【平成29年民法改正による瑕疵担保責任から契約不適合責任への変化(性質・用語)】
1 平成29年民法改正による瑕疵担保責任から契約不適合責任への変化(性質・用語)
平成29年の民法改正で売買のルールの中の瑕疵担保責任が契約不適合責任に変わりました。実際のケースでこの責任を使う場面では、改正前後でほとんど変わらないこともあれば、違いが大きいこともあります。いずれにしても基本構造ともいえる、法的性質や用語レベルでの変化を理解しておくことが、個々の案件で適切なアクションを選択することにつながります。
本記事では、瑕疵担保責任から契約不適合責任への変化に関して、法的性質や用語に着目して説明します。
2 責任の性質→債務不履行責任に一元化
改正前の瑕疵担保責任の法的性質については、法定責任と債務不履行責任という2つの考え方があって、統一的見解はありませんでした。
この点、改正後は債務不履行責任を採用する、ということで統一されました。文字どおり「債務」の不履行によって発生する責任、という意味です。責任が発生するかどうかの判定のキモは「債務」の内容です。要するに、契約(合意)の内容です。
この点、「瑕疵」という概念(意味)は客観的に平均的性能よりも低い、というような意味です。
詳しくはこちら|『瑕疵』の意味・品質や性状の基準・種類(物理・法律・心理的)
このように、法的性質は、責任の有無の判定に直結するのです。
責任の性質→債務不履行責任に一元化
あ 法的責任説・債務不履行責任説の対立(改正前)
[第2款の改正条文に関する前注的解説]
売主の対抗要件具備義務(新560条)、目的物の滅失等についての危険の移転(新567条)、買主の代金支払に関連する規定(新567条新577条)を設け、他人の権利の売買における売主の義務(新561条)を改正した。
売主の担保責任、特に瑕疵担保責任に関しては、法定責任説と契約責任説の対立があったが、次第に、契約上の義務に違反した場合には、債務不履行責任が発生するとする考え方が有力になっていた(「国際物品売買契約に関する国連条約」参照)。改正法は、この流れの中で理解すべきであろう。
い 平成29年改正→債務不履行責任に一元化
その結果、改正法では、従来の権利の瑕疵に関する担保責任と瑕疵担保責任は、債務不履行責任として一元化され、・・・その結果、従来は、何が「瑕疵」であるかが重要であったが、新法下では、何が「契約内容」であるかが重要になるといわれている。
※我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p1218
3 平成29年改正による具体的規定の整理
平成29年改正では、具体的な条文(規定)についても実質的に重複するものを排除するなど、分かりやすく整理されました。
契約不適合責任の主な中身は4つです。そのうちの2つ、追完請求権と代金減額請求権はそれぞれ1つの条文となっています。
残る2つ、損害賠償請求権と解除は、「売買」に限らない「債務不履行」の一般ルールが条文として存在するので、この2つについては新たな(売買専用の)条文は作らない(改正前条文を削除する)ことになりました。
このように、具体的な条文のセッティングの場面でも、債務不履行のパターンの1つという位置づけが反映されています。
平成29年改正による具体的規定の整理
あ 追完請求・代金減額請求→売買プロパー条文化
そのうえで、具体的には、
買主の追完請求権(新562条)、
買主の代金減額請求権(新563条)を規定した。・・・
い 損害賠償・解除→売買プロパー条文なし
なお、損害賠償や解除については、売買に関する特則を置かず、債務不履行の一般規定に任せられた(新564条で準用)。
※我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p1218
4 「担保責任」の用語→改正後も使う
(1)「担保責任」の用語→意味なし説・意味あり説
以上のように、平成29年改正で「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」に変化したので、「担保責任」の用語はもう使わない、と思ってしまいますが、そうではありません。日本語レベルで、「売主が担保する責任」という意味で、この意味は改正後もあてはまります。
「担保責任」の用語→意味なし説・意味あり説
あ 改正後の継続使用
「担保責任」の語の使用
現行民法は、改正前民法に引き続いて、「担保責任」の語を用いている。
売主の担保責任(garantie)とは、もともとは、売買の目的物を買主が他から追奪されることや、目的物に隠れた欠陥があることについて、売主が担保する責任である(フ民1625条以下参照。ボワソナードの理解との関係につき、森田宏樹「瑕疵担保責任に関する基礎的考察(1)」法協107巻2号〔1990〕1頁・8頁以下)。
い 「担保責任」意味なし説(参考)
これに対し、現行民法では、担保責任は解体され、債務不履行責任に一元化されているので、「担保責任」というカテゴリーは特別の意味をもたなくなったという評価もある(潮見85頁、潮見新各I115頁以下)。
う 「担保責任」の意義→債務不履行の典型類型
