【分筆登記(不動産の表示登記)の登記請求権は認められない】
1 分筆登記(不動産の表示登記)の登記請求権は認められない
土地の分筆登記が必要なのに、所有者が登記申請をしてくれなくて困る、という状況があります。この場合に、所有者に対して登記申請をしろと命じる判決をとれば登記が実現する、と思ってしまいますが、結論としてこれはできません。本記事ではこのことを説明します。
2 分筆登記を要求する状況の典型例→共有物分割・遺産分割・取得時効
ところで、分筆登記をしてくれ、と要求する状況はある程度決まっています。土地を複数人で分ける手続である、共有物分割や遺産分割がその1つです。また、1筆の土地のうち一部について取得時効が成立した結果、実体上所有権が移ったというケースもあります。
さらに、1筆の土地の一部の売買も教科書事例といえますが、任意に協力して分筆登記が行われる(問題にならない)のが通常です。
3 分筆・合筆登記→所有者による申請のみ(条文)
この問題のスタートは、分筆や合筆の登記は、所有者の申請が必須というところです。ちなみに、本来(分筆・合筆を含む)表示の登記は職権でも行えるのが原則ですが、分筆、合筆は私権の処分に近い性質を持つので、例外的に職権では行えず、所有者が申請しない限り(原則として)行えないことになっているのです。
分筆・合筆登記→所有者による申請のみ(条文)
あ 表示の登記の原則→職権可
(職権による表示に関する登記)
第二十八条 表示に関する登記は、登記官が、職権ですることができる。
※不動産登記法28条
い 分筆・合筆登記→所有者の申請に限定
(分筆又は合筆の登記)
第三十九条 分筆又は合筆の登記は、表題部所有者又は所有権の登記名義人以外の者は、申請することができない。
※不動産登記法39条1項
4 権利の登記における判決による単独申請(参考)
(1)判決による単独申請(条文)
ところで、権利の登記の世界では、登記申請をしない者がいたとしても、登記申請手続をせよという判決をとって登記を実現する手法があります。
たとえば不動産の売買であれば、売主から買主への所有権移転登記を、売主・買主が共同で申請します。売主が申請に応じない場合、買主が判決を獲得すれば、買主だけで(単独)申請できるのです。この判決による単独申請という条文は、権利の登記が対象になっています。もっといえば、原則である共同申請を単独申請で足りることにする(一方の申請を不要とする)ルールです。
分筆登記は権利の登記ではないですし、もともと共同申請をする手続でもありません。
判決による単独申請(条文)
あ 「権利の登記」に関する共同申請の原則
第三節 権利に関する登記
第一款 通則
・・・
(共同申請)
第六十条 権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない。
※不動産登記法60条
い 判決による単独申請
第六十条、第六十五条又は第八十九条第一項(同条第二項(第九十五条第二項において準用する場合を含む。)及び第九十五条第二項において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、これらの規定により申請を共同してしなければならない者の一方に登記手続をすべきことを命ずる確定判決による登記は、当該申請を共同してしなければならない者の他方が単独で申請することができる。
※不動産登記法63条1項
(2)判決による意思表示の擬制→不登法63条のみ
ところで、登記申請は、登記所(法務局)に対する意思表示という性質があります。一般的に意思表示をしたものとみなす判決というものがあります。
そこで、分筆登記申請を命じる判決があれば、登記申請があったものとみなせる、という発想も浮かびます。しかし、この理屈(意思表示の擬制)は、不動産登記法63条(前記)があって初めて登記申請として扱えると考えられています(民事執行法177条は適用しない、という見解はありますが、不動産登記法63条は適用しないという見解はみあたりません)。
詳しくはこちら|判決による意思表示の擬制(意思表示の強制執行・民事執行法177条)
(3)登記請求権→なし
そもそも、分筆登記は権利の変動を公示するものではありません。そこで権利(所有権)を持っているからといって分筆登記手続をせよという請求権と結びつかない、ともいえます。登記請求権については後述します。
5 代位申請→可能
たとえば、1筆の土地の一部について所有権を取得した者(所有者)は、所有権の登記については、登記手続をしろ、という請求権(登記請求権)が認められます。
詳しくはこちら|登記請求権の基本(物権の効力・判決による単独申請)
