【地上権に関する当事者の変更(地上権譲渡・土地譲渡の対抗)】

1 地上権に関する当事者の変更(地上権譲渡・土地譲渡の対抗)

地上権が設定されているケースで、土地(所有権)や地上権が譲渡されたときは、地上権に関する権利義務が承継されることがあります。承継された場合は当事者が変更することになります。本記事ではこのような地上権に関する当事者の変更(交替)について説明します。

2 地上権の譲渡

(1)地上権の譲渡→原則自由・制限する特約は債権的効力

地上権者は、土地賃借権とは違い、原則として自由に譲渡できます。
一方で、譲渡禁止特約も可能ですが、登記できないため第三者に対抗できません。建物所有目的の地上権の場合、地上権譲渡について裁判所の許可を得る制度を使える可能性もあります。

地上権の譲渡→原則自由・制限する特約は債権的効力

あ 地上権の譲渡→自由

地上権者は原則として地上権を自由に譲渡できる

い 譲渡禁止特約→債権的には有効

ア 特約の可否 地上権の譲渡禁止特約をすることは可能だが、登記する方法がないため第三者に対抗できない
イ 特約違反 譲渡禁止特約に反して地上権を譲渡した場合、譲渡の効力は有効となるが、地上権者は土地利用者に対して損害賠償責任を負う可能性がある
ただし、建物所有を目的とする地上権の場合、借地借家法19条および20条の類推適用があると考えられる

(2)純粋な地上権譲渡以外による地上権の移転

「地上権」そのものを譲渡(売買)した場合以外にも、地上権が移転することがあります。
相続による移転、地上権者に設定された抵当権の実行による移転、特殊なケースとして、地上権者が工作物や竹木を第三者に譲渡した場合に従たる権利として地上権が(も)移転する、というものもあります。

純粋な地上権譲渡以外による地上権の移転

あ 地上権の相続

地上権は相続により移転し、相続人が新地上権者となる

い 抵当権の実行

地上権上に抵当権を設定することも地上権者の自由であり、抵当権の実行(競売)により地上権は移転する

う 従たる権利としての地上権移転

ア 地上の工作物・竹木の譲渡→地上権移転あり 地上権者が工作物または竹木を第三者に譲渡したときは、特別の場合を除き、地上権もまた譲渡されたと見られる
※大判明治37年12月13日
イ 地上の工作物の競売→地上権移転あり 地上権者所有の地上物が競落された場合、競落人は原則として地上権も取得したと見なされる
※大判明治33年3月9日
ウ 伐採後の材木・伐採予定の竹木の譲渡→地上権移転なし 地上権の設定された土地上の工作物を材木として譲渡、または竹木を伐採予定で譲渡した場合、地上権は譲渡対象物の従たる権利には当たらないため移転しない

(3)地上権譲渡の所有者への対抗

地上権が譲渡されたときは、その登記をしなければ「第三者」に対抗できないのは当然です。その「第三者」に、土地の所有者も含まれるのか、という問題があります。
判例は、「第三者」に土地所有者を含む、という解釈を採用していますが、別の学説もあります。

地上権譲渡の所有者への対抗

あ 地上権移転の対抗→登記必要

ア 譲渡による取得の対抗→登記必要 地上権の譲受人が、土地を使用するために地上権の取得を土地所有者に対抗するには、その登記をすることを要する
イ 譲渡による喪失の対抗→登記必要 地上権の譲渡人が、地代の支払を拒否するために地上権の喪失を土地所有者に対抗するには、その登記をすることを要する
※大判明治39年2月6日

い 代用対抗要件

建物の所有登記による対抗要件(借地借家法10条)を備えた地上権が譲渡された場合、建物についての移転登記があれば、地上権の譲渡による取得も、譲渡による喪失も、土地所有者に対して対抗することができる

う 別の見解=登記不要説

登記必要説に立つと土地所有者が、地上権の譲渡人に対しては、地上権譲渡を承認して譲渡人はもはや地上権者でないとし、譲受人に対しては、登記欠缺を理由に地上権譲受けを否定して譲受人はいまだ地上権者でないとする、という両刃論法がなされるおそれもあるため、譲受人は地上権取得登記がなくとも、自己の地上権取得を甲に対して主張しうると解すべき

3 土地所有者の交代(所有権譲渡)

ここからは、地上権が設定された土地(所有権)を、所有者が譲渡することについて説明します。

(1)土地譲受人(新所有者)への地上権の主張→対抗要件必要

まず、「地上権」に着目すると、地上権者と土地の譲受人は対抗関係となります。そこで、「地上権」について対抗要件がないと、譲受人(新所有者)の立場では「地上権はない」ことになります。

土地譲受人(新所有者)への地上権の主張→対抗要件必要

あ 対抗関係→主張するには登記が必要

地上権の設定された土地の所有権が譲渡された場合、地上権者が土地譲受人に地上権を対抗するには登記が必要である

い 代用対抗要件=建物所有登記

建物所有目的の地上権については、地上権登記の代わりに建物の所有登記でも、土地譲受人に地上権を対抗することができる
※借地借家法10条

(2)所有権譲渡の地上権者への主張→対抗要件必要

次に、土地(所有権)の譲渡に着目します。土地が譲渡されたときは、その登記をしなければ「第三者」に対抗できません。その「第三者」に、地上権者も含まれるのか、という問題があります。
判例は、地上権者は「第三者」に含まれるという解釈を採用していますが、別の学説もあります。