他方、一般的にいえば、担保責任の規定には、各種の典型契約の特質に応じて、紛争が生じやすい類型の債務不履行について、その時代・社会の取引状況に適合したデフォルト・ルールを設定するという意味がある。その観点から、この言葉を存置する選択を説明することができるだろう。
※中田裕康著『契約法 新版』有斐閣2021年p300
(2)「担保責任」を使わざるを得ない状況
実は「担保責任」の用語を使わざるを得ない状況は、純粋な売買ではなく、売買と同じ扱いとなるアクションの時に現れます。共有物分割や借地における建物買取請求です。これらの場合は契約(合意)ではなく、一方的意思表示や裁判所の判決として売買と同じ扱いをすることがあります。しかし「担保責任」は適用されます。契約ではないので「契約不適合責任が適用されます」とストレートにいえないのです。
詳しくはこちら|共有物分割の法的性質と契約不適合責任(瑕疵担保責任)
詳しくはこちら|建物買取請求の時価算定における負担の扱い(賃借権・担保権・仮登記)
5 「瑕疵」の用語→改正後は使わない
以上のように「担保責任」は改正後も生き続けていますが、「瑕疵」の方はどうでしょうか。「瑕疵」とは、客観的に一定の性能をもっていないというような意味です。
詳しくはこちら|『瑕疵』の意味・品質や性状の基準・種類(物理・法律・心理的)
前述のように、改正後は、責任発生の要件(判定)は、「客観的」な基準を使うのではなく、「契約内容」が基準となります。そこで「瑕疵」という用語自体が使われないことになっています。
もちろん、「瑕疵」の意味を「契約内容に合わない」と定義すればそのまま使えます。実際に民法以外の法律でそのような手当がなされたものもあります(後述)。ただ、「瑕疵」という言葉自体が難解であることもあり、改正後は少なくとも民法の条文では使われていません。
「瑕疵」の用語→改正後は使わない
あ 改正前→「瑕疵」の使用(前提)
「瑕疵」の語の不使用
改正前民法のもとの学説は、売主の担保責任の内容として「権利の瑕疵」と「物の瑕疵」があると述べ(我妻中I273頁以下など)、条文上も、「売買の目的物に隠れた瑕疵があったとき」について「売主の瑕疵担保責任」が定められていた(旧570条)。
い 改正後→「瑕疵」の使用なし
現行民法は、担保責任に関して、「瑕疵」の語を用いない。
これは、「瑕疵」という言葉が難解であること、この語は契約と切り離された客観的な基準によるものとして理解される可能性があること、この語からは物理的な欠陥のみが想起され、心理的・環境的瑕疵も含まれうることがわかりにくいこと、むしろ規律の内容を具体的に明らかにして示す方が望ましいと考えられることによる(中間試案説明399頁以下、部会資料75A、第3、2説明2(1)ウ、一問一答275頁)。
※中田裕康著『契約法 新版』有斐閣2021年p300、301
6 「瑕疵担保責任」→「契約不適合責任」に近いが同一ではない
以上のように、平成29年改正で「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」に変わりましたが、全体として比べるとどうでしょうか。前述のように、責任発生の要件(判断基準)が客観的基準から契約内容基準に変わりました。大雑把にいえば欠陥が発覚した場合に売主が責任を負う、ということで実際のケースの結論が極端に違うことはあまりありませんが、完全一致ではないことも間違いありません。
具体例を挙げると、改正前は瑕疵(欠陥)が隠れていたかどうかで責任の有無を判定していましたが、改正後は、欠陥が契約内容と合っているかどうかで判定する、というものがあります。
「瑕疵担保責任」→「契約不適合責任」に近いが同一ではない
※中田裕康著『契約法 新版』有斐閣2021年p301
7 各種法律における用語の整備
以上のように平成27年の民法改正で用語も含めて制度が変わったので、民法以外の法律でも旧ルールを前提としていた条文に手当をする必要がありました。「瑕疵」という用語から「契約の内容に適合しない」と、読めばすぐ分かるように直すものや、「瑕疵」という用語は維持しつつ、定義の規定を作る、という対応をしたものがあります。
各種法律における用語の整備
あ 「瑕疵」をなくす対応
今回の改正に伴う整備としては、
「瑕疵」を「種類又は品質に関して契約の内容に適合しないこと」と改める例(2017年改正後商526条2項)や、
い 「瑕疵」の定義を作る対応
ア 対応
「瑕疵」の定義を置いたうえ、「瑕疵担保責任」の語を存置する例がある(2017年改正後住宅品質2条5項・同法第7章。潮見・改正233頁参照)。
※中田裕康著『契約法 新版』有斐閣2021年p301
イ 品確法の条文
この法律において「瑕疵」とは、種類又は品質に関して契約の内容に適合しない状態をいう。
※住宅品確法2条5項
本記事では、平成29年民法改正による瑕疵担保責任から契約不適合責任への変化について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に売買契約その他の場面で発覚した欠陥(担保責任)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。