【第三者の建物買取請求権(無断の借地権譲渡・転貸ケース・借地借家法14条)】

1 第三者の建物買取請求権(無断の借地権譲渡・転貸ケース・借地借家法14条)

借地権(建物所有目的の土地の賃借権)を地主に無断で譲渡した場合や、無断で転貸した場合、地主による借地契約の解除が認められます。
詳しくはこちら|賃借権の譲渡・転貸の基本(賃貸人の承諾が必要・無断譲渡・転貸に対する明渡請求)
この場合、土地の占有権原はないことになるので、借地人は建物を収去して土地を明け渡す義務を負います。ただし、建物買取請求権を使えば、強制的に地主が建物を買い取ることになります。
本記事ではこの建物買取請求権について説明します。

2 第三者の建物買取請求権の条文

最初に、条文の内容を確認しておきます。
旧借地法10条の内容が現在の借地借家法14条として引き継がれています。
条文の内容は単純です。借地人Bが建物(と借地権)をCに譲渡した場合、建物を取得したCは地主Aに対して、建物を買い取るように請求できる、というものです。BではなくCが請求できるのです。地主Aの立場からみると、Cは契約した相手ではない第三者です。そこで第三者の建物買取請求権と呼んでいます。
なお、建物買取請求権はこの条文以外に、期間満了で借地契約が終了する場面で使えるものもあります。
詳しくはこちら|借地期間満了時の建物買取請求権の基本(借地借家法13条)
これは賃借人自身が建物買取請求権を行使するものです。

第三者の建物買取請求権の条文

あ 旧借地法10条

(建物等の取得者の賃貸人に対する買取請求権)
第十条
第三者カ賃借権ノ目的タル土地ノ上ニ存スル建物其ノ他借地権者カ権原ニ因リテ土地ニ附属セシメタル物ヲ取得シタル場合ニ於テ賃貸人カ賃借権ノ譲渡又ハ転貸ヲ承諾セサルトキハ賃貸人ニ対シ時価ヲ以テ建物其ノ他借地権者カ権原ニ因リテ土地ニ附属セシメタル物ヲ買取ルヘキコトヲ請求スルコトヲ得
※借地法10条

い 借地借家法14条

(第三者の建物買取請求権)
第十四条 第三者が賃借権の目的である土地の上の建物その他借地権者が権原によって土地に附属させた物を取得した場合において、借地権設定者が賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、その第三者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原によって土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。
※借地借家法14条

3 第三者の建物買取請求権の制度趣旨

第三者の建物買取請求権を認める趣旨は、建物の収去(解体)を避けるというものです。借地人の立場に着目すると自由に建物(と借地権)を譲渡できないという不都合を救済する、という機能になります。しかし機能として不十分なので、この制度が作られた後に、機能として強力な地主の承諾に代わって裁判所が許可する制度が作られました。
詳しくはこちら|借地権譲渡許可の裁判の趣旨と機能(許可の効力)
そこで現在では不十分な機能である第三者の建物買取請求権を使う場面はとても少なくなっています。逆に、制度として廃止されずに残された制度、という見方もできます。

第三者の建物買取請求権の制度趣旨

あ 原則論=民法612条

借地権者が地上建物を第三者に譲渡しようとする場合には、敷地の利用権原である借地権もともに譲渡・転貸することになるが、賃借権の譲渡・転貸賃貸人の承諾(民612条)がないと、原則として賃貸人に対抗できない。
賃貸人の承諾が得られないにもかかわらず建物とともに賃借権を譲渡すれば、建物譲受人は、賃貸人からの土地所有権に基づく建物収去土地明渡請求に服さざるをえないことになる。

い 原則論の不都合性

これでは、
(a)賃借人が建物を換金したいと思っても買受人が現われないため投下費用の回収ができず、また、
(b)利用可能な建物があたら取り壊されてしまうことになる(国民経済上の損失)。

