【共有者間で合意した使用対価(償還義務)の増減額請求】
1 共有者間で合意した使用対価(償還義務)の増減額請求
共有者の間で、共有不動産を使用する対価を合意する、つまり毎月(毎年)支払う金額を決めておくことがあります。実質的な賃料といえます。その後、近隣の賃料相場から外れることになった場合、金額を変更することが考えられます。
共有者の間で合意できればよいですが、合意に至らない場合に、増減額請求が認められるか、という問題があります。
本記事ではこれについて説明します。
2 設例・共有者Aだけが共有土地を使用する合意
最初に、事案を整理しておきます。土地の共有者ABのうち、Aだけが土地を使う、その代わりAがBに毎月50万円の使用対価を支払うと合意した、という事案です。その後、近隣相場がアップして現在では毎月80万円が妥当といえる状態になりました。
<設例・共有者Aだけが共有土地を使用する合意>
この土地の賃料相場は100万円である
AB間で「土地にAが建物をたてて使用する、AがBに使用対価として月50万円を支払う」と合意した
その後、土地をAだけが占有(使用収益)している
長期間が経過して、賃料相場が160万円となった
Bとしては毎月の支払額を80万円にしてほしい
3 法的な理解→償還義務(民法249条2項)の合意(前提)
(1)償還義務(民法249条2項)の合意
最初に、AB間の合意の法的性質を整理しておきます。共有者Aだけが共有物を使う場合、共有者Bは使えないので、その分を補償する、つまり対価を支払う義務があります。令和3年改正前は不当利得や不法行為の損害賠償でしたが、現在では民法249条2項の償還義務ということになります。
つまり本設例のABの合意は償還義務に関する合意といえます。
詳しくはこちら|単独で使用する共有者に対する償還請求(民法249条2項)
(2)「共有持分の賃貸借」→「物」ではないので否定
この点、Bが「Bの共有持分」をAに貸して対価をもらっているので賃貸借ではないか、という発想があります。しかし賃貸借は対象(目的物)が「物」であり「引き渡し」をすることが前提です。「共有持分権」は「物」ではないし「引き渡し」もできません。賃貸借に準じる関係とはいえても、賃貸借そのものにはあたりません。
詳しくはこちら|共有持分権を対象とする処分(譲渡・用益権設定・使用貸借・担保設定)
(3)「土地の」賃貸借→混同により否定
では、「土地」を対象とする賃貸借、とはいえないでしょうか。この場合、賃借人であるAは、所有者(共有者)であるため、「自分の所有物を借りた」状態となります。使用させる義務を負う立場と、使用できる権利をもつ立場の両方にあたる、ということになります。そこで、債権の混同(民法520条)により、成り立ちません。
以上のように、AB間の合意は「賃貸借」ではなく「共有物の使用方法の合意」と「償還義務(金額)の合意」ということになります。
4 合意金額が相場から外れた場合の増減額請求
(1)借地借家法の賃料増減額請求→直接適用否定
一般論として、不動産の毎月の使用対価が相場から外れた場合、借地借家法の賃料増減額請求を使うことができます。
この点、本設例は前述のように土地の「賃貸借」ではありません。借地借家法は適用されません。借地借家法のルールの中の1つである賃料増減額請求をそのまま使うことはできません。
(2)慣習または事情変更の原則による賃料増減額請求
ところで、借地借家法の前身の借地法、借家法で賃料増減額の規定が作られるよりも前から、賃料増減額請求は認められていました。認める根拠は慣習(民法92条や法例2条)でした。その背景(実質的根拠)には事情変更の原則がありました。
本設例でも、慣習による賃料増減額請求、または、事情変更の原則による賃料増減額請求が認められる可能性はあります。
詳しくはこちら|借地借家法の適用がない賃貸借における賃料増減額請求
(3)借地借家法の賃料増減額請求の類推適用
本設例は前述のように「土地の賃貸借」にはあたりません。ただし、土地の使用の対価が支払われているとは評価できるので、実質は土地の賃貸借と同じといえます。そこで、借地借家法の賃料増減額請求の規定を類推適用することが認められる可能性もあると思います。
詳しくはこちら|借地借家法の適用がない賃貸借における賃料増減額請求
5 借地借家法の賃料減額請求の適用を認めた裁判例
以上のように、共有者間で合意した使用対価の金額の増減額の理論面は単純ではありません。しかし、実際にこれが問題となったケースで裁判所が何もなかったかのように、「共有持分の賃貸借」を認めた上で、借地借家法の賃料減額請求を適用した実例があります。ただ、前述のような理論面について対立や審理がなされたとは読み取れません。
事案内容は、月額の対価が当初6124万2500円であったところ、裁判所が5490万円への減額を認めたという規模の大きいものですが、前述の理論面については当事者が主張してなかったので裁判所の踏み込まなかっただけ、かもしれません。
借地借家法の賃料減額請求の適用を認めた裁判例
あ 共有持分の賃貸→認めた
イ 原告と被告は、平成15年12月ころまでに、本件建物におけるホテル事業に関し、次の事項について合意するに至った。
(ア)被告は、原告に対し、本件建物のうちホテルとして使用する部分に係る共有持分を賃貸する。
・・・
い 借地借家法(賃料減額請求)の適用→認めた
2 反訴について
(1)争点(1)ア(本件反訴の適法性)について
本件本訴は、原告が、被告に対し、借地借家法32条1項に基づく賃料減額請求権を行使したと主張して、本件賃貸借契約における減額された賃料額の確認を求めるものであるところ、本件反訴は、被告が、原告に対し、本件合意に基づき、本件賃貸借契約における1年目の賃料と支払賃料との差額の支払を求めるものである。
そうすると、本件本訴と本件反訴は、本件賃貸借契約という同一の契約に基づく賃料に関する請求を目的とするものである上、後記4(1)のとおり、本件本訴において、原告による賃料減額請求の当否及び相当な賃料額の判断には、本件賃貸借契約において賃料額が決定されるに至った経緯等を考慮する必要があるところ、本件反訴の請求原因事実である本件合意も賃料額の決定される過程における事実であることを考慮すれば、本件反訴は、本件本訴の目的である請求と関連する請求を目的とするものであるといえる。
よって、本件反訴は、適法である。
※東京地判平成25年10月9日
本記事では、共有者間で合意した使用対価の増減額請求について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産の使用やその対価(金額)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。