所有権譲渡の地上権者への主張→対抗要件必要

あ 所有権移転の対抗→登記必要

ア 所有権取得の対抗→登記必要 土地譲受人が地上権者に地代を請求する等、自己が土地所有者であることを主張するためには、所有権移転登記を要する
※大判昭和8年5月9日(ただし、地上権でなく土地賃借権に関する)
詳しくはこちら|賃貸人たる地位の承継と所有権移転登記の関係(判例=対抗要件説)
イ 所有権喪失の対抗→登記必要 地上権設定時に土地所有者が修補義務を負うとの特約がされ、その後土地が譲渡された場合、移転登記未了の時点で譲渡人が地上権者から修補請求を受けたとき、すでに自己が土地所有者でなく修補義務もないことを地上者に対して主張しえないと解すべきである

い 別の見解→登記不要説

地上権者が、所有権の譲渡人に対しては、所有権譲渡を承認してもはや所有権者でないとして地代の支払いを拒否し、譲受人に対しては、登記欠缺を理由に所有権譲受けを否定して地代の支払いを拒否する、という両刃論法がなされるおそれもあるため、譲受人は所有権取得登記がなくとも、自己の所有権取得を甲に対して主張しうると解すべきである

4 当事者の変更における特約の承継の有無

地上権譲渡のケースでも、土地(所有権)譲渡のケースでも、地上権の対抗要件があれば、地上権関係(後述)は維持されて、当事者が変更(交替)となった扱いになります。ここで、地上権設定契約における特約は承継されるのか、という問題があります。

(1)地上権の譲渡→地上権登記は特約登記が必要・代用対抗要件は不要

特約の付された地上権が譲渡されたとき、特約の効果を相手方に対抗するには、特約についても対抗要件が必要となります。地上権登記であれば特約の登記が必要です(特約の登記がないと承継しない)。代用対抗要件では特約は登記できないので特約の登記は不要(特約は承継する)です。

地上権の譲渡→地上登記は特約登記が必要・代用対抗要件は不要

あ 登記された地上権→特約も登記必要

登記された地上権が譲渡されたが、その特約が登記されていなかった場合、所有者はこの特約を地上権の譲受人に対抗できない

い 登記以外の対抗要件→特約は登記不要

未登記の地上権が譲渡されたが、その地上権が借地借家法10条による対抗要件を備えていた場合、所有者は特約(ただし登記事項とされる特約に限る)を地上権譲受人に対抗することができると解すべきである

(2)土地の譲渡→地上権登記は特約登記が必要・代用対抗要件は不要

土地が譲渡されたケースで、地上権の対抗要件があるので地上権関係が維持されている場合を想定します。特約が承継されるかどうかという問題については、地上権譲渡のケース(前述)と同じ結果になると思われます。

土地の譲渡→地上権登記は特約登記が必要・代用対抗要件は不要

あ 地上権登記ケース→未登記特約は主張不可

地上権が設定され、その登記もされた土地の所有権が譲渡された場合、特約についても登記がされてないときは、地上権者は土地譲受人に特約の効力を対抗することができない
※大判明治40年3月12日

い 代用対抗要件→特約は登記不要(参考)

代用対抗要件による対抗力のある賃借権の対象不動産の譲渡のケースについて、賃貸借の特客は、特段の公示方法なしで新所有者に当然承継される
詳しくはこちら|賃貸人たる地位を承継した新所有者に承継される事項の全体像
代用対抗要件による対抗力のある地上権の対象不動産の譲渡でも同じだと思われる

5 地上権者・土地所有者間の権利義務→「地上権関係」「状態債務」

以上のように、一定の対抗要件がある場合は、地上権か土地(所有権)の譲渡があっても、地上権は維持されて、当事者が変更した扱いになります。この「地上権が維持される」というところを突き詰めると、「制限物権が帰属する者」と「制限された所有権が帰属する者」という2つの立場というよりは、地上権設定契約をした当事者(の地位)が存続している、という性質があります。そこで「地上権関係」という継続的な債権関係の当事者の地位が移転した、と捉える方が適切です。
この点、賃貸借のケースで(一定の条件をクリアして)賃借権の譲渡や目的物(所有権)の譲渡があった場合、賃貸借契約の契約上の地位の移転として扱われます。
詳しくはこちら|賃貸人の承諾を得た賃借権譲渡の効果(契約上の地位の移転)
詳しくはこちら|対抗力のある賃借権の目的物の所有権移転と賃貸人たる地位の承継(基本)
対抗力のある地上権も、基本的にはこれと同じ扱いをする、といえます。

地上権者・土地所有者間の権利義務→「地上権関係」「状態債務」

あ 包括的・継続的関係

ア 地上権者の権利→土地使用権 地上権者には土地を使用する権利がある
イ 設定者の義務→使用受忍義務 設定者には地上権者による土地の使用を受忍する義務がある

い 妨害除去請求権の内容

ア 第三者に対する妨害排除請求→物権的請求権 地上権の内容実現が第三者によって妨げられた場合には、地上権に基づく物権的請求権(返還請求権・妨害排除請求権・妨害予防請求権)が生ずる
イ 設定者に対する妨害排除請求→包括的継続的関係の具体化 地上権者から設定者に対する妨害除去請求権は、物権的請求権であるとしても、設定契約の趣旨に従って具体的・個別的に規制される

う 権利義務の総体→「地上権関係」「状態債務」

土地賃貸人と賃借人との間の賃貸借関係と同様に、土地所有者と地上権者との権利・義務の総体も、これを地上権関係とでも称すべく、この関係は、単なる物権関係ではなく、地上権設定契約に基づく継続的な一種の債権関係であると解すべきである。
さらに、この関係は、いわゆる状態債務の関係であり、当事者の一方が変更しても、そこに対抗力が存在しているかぎり、旧来の当事者間に存在した状態が新当事者間にも存続してゆくのである。
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p879

6 参考情報

参考情報

※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p875〜879

本記事では、地上権に関する当事者の変更について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地権やそれ以外の地上権に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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