【ライフライン設置権が権利の濫用となった判例(最判平成5年9月24日)】
1 ライフライン設置権が権利の濫用となった判例(最判平成5年9月24日)
住宅にはライフラインが必須ですが、配管が他者が所有する私道(私有地)を通らざるをえないことがあります(導管袋地)。このような場合、ライフライン設置権が認められます。
詳しくはこちら|ライフライン設置権の規定と解釈(平成29年改正民法213条の2、213条の3)
ライフライン設置権について、権利の濫用として結果的に否定された最高裁判例があります。本記事ではこの判例(最判平成5年9月24日)を説明します。
2 事案内容(時系列)
最初に事案内容を整理します。
事案内容(時系列)
あ 土地と建物の状況
Xは甲土地と老朽建物(旧建物)を所有していた
甲土地は袋地で、Y所有の乙土地の一部(本件通路部分)を通路として使用していた
い 違法建築の経緯
昭和60年4月頃、Xの母Aが建築基準法上の許可を得ずに、旧建物をほぼ全面的に解体して新たな建物(本件建物)を建築した
本件建物は建築基準法の接道義務や建ぺい率に違反していた
Xは市当局の工事停止命令を無視して工事を強行した。
う 下水管敷設の必要性と交渉
本件建物の建築により下水処理が必要となり、Xは本件通路部分の地下に下水管を敷設しようとした
Xは弁護士を通じてYと交渉したが、協議中にも関わらず工事を実施しようとし、Yに拒絶された
え 訴訟の提起
Xは、Yに対し下水管敷設工事の承諾と工事妨害の禁止を求めて訴訟を起こした
お 別途の違法行為
XはB所有地にBの承諾なく下水管を敷設し、本件私道の下水管に接続してしまった
か 裁判所の判断(結論)
Xの請求は権利の濫用にあたる、請求を認めない
3 裁判所の判断の要点
(1)下水排水権の根拠
裁判所の判断のポイントは3つあります。1つ目は下水の配管のため、他人所有の土地を利用する(敷設する)権利の根拠です。平成29年改正で条文化されましたが、この判例の時代には、いくつかの解釈がありました。
詳しくはこちら|ライフライン設置権の全体像(トラブル具体例・民法改正・提訴の形式・合意の形式)
本判例は下水道法を根拠にしました。
下水排水権の根拠
(2)建築基準法違反と下水排水権
次に、本件では配管をつなげる住宅が建築基準法違反でした。ただ、このことによってライフライン設置権が否定されることにはならない、と判断されました。
建築基準法違反と下水排水権
(3)権利濫用の判断
最後に、最も重要な権利の濫用の判断です。建築基準法違反自体ではなく、(建築基準法違反を理由とした)自治体からの工事停止命令を無視したことが重視され、権利の濫用が認められたといえるでしょう。
権利濫用の判断
あ 基本的な判断基準
建物が建築基準法に違反して建築され、除却命令の対象となることが明らかな場合、建物所有者が違法状態を解消し、建物が今後も存続しうる事情を明らかにしない限り、下水管敷設工事の承諾及び工事妨害禁止を求めることは権利の濫用に当たる
い 客観的要素
権利の行使によって生ずる権利者個人の利益と相手方または社会全体に及ぼす害悪との客観的な利益の比較衡量 排水設備の設置という永続的な利用(隣地所有者にとっての永続的な負担)を認めるためには、建物存続の永続性が必要である
う 主観的要素
関係当事者の主観的事情(権利行使の目的、それまでの行動等) 建築確認を受けることなく、特定行政庁の工事施工の停止命令を無視して本件建物を建築した
4 判決文引用
最後に、判決文のうち権利の濫用の判断の部分を引用しておきます。
判決文引用
3 そうとすると、本件建物が今後も存続することができることが明らかでない段階における本件請求は、権利の濫用として許されないというべきである。
※最判平成5年9月24日
5 参考情報
参考情報
本記事では、ライフライン設置権が権利の濫用となった判例について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際にライフライン設置権に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。