【分譲地(土地)と私道の「共有持分」の共有物分割訴訟(固有必要的共同訴訟の例外)】

1 分譲地(土地)と私道の「共有持分」の共有物分割訴訟(固有必要的共同訴訟の例外)

共有物分割訴訟は固有必要的共同訴訟に分類されます。つまり、共有者全員が原告か被告に含まれていることが必須です。
詳しくはこちら|共有物分割(訴訟)の当事者(共同訴訟形態)と持分割合の特定
このルールには例外がありますが、例外の1つが、分譲地(建物敷地)と私道の一括分割です。本記事ではこのことを説明します。

2 瀬木比呂志・ケースブック民事訴訟活動・事実認定と判断

瀬木氏は、分譲地と私道の「共有持分」の一括分割をした実例を紹介しています。原則どおりに、(原告以外の)私道の共有者全員を被告とすることが必須であるとすると大部分の共有者は無断に訴訟に参加させられるので現実的ではないと説明しています。一方、例外として実質的に無関係の共有者が当事者ではない扱いをしたとしても、実害は生じません。そこで例外扱い、つまり共有者の一部だけが当事者となっている共有物分割訴訟を肯定したのです。
このケースでは、被告がこの例外扱いに気づかなかったため、判決に例外扱いのロジックを記載しなかったのですが、仮に後から被告が気づいてこの点を問題にするかもしれないので、判決に記載する方がよかった、というコメントもあります。

瀬木比呂志・ケースブック民事訴訟活動・事実認定と判断

あ 事件番号・裁判所→公刊物掲載なし

平成17年(ワ)第1028号共有物分割等本訴請求事件
平成17年(ワ)第1103号立替金等反訴請求事件
・・・
〇〇地方裁判所民事第〇部

い 裁判官の思考回路

ア 訴状審査段階での着眼点 まず、訴状審査の段階で、不動産の一部持分共有物分割が可能であるかが問題になった
(別紙物件目録4以下の不動産は地目が公衆用道路であり、原告らの主張を前提としても、原被告ら合わせて、2800分の200あるいは7200分の200の持分しか有していない)。
イ 固有必要的共同訴訟の原則論→全員必須 固有必要的共同訴訟の原則から言えば、すべての共有者を被告にしなければならないはずであるが、
ウ 全員を被告にすること→現実性なし このように、宅地の分譲に合わせて道路を被分譲者らで共有しているにすぎず、原被告ら(Nを含む)の持分合計が変化しない限りは何らこれに利害関係も関心も持たない他の道路被分譲者らをも被告にしないと訴訟要件を欠くというのは現実性がない
エ 結論→却下しないで進行 そこで、「前記のような事実関係の下で、紛争の対象となっている道路の特定持分についての分割の関係者とならないような他の共有者らの利害に関係しない本件訴訟について他の共有者ら全員を被告とする必要はない」という考え方の下に、本件本訴は、訴えを却下しないで進行することとした。
オ 実害の検討→なし なお、関係各方面について調査してみたところでも、前記のような考え方で訴訟を進めても、形式的競売(民法、商法、その他の法律の規定による換価のための競売。民事執行法195条)や全面的価格賠償に伴う登記の移転(本件において原告らが求めているのは後者である)について特段の問題は生じないようであった
カ 例外扱いの明記→あった方がベター (この点は、固有必要的共同訴訟の原則を前提とするならば、すべての共有者らを被告としなくとも訴訟要件が欠けているものとはみないという趣旨を理由[争点についての判断]の冒頭に記載しておくところであるが、本件においては、本件不動産の共有者にはNが含まれることになり、そのことだけで固有必要的共同訴訟の訴訟要件を欠くことになったので、先の点についてはあえて触れなかった[もっとも、今判決を読み返すと、やはり注意的に触れておくほうがよかったかなと思う。控訴がなされ、仮に控訴審で夏江の共有についての判断が変わった場合には、先の点が正面から問題となりうるからである。実際には、本件については、控訴なく確定した])。
キ 被告の指摘はなかった(参考) 前記のように、相手方当事者(本件では被告)が何らそのことに気付いていなくても、裁判所は、訴訟要件の具備については当然調査をしなければならない(職権調査事項)。
※瀬木比呂志稿『ケースブック民事訴訟活動・事実認定と判断』/『判例タイムズ1307号』2009年12月p15

3 令和3年東京地判

同じように、分譲地(建物敷地)と私道の「共有持分」の一括分割を実施した別の裁判例です。この裁判例も例外扱いをしたことやその理由を判決の中に記載はしていません。

令和3年東京地判

あ 共有関係の認定

本件土地建物及び本件私道の原告と被告の共有持分は次のとおりであると認めるのが相当である。
本件土地(注・建物敷地) 原告4分の3、被告4分の1
別紙物件目録記載2の土地(注・2〜5の土地は「本件私道」) 原告44分の3、被告44分の1
別紙物件目録記載3の土地 原告44分の3、被告44分の1
別紙物件目録記載4の土地 原告44分の3、被告44分の1
別紙物件目録記載5の土地 原告24分の3、被告24分の1
本件建物 原告4分の3、被告4分の1

い 私道(共有持分)の評価→ゼロ

・・・本件私道につき、現況地目が公衆用道路であることなどを理由として平成29年2月21日現在において0円と評価されているところ、同日時点における本件私道の価格を適正に評価したものと認められ、かつ、前記認定事実(6)のとおり本件私道の現況が公衆用道路であることは現在においても変わりなく、同日から現在に至るまで約4年経過しているものの上記評価に影響が生じるような事情はうかがわれないことからすれば、本件口頭弁論終結時における本件私道の価格も0円と評価するのが相当である。

う 結論→全面的価格賠償

以上によれば、本件土地建物及び本件私道を原告の所有とし(注・原告は44分の4の持分を有するにとどまる)、原告が被告に対し、価格賠償金として1795万7000円を支払うという方法により分割するのが相当である。
※東京地判令和3年3月8日

本記事では、分譲地と私道の「共有持分」を対象とする共有物分割訴訟について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
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