う 建物買取請求権による不都合の回避

そこで、本条は、建物譲受人が建物を賃貸人に買い取らせることができることにし、(a)(b)の結果を
回避しようとしている。

え 不都合回避手段としての機能不全

もっとも、国民経済的損失の回避といっても、買い取った賃貸人によって建物が取り壊されることまで、本条による建物買取請求権制度が阻止しうるわけではないし、投下費用の回収といっても、建物買取価格に借地権価格が含まれない以上、賃借人の実際に投じた費用の大きな部分はこの制度によっては回収されえないことになる。
投下費用の回収は、本来ならば土地賃借権の処分の自由の承認によって達せられるべきものであり、本条はこの自由が認められないことの埋合わせ(鈴木・借地(下)1294)としての意味を有するにすぎない。

お 承諾に代わる裁判所の許可制度の創設

昭和41年の借地法改正によって賃借権譲渡または転貸についての賃貸人の承諾に代わる許可の裁判の制度(旧法9条ノ2→本法19条)が導入されると、土地賃借権が無断譲渡・転貸され、賃貸借契約が解除される事態は少なくなり、本条の定める買取請求権制度の活躍の場も縮減されることになったが、これはこの間の事情を反映した結果である。

お 現在でこの制度が機能する局面→例外的

いずれにせよ、現在では、土地賃借人が許可の裁判を申し立てず、または、申し立てたが棄却されたのに、賃借権譲渡・転貸を強行して、賃貸借契約を解除されたという例外的ケースにのみ、本条が適用されることになるのである(鈴木・借地(下)1296参照)。

か 旧法の踏襲

なお、本条は、旧法10条の規定内容を口語化してそのまま受け継ぐものであり、改正に際して変更された点はない。
※山本豊稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第4版』日本評論社2019年p108、109

4 建物買取請求権を行使する要件としての登記

建物の譲渡を受けた者(取得した者・第三者)が地主に対して建物買取請求権を行使する場合、その前提として建物の所有権登記が必要であるという解釈が一般的です。地主の立場からみると、建物を取得した者は契約した相手ではない、つまり知らない人なので「私が建物を取得しました」ということの公的な裏付けがないと安心できない、というような考え方です。

建物買取請求権を行使する要件としての登記

あ 建物→本登記が必要

建物取得者が本条の買取請求権を行使しうるためには、建物所有権移転の対抗要件を備えることを要する
仮登記を経由しただけでは足りないと解される。

い 建物以外→建物登記で足りる

建物以外の物件については、引渡しが対抗要件になるが、それらの物件が建物とともに取得された場合には、建物所有権移転の登記がその他の物件についての対抗要件をも兼ねると解してよい(鈴木=生態・新版注民(15)578)。
※山本豊稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第4版』日本評論社2019年p111

5 建物買取請求における代金算定(概要)

建物買取請求権を行使すると、強制的に地主が建物を買い取ることになります。そこで代金(金額)は建物の価値がベースとなります。借地権価格は含みません。ただ、場所的利益分の加算はなされます。
詳しくはこちら|建物買取請求における代金算定方法・場所的利益の意味と相場

6 建物買取請求権行使の効果→売買(概要)

建物買取請求権の行使が認められた場合、文字どおり、地主が建物を買い取ることになります。法律的には売買と同じ扱いとなります。理論的な詳しい効果については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物買取請求権行使の効果(同時履行・代金提供前の使用対価支払義務)

7 解除との関係→内容によって異なる

(1)無断譲渡による解除・合意解除→建物買取請求可能

前述のように、地主に無断で借地権譲渡や転貸が行われた場合、地主は借地契約を解除することができます。では借地契約が解除され、終了したのだから建物買取請求権は使えなくなるのではないか、という発想も出てきます。しかし、この制度はまさに地主が承諾しない場合に借地人側を救済する趣旨のものですので、ここで機能しないと意味がありません。無断譲渡による解除があっても建物買取請求権は行使可能です。
次に、地主Aと借地人Bが合意解除をした場合に、それによってCが建物買取請求権を行使できなくなるのは不合理です。そこでこの場合のCも、建物買取請求権を行使することができます。

