【法定地上権の地代確定訴訟(民法388条・形式的形成訴訟)】

1 法定地上権の地代確定訴訟(民法388条・形式的形成訴訟)

法定地上権は一定の条件を満たすと自動的に(当然に)成立します。
詳しくはこちら|法定地上権の成立要件には物理的要件や所有者要件がある
ただ、地代まで自動的に決まるわけではありません。この点、地代を裁判所が定める手続があります。いわゆる地代確定訴訟です。本記事では地代確定訴訟について説明します。

2 民法388条の条文

最初に条文を確認しておきます。法定地上権の成立要件を定める民法388条の後段に、地代を裁判所が定めるということが書いてあります。

民法388条の条文

第三百八十八条
(法定地上権)
土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める
※民法388条

3 協議による決定→可能

民法388条の条文には、「当事者の協議で地代が決まらない場合には」のような前置きが書いてありません。この形式に着目すると、当事者が協議して決めることはできない、と読めますが、もちろんそのようなことはありません。当事者が協議して合意で地代を定めることは可能です。一方、条文上、協議前置ではないので、協議せずにいきなり訴訟の申立をすることも法律上は可能です。

協議による決定→可能

あ 明治43年大判(要点)

当事者の協議による地代決定を禁止する趣旨ではなく、協議が調わない場合に裁判所が定める
※大判明治43年3月23日

い 昭和14年大判(要点)

当事者の協議を経ることなしに直接に裁判所に請求して決めてもらうこともできる
※大判昭和14年4月11日

4 地代確定訴訟の性質→形式的形成訴訟

地代確定訴訟は、すでに存在する権利関係を裁判所が判断する、という通常の訴訟とは違います。決まっていない地代を新たに裁判所が創設する、というものです。この実質は非訟ですが、手続の形式は訴訟(判決)です。このような類型を形式的形成訴訟といいます。形式的形成訴訟としては、共有物分割訴訟、筆界確定訴訟、父を定める訴訟の3つがメジャーですが、地代確定訴訟もそのシリーズに含まれるのです。
形式的形成訴訟の特徴の1つとして、処分権主義の適用がない(制限される)というものがあります。具体的には、原告の主張する地代の金額よりも原告に不利な金額を裁判所が定めることも可能です。

地代確定訴訟の性質→形式的形成訴訟

あ 裁判所の裁量権

裁判所は当事者の申立に拘束されず、相当な地代額を定めることができる

い 裁判例(要点)

ア 昭和38年福岡地小倉支判 裁判所は相当な地代額を定める裁量権を有する
※福岡地小倉支判昭和38年10月11日
イ 昭和43年東京地判 右に定めた額は、原告主張の額よりも多いのであるけれども、民法三八八条但書に基ずく地代決定の請求は、創設的な裁判であるから、原告の地代額の主張事情を述べるものに過ぎず、請求の一部棄却という観念は容れる余地がない。
※東京地判昭和43年6月7日

5 裁判所による地代決定の基準(地代算定方法)

裁判所は、裁量によって地代(金額)を決めることになります。その算定方法ですが、確立したものはありません。たとえば東京都内の土地であれば、固都税の4倍とする例や土地価格の1%とする例がありますが、あくまでも目安であり他の計算方法が採用されることも多いです。

裁判所による地代決定の基準(地代算定方法)

あ 地代決定の基準→発生当時の諸般の事情

(要点)
裁判所は、地上権発生当時の諸般の事情を斟酌して地代を定める
近隣の地所の賃借料と必ずしも同一割合である必要はない
※大判大正11年6月28日
※大判昭和16年5月15日

い 地代の算定方法→比準賃料・積算法・固定資産税の参照など

(ア)付近地域の比準賃料を基礎とし、積算法を加味する(イ)積算法による賃料を試算し、近隣地域の相場等を考慮する ※東京地判平成18年6月30日(積算法と近隣地域の相場)
(ウ)固定資産税等を参考にする 固定資産税を参考に地代を算定する
※東京地判昭和53年3月31日

う 東京都内における具体的な地代算定の例

(ア)固定資産税と都市計画税の”4倍”を年額とする(イ)土地価格の”1%”を年額とする

え 地代の特殊性

ア 限定賃料としての性質 通常の自由賃料よりも低額になる傾向がある
イ 地上権の有利性 賃借権よりも有利な権利であることから、通常の賃料よりも高額になる可能性がある

