【借地非訟の裁判(認容決定)確定後の承継人(実体上効力が及ぶ)】

1 借地非訟の裁判(認容決定)確定後の承継人(実体上効力が及ぶ)

借地非訟の裁判の効力は、借地借家法57条によって、最終の審問期日の後、かつ、裁判の確定前の承継人に及びます。
詳しくはこちら|借地非訟の裁判の効力が及ぶ者の範囲(借地借家法57条・借地法14条の10)
ここで、裁判の確定後の承継人はどうなるか、という問題もあります。本記事ではこれについて説明します。

2 適用される規定→なし

この点、通常の民事訴訟であれば、民事訴訟法115条1項3号が、判決確定後も含めて効力を及ぼしています。しかし、借地借家法57条では「確定後」については対象外としています。つまり、効力を及ぼすことを否定しています。
そこで、(借地借家法57条によって)裁判の効力が及ぶことはありません。

適用される規定→なし

あ コンメンタール借地借家法

これに対し、裁判確定後に承継が生じた場合については、何ら規定がないから、裁判の効力が及ばないと解すべきこととなる。
※澤野順彦稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第4版』日本評論社2019年p367

い 新版注釈民法

裁判確定後の承継人に関しても、本条は何らの定めもしていない。
ゆえに、こうした承継人に対しては、裁判の効力が及ぶということはない。
※鈴木禄弥・生熊長幸稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p667

3 実体法の処理→地位の承継に含まれる

ただし、借地借家法57条を離れて、実体法の適用の結果として、借地契約上の地位を承継した者は、従前の契約内容を承継します。
まず、裁判の確定により地主の承諾があった状態契約内容の変更という効果が生じます(形成力)。その後に借地契約上の地位の承継があった場合には、それらの形成された効果は、借地契約の中身として承継されます(もちろん、相手方に借地契約上の地位の承継を対抗できる場合が前提です)。たとえば賃貸人の承諾を得た賃借権譲渡がなされた場合には、賃貸借契約上の賃借人の地位が譲受人に移転します。
詳しくはこちら|賃貸人の承諾を得た賃借権譲渡の効果(契約上の地位の移転)
この点、借地借家法57条はこのような実体法の適用を否定しているわけではありません。むしろ、このようなメカニズムがあるので借地借家法57条は確定後の手当をしなくてよかった(適用対象から外した)とも考えられます。

実体法の処理→地位の承継に含まれる

あ コンメンタール借地借家法

ただし、実態的(注・「実体」が正しいと思われる)には、たとえば借地条件変更の裁判が確定した後、その借地権が借地権設定者の承諾を得て第三者に譲渡された場合に、その借地権の内容として、借地条件変更の裁判の内容である堅固建物所有の目的や賃料の改定などについて、借地権者の地位を承継した第三者が承継することがあることは別問題である。
※澤野順彦稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第4版』日本評論社2019年p367、368

い 新版注釈民法

しかし、申立認容の裁判の場合には、その確定により、実体上の法律関係の変更・形成(例えば、一定の合意や承諾がなされたのと同じ法的状態の発生)が生じているので、そのようにしてすでに形成された法律関係の実体法上の対抗の問題として処理され、承継人への効果がきまることになる(香川保一編・改正借地・借家法〔昭41〕39〔香川保一〕、香川保一=井口牧郎・借地法等改正関係法規の解説〔昭49〕225)。
※鈴木禄弥・生熊長幸稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p667

4 付随処分による債務名義の承継→なし

借地非訟の裁判(認容決定)の中で、付随処分として財産の給付が命じられることがあり、その場合これは債務名義となります(借地借家法58条)。この債務名義については、借地契約の地位の譲渡があっても承継されません。つまり、借地契約の内容から分離している、ということになります。

付随処分による債務名義の承継→なし

もっとも、この場合には、その裁判において附随処分として命ぜられた裁判上の給付についての権利義務は承継されない。
※澤野順彦稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第4版』日本評論社2019年p368

5 関連テーマ

(1)借地権譲渡許可と増改築許可の裁判の併合

借地非訟の裁判の効力の及ぶ範囲が問題となる具体例として、借地権の譲渡後に建物の増改築(再築)をするケースで、2つの非訟手続を併合するケースがあります。このケースでは、決定の効力を借地権の譲受人に及ばせる前提で申立をする、ということになります。
詳しくはこちら|借地権譲渡許可の裁判と借地条件変更や増改築許可の裁判の併合申立

本記事では、借地非訟の裁判の効力が及ぶ者の範囲について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地上の建物の増改築、再築や借地権譲渡など、借地に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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