【債権譲渡の通知を譲受人が行う方法(代理は可能、債権者代位は不可)】

1 債権譲渡の通知を譲受人が行う方法(代理は可能、債権者代位は不可)

債権譲渡をした場合、譲渡人から債務者への通知をするのが原則ですが、実務では譲受人から通知することが多いです。本記事では、このような手法について説明します。

2 債権譲渡の対抗要件としての通知(前提)

まず、債権譲渡の通知について、基本的なルールを確認しておきます。
債権は原則として譲渡(売買)可能です。債権を譲渡した場合、譲受人が新たな債権者となります。債権譲渡を債務者が知らないと間違えて譲渡人(元の債務者)に弁済してしまいます。そこで、債権を譲渡したということを債務者に通知しないと、債務者に対抗(主張)できないことになっています。
この通知を行うのは譲受人ではなく譲渡人だけです。債務者の立場では譲受人知らない人なので、債権譲渡が本当かどうか(嘘なのか)、確証を持てないからです。

民法467条1項の条文

債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない
※民法467条1項

3 代理人による債権譲渡通知→有効(昭和12年大判)

(1)譲受人が代理人として通知する方法

実際に債権譲渡(債権の売買)をした場面を想定します。譲受人としては、債権者が債務者への譲渡通知をしてくれないと、債務者から債権の回収ができない、ということになります。そこで譲受人から債務者に通知する手法が実務ではとられています。これを実現する方法は代理という方式です。具体的には、譲渡人譲受人に対して、債権譲渡の通知をすること代理権を授与するのです。要するに、譲渡人が譲受人に、調印した委任状を渡すのです。その上で、譲受人がその調印済の委任状を債務者に提示する、ということになります。

(2)大判昭和12年11月9日の要点

一般的に、代理という仕組みでは、代理人の行為の効果が本人に帰属します。債権譲渡の代理でもこのメカニズムは有効です。昭和12年大判がこの判断を示しています。

大判昭和12年11月9日の要点

あ 結論

債権の譲受人が譲渡人の代理人として債権譲渡の通知をすることは有効であり、これによって債権譲渡の対抗要件を具備することができる。

い 理由

債権譲渡の通知は、本来譲渡人が行うべきものである。
代理による通知は、本人(譲渡人)自身が行った通知と法的に同等の効力を持つ。
したがって、譲受人が譲渡人の代理人として行った債権譲渡の通知は、対抗要件としての効力を持つ。
※大判昭和12年11月9日(要点)

4 債権者代位権による債権譲渡通知→否定(昭和5年大判)

(1)譲受人が債権者代位により通知する方法(発想)

次に、債権譲渡の譲渡人譲受人に対して代理権授与(委任状の交付)をしない場合を想定します。
この点、債権者代位という仕組みがあり、これは債権者債務者の代わりにある行為をするというものです。これを活用すれば、前述の代理と同じようなメカニズムで譲受人譲渡人の代わりに債権譲渡の通知をすることができそうです。しかし、結論として、この方法はとれません。

(2)大判昭和5年10月10日の要点

昭和5年大判は、債権者代位権による債権譲渡の通知の効力を否定しています。

大判昭和5年10月10日の要点

あ 結論

債権者代位権を行使して債務者に代わって債権譲渡の通知をしても、それは債権譲渡の対抗要件とはならない。

い 理由

債権譲渡の通知は、譲渡人(原債権者)が行うべきものである。
債権者代位権は、債務者の権利を保全するために行使されるものであり、債務者(債権の譲渡人)の意思に反して新たな法律関係を創設するためのものではない。
債権譲渡の通知は、単なる事実の通知ではなく、新たな法律関係を創設する法律行為の性質を持つ。
したがって、債権者代位権の行使によって行われた債権譲渡の通知は、譲渡人自身による通知とは同視できず、対抗要件としての効力を持たない。
※大判昭和5年10月10日(要点)

5 「代理」と「債権者代位」で結論が違う理由

以上のように、債権譲渡の通知を、民法467条の条文どおり譲渡人からするのではなく、譲受人が行う方法を実現するには、代理(委任状交付)は可能、債権者代位は不可能、という結論になっています。メカニズムは似ているのに結論が正反対なのはなぜでしょうか。

(1)実質面での違い→譲渡人の意思の反映レベル

その違いは、(本来通知をすべき者である)譲渡人の意思が反映されているかどうか、といえます。
代理であれば、まさに譲渡人自身が了解しています(委任状に調印しています)。
一方、債権者代位の場合は、譲渡人が反対していても、あるいは知らない場合でも(一定の要件を満たせば)債権譲渡通知ができてしまいます。
このように譲渡人に債権譲渡の通知をする意思がどの程度あるか、という点の違いが結論の違いに影響しているといえます。

(2)形式的理由→債権者代位の要件を欠く

ところで、債権者代位権の対象となるのは、債務者(本件では債権の譲渡人)が有している権利です。債権譲渡の通知をすることは、(債権の譲渡人が有している)「権利」ではありません。このように形式面から、債権者代位によって債権譲渡の通知をすることは否定されます。
一方、代理については、「権利」にあたるかどうか、ということは関係ありません(制限されません)。

6 意思表示の強制執行

債権譲渡の通知を譲受人が行う方法として、強制執行(強制履行)もあります。意思表示の強制執行は、意思表示を命じる判決を獲得すれば意思表示をしたものとみなされるのです。
詳しくはこちら|判決による意思表示の擬制(意思表示の強制執行・民事執行法177条)

本記事では、債権譲渡の通知を譲受人が行う方法について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に債権譲渡やその通知に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【取締役の退職金・弔慰金への会社法361条の適用(株主総会決議の要否)】
【判決による意思表示の擬制(意思表示の強制執行・民事執行法177条)】

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