【準共有の追認権行使の法的扱い(不可分帰属・準共有の処分)】

1 準共有の追認権行使の法的扱い(不可分帰属・準共有の処分)

追認権を複数人でもっている状態、つまり準共有となっている場合、その行使は準共有者の過半数で行うことはできず、全員で行う必要があります。つまり、「共有物の変更、処分行為」に分類される行為の1つとなっているのです。
詳しくはこちら|共有物の変更行為と処分行為の内容
本記事ではこれに関する判例、理論を説明します。

2 無権代理の追認権→不可分・処分分類

(1)平成5年最判・不可分帰属・全員共同が必要

平成5年最判は、無権代理行為の追認権の準共有の場合に、これを行使するには準共有者全員で行使する必要がある、と判断しました。理由として、不可分的に帰属することと、効力がない法律行為を有効なものに変えるという効果を挙げています。なお、平成5年最判の判断には信義則による追認しないことが信義則違反になる、という話しも出てきますが本記事のテーマとは関係ないので説明は省略します。

平成5年最判・不可分帰属・全員共同が必要

あ 不可分帰属

無権代理人が本人を他の相続人と共に共同相続した場合において、無権代理行為を追認する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属するところ、

い 効果→効力なしから有効への変化

無権代理行為の追認は、本人に対して効力を生じていなかった法律行為を本人に対する関係において有効なものにするという効果を生じさせるものであるから、

う 結論→全員共同が必要

共同相続人全員が共同してこれを行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではないと解すべきである。

え 信義則による制限(参考)

そうすると、他の共同相続人全員が無権代理行為の追認をしている場合に無権代理人が追認を拒絶することは信義則上許されないとしても、他の共同相続人全員の追認がない限り、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部分においても、当然に有効となるものではない。
※最判平成5年1月21日

(2)判例解説・理由は地位の併存と追認権の性質

平成5年最判の判例解説は、判例が理由として挙げている、地位の併存追認権の性質の2つについて説明を加えています。地位の併存については追認しないことが許容されるかどうかというテーマに関するので本記事のテーマから外れます。
もうひとつの追認権の性質の説明の中で、民法251条を指摘しています。要するに、追認権の行使は、「共有物(準共有の権利)の変更・処分」に分類される、という説明です。

判例解説・理由は地位の併存と追認権の性質

あ 地位の併存

無権代理行為がされた後に本人が死亡して相続が開始する場合、その相続の対象は、本人が有していた無権代理行為の追認ないし追認拒絶をなし得る地位であり、本人が追認をして有効となった後の無権代理行為から発生する債権ないし債務自体ではない。
この点にかんがみれば、無権代理人は、無権代理人としての地位(民法一一七条の責任のある地位)と、他の共同相続人と共に本人から相続により承継取得した本人としての地位(追認ないし追認拒絶をなし得る地位)とを、相続開始後においても、併有するものというべきである(地位の併存)。
したがって、右の相続により、無権代理人の相続分に相当する部分においても、無権代理人としての地位と本人としての地位は融合しない、すなわち無権代理行為は右の部分においても相続によって当然に有効となることはないものと解すべきである。
※井上繁規稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成5年度』法曹会1996年p90

い 追認権の性質→準共有・処分的効果

無権代理人を含む共同相続人が、本人の有していた無権代理行為の追認権(注七)を共同で不可分的に承継取得する場合には、追認権の準共有関係が生じる(民法二六四条)。
そして、追認は未確定的無効を有効化するという処分的効果を生じさせるものであるから、無権代理行為を有効とするには無権代理人を含む共同相続人全員の同意が必要であり(同法二五一条)、共同相続人全員の同意があってはじめて無権代理行為は有効となるものであり、一人でも反対すれば追認の効果は生じない。
※井上繁規稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成5年度』法曹会1996年p90、91

う 平成5年最判の読み取り→地位の併存+追認権の性質

本判決も、右に考察した地位の併存及び追認権の性質にかんがみ、無権代理人を含む共同相続人全員の追認がない限り、無権代理行為は無権代理人の相続分に相当する部分においても当然に有効となるものではないとの見解に立って、無権代理行為たる本件連帯保証契約は、無権代理人の相続分に相当する部分(二分の一)においても当然に有効とはならない旨を明らかにして、Xの請求を棄却したものと解される。
※井上繁規稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成5年度』法曹会1996年p91

(3)平野裕之氏見解・不可分性よりも共有物の処分

平成5年最判について、平野氏は、不可分性よりも共有物の処分にあたることが理由である、という指摘をしています。不可分性の方は理由として不要だった、という意図かもしれません。いずれにしても全員で行使する必要があるという結論には賛同していると思われます。

平野裕之氏見解・不可分性よりも共有物の処分

追認権の不可分性を根拠にしているが、むしろ追認は共有物の処分になるという、共有物の問題として説明すべきであろう。
※平野裕之稿/能見善久ほか編『論点体系 判例民法2 第3版』第一法規2019年p348

3 保証契約の追認権→不可分帰属

次に、(無権代理ではなく)保証契約の追認権について、平野氏は不可分的に帰属する、という見解をとっています。結論としては準共有者全員で行使する必要がある、という見解です。

保証契約の追認権→不可分帰属

保証契約の追認権は、契約上の地位と同様に1つであり全員に不可分的に帰属する。
※平野裕之著『物権法 第2版』日本評論社2022年p391

本記事では、準共有の追認権行使の法的扱いについて説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に相続により不動産などの財産や権利(契約上の地位)を複数人で有していることに関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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