【不動産競売における一括売却(民事執行法61条)の要件】
1 不動産競売における一括売却(民事執行法61条)の要件
不動産競売では、複数の不動産をまとめて売却する一括売却というものがあります。
詳しくはこちら|不動産競売における一括売却の基本(複数不動産をまとめて売却)
本記事では、一括売却の要件、つまり、一括売却を選択する基準について説明します。
2 民事執行法61条・188条の条文
一括売却については、強制競売(債務名義による差押)を前提とするものについて民事執行法61条が定めています。担保権実行について188条がこれを準用しています。最初に条文を確認しておきます。
民事執行法61条・188条の条文
あ 民事執行法61条
(一括売却)
第六十一条 執行裁判所は、相互の利用上不動産を他の不動産(差押債権者又は債務者を異にするものを含む。)と一括して同一の買受人に買い受けさせることが相当であると認めるときは、これらの不動産を一括して売却することを定めることができる。ただし、一個の申立てにより強制競売の開始決定がされた数個の不動産のうち、あるものの買受可能価額で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる見込みがある場合には、債務者の同意があるときに限る。
※民事執行法61条
い 民事執行法188条
(不動産執行の規定の準用)
第百八十八条 第四十四条の規定は不動産担保権の実行について、前章第二節第一款第二目(第八十一条を除く。)の規定は担保不動産競売について、同款第三目の規定は担保不動産収益執行について準用する。
※民事執行法188条
3 一括売却の要件
条文上は、一括して売却することが相当であると認めるときに一括売却を認めるということしか定められていません。
この解釈としては、複数の不動産をセットで利用した方が便利であるということになります。これを利用上の牽連性といいます。また、執行裁判所が同じであることも前提となります。
一括売却の要件
4 利用上の牽連性の内容
一括売却が相当であるという判断の中身のメインはまとめて売却した方が有利、つまり高く売れるということです。高く売れるということは複数の不動産がセットになると使い勝手がよい、ということです。このことを利用上の牽連性(がある)といいます。
利用上の牽連性の内容(※1)
あ 抽象的な基準
不動産相互の位置・形状・性質・構造等からみて利用上の牽連性が認められるため、同一人に帰属させることで経済的効用が高まり、その結果個別売却に比して高価での売却が期待できる
い 利用上の牽連性が認められる典型例
ア 敷地と建物
債務者所有の土地とその地上建物
イ 袋地の発生回避
個別売却に付すると袋地が生じてしまうケース
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』弘文堂2019年p584
5 超過売却→禁止だが債務者の同意で可能
(1)一括売却における超過売却の禁止
複数の不動産をまとめて売却した方が高く売れる(利用上の牽連性がある)としても、過剰に売却することは禁止されます。もともと不動産競売は金銭債権の回収が目的なので、債務者の財産権を喪失させるのは最小限にとどめる、という基本方針があるのです。
一括売却における超過売却の禁止(※2)
あ 超過売却禁止の趣旨
一部の不動産の売却によって債権者が完全な満足を得られる場合に、全不動産を一括売却に付することは無益執行であり、債務者に過度の不利益を課す
一方で、このような場合にも一括売却に付し、高額での売却を可能とすることがかえって債務者の利益になることもある
そこで、債務者の同意がある場合に限って一括売却の決定をすることを認めた
い 禁止となる要件(規定内容)
あるものの買受可能価額で各債権者の債権および執行費用の全部を弁済することができる見込みがある
う 「あるもの」の意味
「あるもの」とは、一括売却の対象となる複数の不動産の一部を指す。
たとえば、3個の不動産が一括売却に付されている場合、そのうちの2個の不動産の買受可能価額の合計額により各債権者の債権および執行費用の全部を弁済することができる見込みがあるのである場合、原則として一括売却はできない
え 「各債権者」の意味
「各債権者」とは、配当を受けるべき債権者のうち、申立債権者、その先順位債権者および同順位債権者のみを指す
後順位債権者を含まない
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』弘文堂2019年p585
お 禁止が解除となる要件(概要)
超過売却となる場合でも、債務者の同意があれば一括売却は禁止されない
(2)超過売却の一括売却についての債務者の同意
前述のように超過売却は、債務者から不動産を奪うのは最小限にする、という趣旨で禁止されています。この点、債務者(所有者)の立場では、まとめて売却されると、確かに不動産を喪失するけれど、結局売却代金のうち配当されなかった剰余金は手元に残ります。どうせ不動産甲が売却されるなら、不動産乙も高く売却した方よい、と考えることもあります。そこで、債務者(所有者)の同意があれば、超過売却だとしても一括売却をすることが可能となります。
超過売却の一括売却についての債務者の同意(※3)
あ 規定
債務者の同意がある場合、超過売却となる一括売却は禁止されない
い 同意の相手方等
債務者の同意は、執行裁判所に対してすることを要する
実務上は、同意の存在を記録に残す趣旨で、執行裁判所から債務者に対して同意書を同封して、書面によって意見を求め(求意見書)、債務者から返送された同意書を記録に綴る扱いがなされている
う 同意の擬制(否定)
執行裁判所から求意見書を送付する際に、期限までに回答がなければ同意したものとみなす旨も記載することが考えられる
しかし民事執行法61条ただし書が債務者保護規定であることに鑑みれば、かかる擬制は原則として許されない
え 「1個の申立」の意味
ア 条文規定
1個の申立により強制競売の開始決定がされた場合に民事執行法61条ただし書の適用が限定されている
イ 解釈
債権者や債務者が異なるために執行債権が異なることから超過売却の問題がそもそも生じない場合に民法61条ただし書の適用を排除する趣旨である
ただし、別の見解もある
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』弘文堂2019年p585〜587
6 債務者・申立人の同一性(不要)
複数の不動産の競売手続があるとして、別の債権者が申し立てた場合や、また、債務者が異なる複数の手続であっても、一括売却にすることは可能です。
債権者・債務者の同一性(不要)
※民事執行法61条本文かっこ書
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』弘文堂2019年p584
本記事では、不動産競売における一括売却の要件について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
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