事のまとめの対象とする貸す人を確認しておきます。つまり、処分権限はもっていないけれど管理権限だけもっている人の種類です。
(1)過半数持分権者(改正民法252条4項)
まず、過半数の共有持分をもつ共有者があります。賃貸借ができる範囲、用益物権の設定ができる範囲が、令和3年改正で民法の条文になりました。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借契約の締結の管理行為・変更行為の分類
詳しくはこちら|共有不動産への用益物権設定の変更・管理分類(賃貸借以外・改正民法252条4項)
(2)処分権限を有しない者(民法602条)
次に、「処分権限を有しない者」についても、賃貸借ができる範囲が条文になっています。条文上「処分権限を有しない」としか書いてありませんが、逆に「管理権限はもっている者」ということが前提となっています。
典型例は、不在者財産管理人や相続財産清算人などの各種の管理人です。またたとえば、ある不動産の管理を引き受けたけれど、その委任契約の中で権限の範囲が決まっていない場合にもこれにあてはまります。
民法602条は「管理」権限しかない者ができる賃貸借の範囲、の基本ルールという位置づけです。
詳しくはこちら|処分権限のない者による短期賃貸借(長期賃貸借との判別・民法602条)
(3)強制管理の管理人(民事執行法95条)
不動産からの強制的な債権回収の手段の1つとして、強制管理があります。裁判所が管理人を選任して、この管理人が不動産の賃貸に関する業務を行う、という仕組みです。この管理人も、民事執行法95条で「管理」権限をもつことになっています。
詳しくはこちら|強制管理の管理人の「管理」権限の解釈(基本的意味と含まれる行為)
(4)被保佐人(民法13条)
被保佐人は、文字どおり保佐人が選任されている(あてがわれている)人のことです。被保佐人が単独で(保佐人の同意なく)賃貸借をする場合は、期間制限があります。その上限期間は民法602条(前述)の上限が流用されています。
なお、被保佐人がこの上限を超える賃貸借契約を締結してしまった場合には、その契約が無効になるわけではありません。取消ができる状態になります。契約内容によっては維持する(追認する)ことも可能、という状態になります。
詳しくはこちら|被保佐人が不動産の賃貸借をする場合の制限(保佐人の同意の要否・民法13条)
(5)短期賃貸借保護制度(平成15年改正前民法395条・参考)
ところで、平成15年の民法改正の前までは、短期賃貸借保護制度という悪名高い制度がありました。これは処分権限のない者という概念とは直接関係ありません。ただし、すでに存在している賃貸借について保護するかしないかの判定で、処分権限のない者ができる賃貸借の範囲が使われます。
詳しくはこちら|短期賃貸借保護制度(平成15年改正前民法395条)と借地借家法との関係
以下のまとめでは、必要な範囲で短期賃貸借保護制度も盛り込みます。
3 借地契約→5年の範囲内で有効vs30年だから全体が無効
最初に借地契約、つまり建物所有目的の土地の賃貸借契約を締結するシーンを想定します。
前述の、基本ルールである民法605条では、管理権限しか有しない者ができる賃貸借の上限は5年となっています。
しかし、借地契約は(ごく一部の例外を除いて)借地借家法で最低年数が30年と定められています。
そこで解釈は2つに分かれます。
まず、民法605条の上限が優先となる、つまり借地借家法の最低年数ルールは適用されない、という前提で、5年間の借地契約となる、という解釈です。この解釈を採用するのは民法602条です。
それ以外は逆に、借地借家法の最低年数が適用される結果、5年を超えるので賃貸借はできない(全体として無効)という解釈をとる傾向にあります。
この点、改正前民法395条(短期賃貸借保護制度)に関してはこの中間的な扱いです。まず、期間の定めのない借地契約は、(旧借地法の)法定存続期間が適用されるので5年を超えるため、全体として適用しないことになります。一方、抵当権設定後に締結した期間5年の借地契約については、少なくとも抵当権者との関係では、法的存続期間の適用なし、つまり5年の借地契約として有効、となります。
<借地契約→5年の範囲内で有効vs30年だから全体が無効>
あ 5年の範囲内で有効
・民法602条(処分権限を有しない者)
・改正前民法395条(短期賃貸借保護制度)(5年以下の期間を定めたケース→短期扱い)
い 全体が無効
・民法252条4項(過半数持分権者)
・民事執行法95条(強制管理の管理人)
主だった議論はみあたらない
・民法13条(被保佐人)
全体が無効ではなく、全体が取消可能となる方向性
・改正前民法395条(短期賃貸借保護制度)(期間を定めなかったケース→長期扱い)
4 3年以下・期間の定めなしの建物賃貸借→長期扱いvs短期扱い
次に建物の賃貸借(普通借家)を想定します。前述の、基本ルールである民法605条では、管理権限しか有しない者ができる賃貸借の上限は3年となっています。
そこで、3年以下の期間を定めたケースと期間の定めなしのケースは(3年を超えない、にあてはまるので)形式的には短期扱いとなります。
一方、借地借家法の法定更新のルールが適用されるので、賃借人から契約を終了させない限り、ほぼ確実に3年以上続くことになります。そこで解釈は、長期扱い、短期扱いの2つに分かれます。
まず、民法252条4項に関しては、実質に着目して(原則として)長期扱いという見解が一般的です。民法13条に関しては深い議論はみあたりませんが、長期扱いの見解が有力であると思います。
しかし、それ以外では、形式に着目して短期扱いとします。短期扱いとした場合には現実には長期間継続することが弱点になります。そこで、法定更新や解約申入の際には、正当事由が認められる方向に考慮する、という方針がとられます。つまり契約終了を認める方向に働くということです。
<3年以下・期間の定めなしの建物賃貸借→長期扱いvs短期扱い>
あ 長期扱い
・民法252条4項(過半数持分権者)(例外あり)
・民法13条(被保佐人)
い 短期扱い
ア 短期扱い+正当事由で考慮
・民法602条(処分権限を有しない者)
・民事執行法95条(強制管理の管理人)
・改正前民法395条(短期賃貸借保護制度)(期間の定めなしケース)
イ 短期扱い+法定更新適用なし
・改正前民法395条(短期賃貸借保護制度)(期間の定めありケース→差押後は法定更新の適用なし)
5 5年以下の借地以外の地上権設定→処分扱いvs管理扱い
最後に、5年以下の借地借家法が適用されない地上権の設定を想定します。建物所有以外を目的とする借地権ということになります。たとえば、竹木(樹木)所有の目的や、鉄塔所有の目的、などです。
年数だけみると、民法602条の5年以下にあてはまるので、管理権限だけしかもってない者もできるように思ってしまいます。しかし、民法602条のルールが発動するのは賃貸借限定です。
そもそも地上権のような物権の設定は、その時点で処分行為に該当します。文字どおり、処分権限をもたない(管理権限しかもたない)者が行うことはできません。
ただし、過半数持分権者だけは、令和3年改正でできた民法252条4項で、例外的に、5年以下の地上権設定が認められています。
<5年以下の借地以外の地上権設定→処分扱いvs管理扱い>
あ 処分扱い(原則)
(改正民法252条4項以外)
い 管理扱い(例外)
・改正民法252条4項(過半数持分権者)
本記事では、「管理」権限だけをもつ者が行うことができる賃貸借や用益物権設定の範囲について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有者や各種管理人による賃貸借などに関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。