【不動産登記による対抗力の発生時期(登記実行時)】

1 不動産登記による対抗力の発生時期(登記実行時)

不動産に関する権利の変動は、登記をすることで対抗力を得ることができます。
詳しくはこちら|対抗要件の制度(対抗関係における登記による優劣)の基本
ここで、どの時点で対抗力が発生するか、という問題があります。本記事ではこのことを説明します。
なお、実務でこの問題が登場するのは、賃貸中の不動産の売買で、買主が賃料請求をする場面や、買戻特約付売買のケースで買戻権の相続があった時など、特殊なケースであることが多いです。

2 登記実行による対抗力発生

(1)対抗力発生の原則→登記実行時に発生

対抗力は登記の実行時に発生します。登記の実行とは登記官(法務局の職員)が登記データベースへの記録(登記簿への記載)を指します。

対抗力発生の原則→登記実行時に発生

あ 対抗力発生時期→登記実行時

対抗力は登記をなすこと(登記の実行)によってその時から発生する

い 登記の実行の定義→登記簿に記載

登記の実行とは登記簿に物権変動を記載することである
(現在では登記データベースへの記録)

(2)登記実行前の対抗力→不発生

登記実行前には対抗力は発生しません。たとえば、登記官が申請を受理し登記済証を発行しても、登記データベースに記録されていない場合は対抗力が発生しません。

登記実行前の対抗力不発生→未記載で不発生

あ 登記実行前の原則→対抗力不発生

物権変動の登記が実行される前には対抗力は発生しない

い 受理後未記載の場合→対抗力不発生

ア 判例 登記官が登記の申請を受理し登記済証を下付しても、登記官が誤って物権変動を登記簿に記載しなかったときは、登記があるとはいえず対抗力も発生しない
※大判大正7年4月15日
イ 別の見解 別の見解をとる学説もある

(3)登記の優劣→登記の前後で決定

登記の優劣は登記の前後で決定されます。たとえば二重譲渡のケースでは、譲渡(合意)は後でも、登記が先であればこれが優先となります。

登記の優劣→登記の前後で決定

あ 登記の優劣原則→登記前後で決定

同一不動産についての登記された2個以上の権利相互間の優劣は、原則として登記の前後によって決まる

い 例外→法定あり

登記の前後による優劣の原則には、不動産登記法329条、331条、339条、395条などの法定の例外がある

う 登記順位の決定→受付順序で決定

不動産登記における登記の順位は、登記所での登記申請の受付順序(受付番号)によって決まる

え 登記官の義務→受付順で登記

登記官は不動産登記法19条3項・20条に基づき、受付番号の順序にしたがって登記をしなければならない

お 誤った順序による処理→維持される

ア 要点 受付番号の順序に反して後順位受付の申請に係る登記がなされた場合、先順位受付の申請が二重登記を理由に却下される場合がある
イ 昭和51年最判 旧不動産登記法48条(現20条)を職務規定と解し、先順位申請者は同条違反のみを理由として後順位受付の申請に係る登記につき抹消登記手続を請求できない
※最判昭和51年4月8日
ウ 昭和62年最判(参考) 不動産登記法20条を強行規定と呼んだが、これは勤務秩序上の制裁事由及び国家賠償法上の違法事由となりうるという趣旨であり、昭和51年判決と矛盾しないと解される
※最判昭和62年11月13日
エ 別の見解 先順位申請者が一定の条件下で後順位申請者に対して抹消登記手続を訴求できる可能性を示唆する見解(弘中氏)もある

3 登記実行前への対抗力遡及→原則否定・例外あり

(1)原則→登記前に不遡及

前述のように、登記の対抗力は登記の実行の時点で発生します。逆に、登記実行に対抗力が遡るわけではないのです。

原則→登記前に不遡及

あ 要点

登記の実行によって発生した物権変動の対抗力は、登記前の時点に遡及させるべきではない

い 昭和25年最判

賃貸人たる地位にもとづき解約申入(告知)をするには所有権取得の登記を経由することが必要である
登記による対抗力を賃貸借契約の解約申入れの時まで遡及させることを否定した
※最判昭和25年11月30日
詳しくはこちら|賃貸人たる地位の承継と所有権移転登記の関係(判例=対抗要件説)

(2)例外→特定状況における救済的解釈(遡及肯定)あり

前述の原則に対して、特定の状況で、救済的に対抗力が遡及することを認めた判例があります。競売による所有権取得と、買戻権の相続に関する判例です。ただ、少なくとも現在では、これらの状況でそのような救済的、例外的な解釈をとらなくても済むようになっています。例外的な解釈は現在ではとられない方向性だと思います。

例外→特定状況における救済的解釈(遡及肯定)あり

あ 競売による取得→競落許可時に遡及

ア 要点 競売による不動産所有権取得の対抗力を所有権移転の時点(当時は競落許可決定時)に遡及させた判例がある
イ 明治39年大判 ・・・如上の登記あるときは何人に対しても取得の時よりこれを対抗することを得べきものとす・・・
※大判明治39年5月11日
ウ 昭和12年大判 競落に因る所有権の取得登記を経由したときは、その権利はその取得の時からこれを第三者に対抗することができる
※大判昭和12年5月22日
※大判昭和15年5月31日(同内容)

い 買戻権の相続→相続登記の対抗力の遡及を肯定

買戻権相続の事案で相続登記の対抗力を買戻しの意思表示時点に事実上遡及させた
※大判昭和11年4月4日

う 学説→別構成で保護可能という指摘あり

これらの例外的ケースについて、対抗力の遡及という構成を用いなくとも(例外的解釈をとらなくても)法的保護を図ることが可能であったといいう指摘がある

4 参考情報

参考情報

※原島重義・児玉寛稿/舟橋諄一ほか編『新版 注釈民法(6)補訂版』有斐閣2009年p531〜532

本記事では、不動産登記による対抗力の発生時期について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に不動産の登記(売買などの不動産取引の効力)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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