【成立した共有物分割の解消(無効・取消・解除・詐害行為取消)】

1 成立した共有物分割の解消(無効・取消・解除・詐害行為取消)

共有物分割がいったん成立した後に、状況が変わったり、想定外の事情が発覚したため、共有物分割を解消したい(やり直したい)と考えることもあります。
本記事では、成立した共有物分割の解消について説明します。

2 共有者全員の合意なし→無効(不成立)

仮に、共有者全員で合意した後に、実はもう1人共有者が存在したことが発覚したようなケースもあります。このケースは、実は共有物分割の協議、合意の参加者が共有者全員ではなかったということです。そこで共有物分割は無効となります。正確には、そもそも共有物分割の合意が成立していないということになります。
詳しくはこちら|共有物分割(訴訟)の当事者(共同訴訟形態)と持分割合の特定

3 共有物分割の意思表示(合意)の瑕疵→無効・取消

共有者全員が共有物分割の合意をすれば成立しますが、この合意は法律行為ですので、法律行為の基本ルールである意思表示の瑕疵、具体的には錯誤・詐欺・強迫があった場合に取消ができる、というルールが適用されます。取消がなされれば、共有物分割の合意は解消されます。
このことは遺産分割の場合と同じです。
詳しくはこちら|成立した遺産分割協議が無効となる状況(多くのパターン)

4 利益相反による無効

たとえば、共有者ABCのうちAとBが未成年者で、親権者DがAとBの代理人としてDとの間で合意して共有物分割を成立させたケースを想定します。この場合、AとBは利害が対立するので、本来、Dが2人の代理人を兼ねることはできず、特別代理人を選任する必要がありました。既に合意した内容(共有物分割)は無効となります。
これも、遺産分割の場合と同じです。
詳しくはこちら|成立した遺産分割協議が無効となる状況(多くのパターン)

5 共有物分割の合意の債務不履行解除→否定方向

(1)遺産分割の債務不履行解除→否定(前提)

ところで、遺産分割について、判例は債務不履行解除を否定しています。解除を否定する理由は、遺産分割はには遡及効があることや、売買とは違う性質があること、対象財産(遺産)が多種多量であることが指摘されています。これらの事情は共有物分割にはあてはまりません。ただ、だからといって共有物分割では債務不履行解除が適用されるかどうかは別です(後述)。

遺産分割の債務不履行解除→否定(前提)

(注・最判平成元年2月9日について)
遺産分割協議は、遡及効のない民法二五八条一項所定の共有物の分割協議と異なり、民法九〇九条本文(分割の遡及効)の規定に照らし、相続の時に遡って相続人らの遺産に対する権利の帰属をいわば創設的に定める相続人間の一種特別の合意であり、たとえその協議において法定相続分の割合と異なる分割を定めた場合であっても、その協議は、贈与、交換、売買、和解、あるいは権利の放棄等の一つ、又は数個の行為が合わさったものとみるべきではない。
・・・
しかも、このように解さないと、共有物の分割協議と異なり、多種多量の財産からなる遺産分割の繰返しを余儀なくされ、法律関係も複雑になり、法的安定性を害して妥当でない。
※河野信夫稿『遺産分割協議と民法五四一条による解除の可否』/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成元年度』法曹会1991年p6、7
詳しくはこちら|遺産分割が当初から無効とはならないケース(2重課税あり)

(2)共有物分割の債務不履行解除→否定方向

前述のように、遺産分割については債務不履行解除を否定する判例があるのですが、共有物分割の債務不履行についての判例はみあたりません。
共有物分割も似ている手続なので、遺産分割と同じように債務不履行解除が否定されるという発想もあります。
仮に、債務不履行解除を認めるとした場合でも、債務不履行が生じたのが特定人間である場合に共有物分割の全体を解除するのは不合理なのでこれはできないと思われます。たとえばAがBに賠償金を支払う、Cは賠償金を支払うことも受領することもない(不動産の現物を取得しただけ)、というようなケースです。
逆に、共有者ABのうちAが共有物を取得した(全面的価格賠償)ケースでは、法的にも実質的にも売買そのものなので債務不履行解除は可能であると考えるべきだと思います。

共有物分割の債務不履行解除→否定方向

あ 遺産分割の債務不履行解除→否定(前提)

また、遺産分割の合意において、相続人間で約束された金銭の支払がされなかった場合に、債務不履行解除は否定されている(最判平元・2・9民集43巻2号1頁)。

い 共有物分割の債務不履行解除

ア 賠償金不払による解除→否定方向 これは、共有物分割一般に当てはまり、全面的ないし部分的価額賠償が合意されたが、合意された補償金が支払われなくても、契約解除はできないことになる。
イ (解除肯定の場合)特定人間の債務不履行による解除→否定 解除を認めても、解除権不可分の原則(544条)があるため、特定人間で債務不履行があっても遺産分割の解除はできない
(注・遺産分割・共有物分割に共通する解釈であると思われる)
※平野裕之著『物権法 第2版』日本評論社2022年p381

