【善意占有者の果実収取権(民法189条)】

1 善意占有者の果実収取権(民法189条)

民法189条に、善意占有者の果実収取権が規定されています。とても抽象的で一見わかりにくい規定ですが、(だからこそ)多くの場面で使えるものです。
本記事では、善意占有者の果実収取権の基本的内容を説明します。

2 民法189条の条文

最初に条文を確認しておきます。1項がメインのルールです。善意の占有者は、果実を取得する、というとてもシンプルなことしか書いてありません。

民法189条の条文

(善意の占有者による果実の取得等)
第百八十九条 善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。
2 善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。
※民法189条

3 民法189条が適用される具体例

ストレートに民法189条が適用されるケースの例は、賃貸借契約を締結して占有しているけれど、後からその賃貸借契約は無効だったことが判明した、という状況です。
この場合でも「賃貸借契約は無効である」ことについて善意、つまり知らなかった場合は、果実を返還する必要がないことになります。この「果実」とは土地から生まれた農作物(天然果実)はもちろん含まれます。さらに、目には見えない利益も含みます。たとえば建物の(無効な)賃貸借のケースでは、占有者自身が居住できたという利益について、所有者に不当利得として返還する必要はない、ということになります。

民法189条が適用される具体例

あ 具体例→無効な賃貸借契約

たとえば、土地の賃貸借契約が無効であることを知らずに、自分が正当な賃借人であると誤信して、その土地を耕作し、果実を収取した者は、

い 効果

ア 返還請求→否定 後から賃貸借の無効を理由として収取した果実を返還せよと求められることはないという趣旨である。
すでに消費した果実に限らず、貯蔵してあるものも返還する必要はない、という説が有力である。
イ 不当利得→否定 なお、善意の占有者は、本条により果実を取得できるのであって、それによる利得は不当利得とはならない
※我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p417

4 「善意の占有者」の意味

条文上「善意の占有者」というものすごくシンプルに書いてありますが、その意味は要するに、占有し、果実を取得する権利を持っていると(誤って)思っている者ということになります。具体的には所有権・地上権・賃借権などを持っていると思っている者です。

「善意の占有者」の意味

・・・「善意の占有者」とは、果実を収取する権利がある本権を持っていると誤信する者である。
すなわち、所有権・地上権・賃借権・不動産質権などを有すると誤信する者をいうのであって、果実収取権のない本権、たとえば動産質権・留置権(§§350・297・298Ⅱなど参照)などを有すると誤信する者は含まれない。
※我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p417

5 関連テーマ

(1)共有者による賃貸借契約が無効であったケース

前述のように、民法189条を実際に使うシーンとしては、複雑な権利関係となっているものが多いです。その1つは共有者Aから不動産を賃借したけれど、後から不適法だとわかった、というケースです。具体的には、過半数持分の共有者の賛成だけで賃貸したところ、後から共有者全員の賛成が必要であったと判断された、というような場合にこの状況になります。
詳しくはこちら|共有者から使用承諾を受けた第三者が占有するケースにおける金銭請求

(2)不動産の付合と善意占有者の果実収取権

民法の大原則として、農作物や樹木は土地と付合する、つまり土地所有者のものになる、というものがあります。民法189条によってこの原則の例外として耕作する権原はないけどあると誤信した者が農作物や樹木の所有権を得ることもあります。
詳しくはこちら|不動産の付合の典型例(農作物・樹木・設備・機械)

本記事では、善意占有者の果実収取権(民法189条)について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に売買や賃貸借、使用貸借などの契約の有効性の問題に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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