無断譲渡による解除・合意解除→建物買取請求可能

すなわち無断譲渡を理由とする解除や賃貸人と賃借人(地上建物等の譲渡人)との合意解除によって賃借権が消滅する場合には、それによって買取請求権が消滅することはない
(無断譲渡解除につき大判昭14.8.24民集18-877、合意解除につき最判昭48.9.7民集27-8-907)。
※山本豊稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第4版』日本評論社2019年p112

(2)地代不払による債務不履行解除→建物買取請求不可

借地契約が地代の不払いによって(債務不履行として)解除された場合は、借地人サイドを救済する必要はなくなったと考えられます。そこでこの場合には建物買取請求権は否定されます。

地代不払による債務不履行解除→建物買取請求不可

しかし、賃借人(地上建物等の譲渡人)の賃料不払いを理由とする契約解除によって賃借権が消滅する場合には、買取請求権は消滅する(最判昭33.4.8民集12-5-689)。
※山本豊稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第4版』日本評論社2019年p112

8 明渡請求の認容判決確定後→建物買取請求可能(既判力対象外)

(1)建物買取請求権の行使が遅くなる構造(前提)

実際に建物買取請求権が使われる状況は、地主からの明渡請求のカウンターという位置づけです。具体的には、地主が「無断譲渡による明渡請求」を主張し、これに対して借地人サイドは承諾があった、承諾がないとしても解除できない(信頼関係破壊はない)と主張するという対立が典型です。
借地人サイドが建物買取請求権を行使するということは、自身の主張が認められず、地主の明渡請求が認められることが前提ということになります。そこで、最初から建物買取請求権を主張することは避けることが多いです。
たとえば訴訟の中で建物買取請求権の主張をするとしても、終盤で予備的に主張を追加する、ということがよくあるのです。

(2)判決確定後の建物買取請求権行使→可能(既判力対象外)

地主が明渡請求訴訟を提起して、裁判所が解除を認め、建物収去土地明渡請求を認める判決が確定した段階まで進んだ場合にでも、建物買取請求権の行使はできるでしょうか。手続としては、地主Aが勝訴判決によって強制執行をしてきたのに対して、建物所有者Cがカウンターとして建物買取請求権を行使し、請求異議訴訟を提起した、という状況です。
これについては、借地人による建物買取請求権に関してこのような行使を認める最高裁判例があります。第三者による建物買取請求権にも判例理論が当てはまると思われます。

判決確定後の建物買取請求権行使→可能(既判力対象外)

(2)建物等の譲受人が、建物につき本条に基づく建物買取請求権を行使しないまま、建物収去土地明渡しを命ずる判決を受け、同判決が確定した場合でも、譲受人は、その後に建物買取請求権を行使し、その効果を確定判決に対する請求異議の事由として主張することができる(旧法4条2項に関する最判平7.12.15民集49-10-3051を参照。学説上の肯定説として、たとえば我妻・各論中一491、星野借地借家362。否定説として、たとえば鈴木・借地(下)1317以下)。
※山本豊稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第4版』日本評論社2019年p114、115

9 建物買取請求権の期間制限→一般的消滅時効(5年か10年)

以上のように、建物買取請求権の行使が遅くなる構造、傾向がありますが、限界もあります。一般的な消滅時効が適用されるので、5年または10年で建物買取請求権は消滅します。

建物買取請求権の期間制限→一般的消滅時効(5年か10年)

本条による買取請求権は、形成権であるが、一般の債権の消滅時効の規律に服する(最判昭42.7.20民集21-6-1601)。
したがって、権利を行使することができることを知った時から5年、または権利を行使することができる時から10年の経過により、時効により消滅する(改正民166条1項)。
※山本豊稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第4版』日本評論社2019年p115

本記事では、第三者の建物買取請求権について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地上の建物の譲渡(売却)や転貸による土地の明渡請求に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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