(3)共有物分割合意の担保責任による解除→肯定(参考)

ところで「解除」には債務不履行による解除とは別に、担保責任(契約不適合責任)としての解除があります。共有物分割の合意について、担保責任としての解除は認める見解が一般的です。
詳しくはこちら|共有物分割の法的性質と契約不適合責任(瑕疵担保責任)
ところで、平成29年の民法改正で担保責任としての解除と債務不履行による解除の性質は同じとする扱いに統一されています。
詳しくはこちら|平成29年民法改正による瑕疵担保責任から契約不適合責任への変化(性質・用語)
2種類の解除は同じ性質なのに適用範囲が違うという結論でよいのか、という疑問が残ります。

(4)共有物分割合意成立後の再度の分割(参考)

たとえば、全面的価格賠償の共有物分割が成立した後に、賠償金を支払う義務がある者(現物取得者)が賠償金を支払わない場合には困ったことになります。また、共有者全員で共有不動産を第三者に売却する合意をした後に、実際の売却まで進まない、というケースもあります。
このようなケースでは、改めて共有物分割(訴訟)をしたいという状況になることがあります。具体的状況によっては、これが認められることになります。つまり、実質的に最初の共有物分割を解消したのと同じ扱いです。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有物分割訴訟の協議前置の要件(協議がととのわない)

6 共有物分割に対する詐害行為取消権行使→肯定

(1)遺産分割に対する詐害行為取消→肯定(参考)

遺産分割については、いったん成立した後に当事者(相続人)ではなく、その債権者が、詐害行為として取り消すことが認められています。平成11年最判がこれを認めたのですが、それまでは身分行為の性質と関わることから否定する見解もあったのです。結論としては、遺産分割も財産権を目的とする行為にあてはまるので詐害行為取消を認めたのです。
詳しくはこちら|成立した遺産分割協議が無効となる状況(多くのパターン)

(2)共有物分割に対する詐害行為取消→肯定

成立した共有物分割を詐害行為として取り消すことはどうでしょうか。遺産分割のように身分行為との関係はありません。ストレートに認めることで問題ないと思われます。

共有物分割に対する詐害行為取消→肯定

(注・「分割協議(合意)の法的規律」として)
なお、遺産分割も詐害行為取消しの対象とされており(最判平11・6・11民集53巻5号898頁)、遺産分割以外の共有物分割も同様に考えてよい。
※平野裕之著『物権法 第2版』日本評論社2022年p381

7 判決による共有物分割の解消→否定

以上で説明したのは、共有物分割が共有者全員の合意によって成立したことが前提です。共有物分割訴訟の判決として分割が成立した(判決が確定した)場合には、これを解消することは通常できません。
これは判決一般のルールです。特殊な事情があれば再審として確定判決が取り消されることもありますが、よほどのことがないと認められません。
共有物分割に関する議論としては、平成29年改正前の瑕疵担保責任としての解除に関して、判決を解除することを否定する見解が一般的でした。
詳しくはこちら|共有物分割の法的性質と契約不適合責任(瑕疵担保責任)
この見解は債務不履行解除にもあてはまると思います。
なお、瑕疵担保責任は平成29年の民法改正で契約不適合責任となり、法的性質は債務不履行責任に統一されました。現在では、(純粋な)債務不履行解除も契約不適合責任(担保責任)としての解除も同じ性質になっています。
詳しくはこちら|平成29年民法改正による瑕疵担保責任から契約不適合責任への変化(性質・用語)

8 訴訟上の和解の無効や解除の手続(概要)

単純な共有者全員の合意ではなく、訴訟上の和解として、共有者全員が共有物分割の合意をした場合でも、その合意(共有物分割)が無効となることはありますし、また解除できることもあります。

(1)訴訟上の和解の無効を主張する手続

まず、訴訟上の和解の無効を主張する場合は、期日指定の申立など、何らかの裁判所の手続をとることが必要になります。
詳しくはこちら|訴訟上の和解の無効を主張する手続(期日指定申立など)

ただし、裁判所が関与して意思確認を十分にして和解が成立しているので、最終的に和解が無効とは認められない傾向が強いです。

(2)訴訟上の和解の解除を主張する手続

一般論として、訴訟上の和解についても、一般的な合意と同じように、債務不履行などによる解除は可能です。解除した場合は元の裁判が復活するわけではないので、(当事者間で解決しなければ)新たな訴訟を提起することになります。
詳しくはこちら|訴訟上の和解の解除(債務不履行解除・解除条件)を主張する手続

ただし、前述のように、共有物分割の合意に関してはそもそも、解除できる状況は限られています。

本記事では、成立した共有物分割の解消について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有物分割など、共有不動産(共有物)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【独身専用パーティーへの既婚者参加による違約金】
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