【共有物分割訴訟における他の請求(持分確認や履行の給付など)の併合】
1 共有物分割訴訟における他の請求(履行確保措置の給付など)の併合
共有物分割訴訟では、原告が文字どおり共有物分割を求めるわけですが、同時に別の請求も一緒にすることがあります。具体的には、前提問題である共有持分の確認や、逆に共有物分割が実現した後の履行(給付)の請求です。原告が訴状にこのような別の請求を記載することもあれば、被告が反訴として別の請求を挙げることもあります。
本記事では、このような、共有物分割訴訟において併合審理される他の請求について説明します。
2 共有物分割請求と他の請求の併合(まとめ)
最初に結論を整理しておきます。メインの共有物分割とは別の請求を併合審理することはよくあります。具体的な内容としては、持分の確認と各種履行(給付)の2つに分けられます。
共有物分割請求と他の請求の併合(まとめ)
あ 基本
共有物分割請求と別の請求を併合することは可能である
い 併合する請求の具体例
ア 持分権確認
共有物分割の前提となる共有持分権の存否、持分割合の確認を求める
イ 履行(給付)請求
共有物分割の実現(判決確定)を前提とする、各種の履行(給付)を求める
(ア)賠償金請求(イ)(賠償金に対する)利息、損害金請求(ウ)対抗要件具備行為(持分移転登記手続)請求(エ)引渡(明渡)請求
3 共有物分割訴訟(非訟)と「訴訟」手続の併合→可能
ところで、共有物分割訴訟の実質は非訟である(形式的形成訴訟)、というのが(伝統的な)一般的見解です。
詳しくはこちら|共有物分割訴訟の性質(形式的形成訴訟・処分権主義・弁論主義)
他方、持分権の確認や給付の請求は「訴訟」です。そうすると「非訟」と「訴訟」を併合できるのか、という問題が出てきます。原則論としては種類が異なるので併合できないことになります。
しかし、共有物分割訴訟は、形式としては訴訟です。そこで、実務上、併合要件はクリアするとして扱われています。
共有物分割訴訟(非訟)と「訴訟」手続の併合→可能
あ 訴訟と非訟の併合(前提)
本条(注・民事訴訟法136条)の趣旨から、訴訟手続と非訟手続を併合することも、原則としてできない。
非訟手続においては、公開法廷での必要的口頭弁論の手続を必要とせず、簡易な手続により審理が行われるからである。
※青木哲稿/加藤新太郎ほか編『新基本法コンメンタール 民事訴訟法1』日本評論社2018年p392
い 共有物分割請求と他の請求の併合
・・・共有物分割訴訟は、いわゆる形式的形成訴訟に属するものであるが、民事訴訟との併合審理の要請が強いことなどから、共有持分の確認請求等の民事訴訟との併合が許されるというべきである。
※東京高判平成22年3月10日
4 判例解説・履行請求(給付)の併合→将来給付の訴え
分割結果を前提とする履行(給付)請求は理論的に特殊なところがあります。
共有物分割訴訟による分割結果が効力を生じるのは判決確定の時です。この点、遺産分割は相続開始時に遡って効果を生じる(民法909条)とは異なります。
そうすると、分割結果を前提とする履行の請求の部分は、判決確定を条件とする将来給付の訴えということになります。
判例解説・履行請求(給付)の併合→将来給付の訴え
あ 最判平成8年10月31日の判例解説
もっとも、共有物分割請求と併合して移転登記手続請求をすることは可能であり、この場合には、移転登記手続請求は、共有物分割請求に関する判決の確定を条件とする将来の給付の訴えであると解されている。
※河邉義典稿/法曹会編『最高裁判所判例解説 民事篇 平成8年度(下)』法曹会1999年p897
い 実例(裁判例)
・・・判示のとおり本件各土地を分割することとし、被告らに対し所有権移転登記手続を求める原告らの請求は、共有物分割の判決確定を条件とする将来の給付を求める限度で理由があるから、右限度でこれを認容し、現在の給付を求める部分を棄却し、・・・主文のとおり判決する。
※札幌地判昭和62年5月11日
5 平成4年東京高判・履行請求(給付)の併合→現在請求
なお、共有物分割訴訟に併合された土地の引渡請求について、原審が将来給付の請求として認めたケースで、控訴審が積極的に現在給付の請求の認容に変更した、というものがあります。ただ、理由中で判決確定は当然の前提である、とコメントが入っています。
実際には「共有物分割の判決内容が未確定、給付内容が確定」という状況は普通生じないので弊害はないですが、理論的に整合しないと思います。いずれにしてもマイナーな判断であると思います。
平成4年東京高判・履行請求(給付)の併合→現在請求
あ 原審の主文→将来給付
ア 主文
二 右共有物分割の裁判が確定したときは、被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)らに対し、別紙物件目録記載の土地のうち、別紙図面記載のイ・チ・ロ・ハ・ニ・ホ・ヘ・イの各点を順次直線で結ぶ線によつて囲まれた範囲内の部分を引渡せ。
イ 理由
ところで、本件において、原告らは、被告に対し、本件土地のうち原告らに分割帰属する土地部分につき、その引渡を求めている。
ところで、原告らの右訴えは、現在の給付を目的とする訴えと解されるが、共有物分割の効果が共有物分割の形成判決の確定によつて生じる以上、現在の給付請求としては理由がないが、共有物分割の形成判決の確定を条件とする将来の給付の訴えとしては、被告が、建築基準法四二条一項五号によつて道路位置指定を受けた私道についてはそもそも共有物分割は許されないと主張し、あるいは高額での任意買収を仄めかすなどの本件紛争の経過に鑑み、予め請求する必要があるものと認められる。
※東京地判平成4年2月28日
い 控訴審判決
ア 主文
一 原判決主中、主文第二項を次のとおり変更する。
控訴人は、被控訴人らに対し、原判決別紙物件目録記載の土地のうち、原判決別紙物件目録記載のチ・ロ・ハ・ニ・ホ・チの各点を順次直線で結ぶ線によつて囲まれた範囲内の部分を引き渡せ。
※東京高判平成4年12月10日
イ 理由
同一〇行目から同裏五行目までの全文を「しかし、反訴についての後記判断のとおり、本件土地のうち、別紙図面記載のイ・チ・ホ・ヘ・イの各点を順次直線で結ぶ線によつて囲まれた範囲内の部分については、控訴人が通行地役権を有するので、その引渡しを求めることはできず、(被控訴人らの本件引渡請求が控訴人の通行等を排除し排他的占有を取得する趣旨で求められていることは、弁論の全趣旨から明らかである。)、同図面記載のチ・ロ・ハ・ニ・ホ・チの各点を直線で結ぶ線によつて囲まれた範囲内の部分の引渡しに限つて理由がある(ただし、本件共有物分割の裁判が確定することが当然の前提とするものである。)。」に改める。
※東京高判平成4年12月10日
6 関連テーマ
(1)共有物分割訴訟における職権による給付命令(参考)
ところで、実際の共有物分割訴訟では、当事者が履行(給付)を請求できない(しにくい)状況にあることが構造的によく起きます。それに対応して、裁判所としては、当事者からの給付の請求(申立)がなくても職権で履行確保のための給付命令を判決に入れることができます。従前からの解釈でしたが、令和3年の民法改正で条文化されました。
詳しくはこちら|共有物分割訴訟における給付命令の条文化(令和3年改正民法258条4項)
本記事では、共有物分割訴訟における他の請求の併合について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
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