登記手続としては、1筆の一部についての所有権の登記(所有権移転登記)をするには、前提として分筆登記を完了することが必須です。この点、所有権移転登記申請の時に、その申請人は、前提である分筆登記を(登記上の所有者に代わって)申請することができます。判決がなくても可能です。これを代位申請といいます。
結局、所有権を得た者は、所有権移転登記請求だけの判決を得れば(分筆登記請求の判決を得なくても)分筆登記を強制的に行うことができるのです。
6 分筆登記の登記請求権を否定する見解
(1)幸良秋夫氏著書
以上のように、分筆登記については登記請求権は否定されています。以下、いくつかの見解を紹介します。
幸良秋夫氏の著書では、判決による分筆登記申請を否定する見解を紹介しています。
幸良秋夫氏著書
※幸良秋夫著『新訂 設問解説 判決による登記』日本加除出版2022年p91
(2)昭和31年東京地判
昭和31年東京地判も同じように、分筆登記請求権は否定した上で、分筆登記の代位申請はできるという説明をしています。
昭和31年東京地判
即ち1筆の土地の一部について所有権の譲渡が行われた場合において、その部分について分筆登記の申請をなし得るのは当該土地の登記簿上の所有名義人のみであって(不動産登記法第79条)、譲受人において分筆手続をするためには、登記名義人に代位して登記申請をする外なく(同法第46条の2)、譲受人自身としては分筆に関する登記請求権を有するものではないのである。
・・・従って前記19坪5合8勺の土地につき被告のため所有権移転登記手続の履行を原告に対して命ずる前提として、この部分について原告が分筆登記手続をすべきことを主文において唄う必要はない
※東京地判昭和31年3月22日
(3)昭和40年横浜地判
昭和40年横浜地判は、もともと単独申請である(共同申請ではない=登記権利者、登記義務者の観念がない)手続では登記請求権がない、と指摘しています。登記請求権は、登記権利者が登記義務者に対して(またはその逆方向に)請求する、という指摘であると読めます。
昭和40年横浜地判
あ 分筆登記の登記請求権→否定
ところで、原告は本訴において被告に対し右所有権移転登記手続のほか、前記土地一二〇坪を別紙図面表示の(イ)、(ロ)の各部分に分筆登記手続をなすべき旨を求めるが、およそ、分筆登記は、性質上物権変動につき第三者に対抗する効力を生じさせる通常の登記とは異り、これらの本来的意味における登記を可能ならしめるため、登記簿表示欄の記載を変更する純手続的なものにすぎない。
従つて、本来の登記が登記権利者と登記義務者との協同申請に基いてなされる(不動産登記法第二六条)のに反し、分筆登記は権利関係の変動に直接関係がないから、所有権の登記名義人の単独申請に基いてなされ(同法第八一条の二)、そこには登記権利者登記義務者の観念を容れる余地はない。
よつて、かかる分筆登記に関する私法上、実体法上の登記請求権はないのであるから、不動産登記法第二七条の判決による登記を許されないのであり、仮りに判決主文で分筆登記手続を命じても、その判決によつて直ちに分筆登記をすることはできないわけである。
い 代位による登記→可能
他方、一筆の土地の一部といえども、その部分が具体的に特定している限り、分筆登記未了前にその所有権を取得することができることは明らかであり、従つてかかる一筆のうちの一部の土地について買主が売主に所有権移転登記手続を求め得ることも当然のことといわなければならない。
そして、前判示のように、具体的に特定された前記土地一二〇坪のうちの別紙図面表示(ロ)の部分につきその登記名義人に所有権移転登記を求める旨の判決があるときは、同法第四六条の二に基く代位により同法および土地台帳法の規定に則つて分筆登記をすることができるのである。
このように、一筆の土地の一部の譲受人は、判決で「……を分筆の上」と命ぜられなくても、所有権移転登記手続を命ずる判決があれば、この判決によつて分筆手続も支障なく行われるのであるから、逆にいえば判決で「……分筆の上」とつけ加えることは無意味な事柄でもあるのである。
以上の次第であるから、原告が本訴において被告に代位して分筆登記手続を求める部分の請求は失当として棄却することとする。
※横浜地判昭和40年4月15日(要旨)
(4)登記先例(建物の分割登記)
建物の分割登記についても、表示登記という点では分筆登記と同じです。建物の分割登記についても、登記請求権はないと読める登記先例があります。
登記先例(建物の分割登記)
※昭和41年12月13日民事局長回答(要旨)
※幸良秋夫著『新訂 設問解説 判決による登記』日本加除出版2022年p92
本記事では、土地の分筆登記の登記請求権について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に土地の分筆登記に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。