6 決定した地代の適用→遡及あり

通常、地代確定訴訟の申立がなされるのは、法定地上権が発生した時(競売による売却)の後、任意の交渉が行われ、交渉が決裂に至った後となるのが通常です。たとえば判決で地代が決まった時には、すでに競売から2年が経過していたとしたら、過去2年間、その地代が発生していたことになります。

決定した地代の適用→遡及あり

(要点)
裁判所が決定した地代は、法定地上権の成立時点まで遡って適用される
※大判大正5年9月20日
※大判昭和14年11月25日
※最判昭和43年2月23日
※大阪地判平成20年7月14日

7 事情変更→判決に盛り込むまたは事後的な増減額請求

地代が決まる事情(判断材料)にはいろいろなものがあります(前述)。たとえば土地の価格や近隣の地代相場は社会情勢とともに変化します。法定地上権成立(競売実施)から地代確定訴訟の判決までの間が長いと、その間に適正な地代の金額が変化することがあります。その場合、地代確定訴訟の判決の中で、時期ごとに地代を決めることになります。
判決で地代が決まった後に社会情勢が変化して適正な地代の金額が変化した場合は、通常の借地と同じように地代増減額請求ができます。もちろん協議で解決しない場合は、訴訟の判決として裁判所が判断します。
詳しくはこちら|借地・借家の賃料増減額請求の基本

事情変更→判決に盛り込むまたは事後的な増減額請求

あ 地代決定前の事情変更→地代決定判決に盛り込む

裁判所は、地上権発生時から事情変更までの地代と、事情変更後の地代を別々に定める
※大判昭和16年5月15日
※東京地判昭和43年6月7日(5つの期間について金額を定めた)

い 地代決定後の事情変更→別途の借地非訟

借地借家法11条の適用により、地代の増減額請求が可能

8 地代と権利金の関係→権利金給付は否定、地代への上乗せは両説あり

法定地上権は、合意により設定する地上権(通常の借地)とは違うところが多いです。その1つが権利金です。通常の地上権であれば、設定時点で権利金が支払われることがほとんどです。しかし法定地上権の場合は、権利金は発生させない見解が一般的です。
通常の地上権(借地)では、権利金の支払がない場合はその代わり地代が(通常よりも)高くなります。では法定地上権では権利金がない分、地代が高くなるかというと、これについては両方の見解があります。

地代と権利金の関係→権利金給付は否定、地代への上乗せは両説あり

あ 裁判所による権利金決定→不可

(要点)
裁判所が地代決定時に権利金支払を命じることはできない
※東京地判昭和44年12月24日

い 地代決定における権利金の考慮→両説あり

ア 権利金を考慮する見解 本件地上権は、民法三八八条の規定により設立されたいわゆる法定地上権であるから契約による地上権の設定の場合に通常みられる権利金等の金銭の授受がないことは考慮せらるべきであろう。
※東京地判昭和43年6月7日
イ 権利金を考慮しない見解 法定地上権の成立を前提とした抵当権設定や譲渡・買受け等の取引実態を考慮すると、権利金の有無は地代算定に影響を与えるべきではない(という見解もある)

9 地代確定訴訟と地上権設定登記請求の併合(参考)

ところで、法定地上権が成立した場合、地上権者(買受人)は地主に対して地上権設定登記をしろ、という請求権があります。
詳しくはこちら|法定地上権の地上権設定登記(登記請求権・建物登記との違い)
地代確定訴訟の申立に至った場合は、訴状の中に、地上権設定請求も入れておくことが多いです。形式的形成訴訟通常の訴訟という異種の請求なので併合できないという発想もありますが、この併合は一般的に認められています。
※東京地判昭和43年6月7日(地代確定訴訟と地上権設定登記請求の併合)

参考情報

※松本恒雄稿/森田修編『新注釈民法(4)』有斐閣2019年p198、199
※生熊長幸稿/柚木馨ほか編『新版 注釈民法(9)改訂版』有斐閣2015年p395〜397
※岡口基一著『要件事実マニュアル1 第5版』ぎょうせい2016年p434〜436

本記事では、法定地上権の地代確定訴訟について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に法定地上権の地代に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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