【地上権(建物所有目的以外)の認定基準と具体例(判例)】
1 地上権(建物所有目的以外)の認定基準と具体例(判例)
実務で登場する地上権は、建物所有目的(借地権)であることが多いです。しかし、太陽光発電設備の用地や山林などで地上権が活用されるケースもあります。最近設定された地上権であればよいのですが、古くから続く利用関係においては、契約書が残っておらず、また、設定当時の当事者もすでに亡くなっており、そもそも地上権なのかどうかがわからないという状況も珍しくありません。
本記事では、建物所有目的以外の土地の利用関係を前提として、地上権と認定する基準と実際の判断(判例)を説明、紹介します。
2 地上権該当性の判断基準(枠組み)
最初に、地上権にあたるかどうかを判定する基準の基本部分(枠組み)を整理します。
(1)開始時が明治33年以前→地上権推定(地上権ニ関スル法律)
開始時が明治33年以前→地上権推定(地上権ニ関スル法律)
あ 「地上権ニ関スル法律」による推定
「地上権ニ関スル法律」(明治33年法律72号)施行の日以前から工作物または竹木の所有のために他人の土地を使用する者に限っては、地上権者と推定される
この推定は使用開始の時期を問わず、今日でも有効である
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p868
い 裁判例
植林のための地上権で「地上権ニ関スル法律」施行前から存在した公算が大きく、かつ、所有者の承諾なしに権利が譲渡されてきたケース
→地上権と認めた
※山形地判昭和37年9月3日
(2)判定の総合性→複合的判断
判定の総合性→複合的判断
地上権と認定することにつて、複数の判断基準が存在する(後記)
しかし、それらの基準はいずれも地上権か土地賃借権かの区別において決定的ではなく、一切の事情を総合して決定する必要がある
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p868、869
(3)権利判断の実務的視点→直接判断の必要性
権利判断の実務的視点→直接判断の必要性
あ 地上権該当性の判断が必須な訴訟
地上権または土地賃借権の存否についての確認訴訟、あるいは地上権または土地賃借権の登記(抹消)請求訴訟においては、直接に具体的な土地利用権が地上権か土地賃借権かを判断することが不可避である
い 他の訴訟→地上権該当性判断回避可能
ア 判断回避の推奨
しかし、それ以外の多くの事案においては、その利用権に自由譲渡性があるか、土地所有者に修補義務があるかなどの争いの前提問題として地上権か土地賃借権かが争われるこのような場合、まず権利が地上権か土地賃借権かを定めて、そこから演繹して具体的問題を決定するという態度は避けるべきである
イ 理由→地上権該当性と結論が直結しない
その理由は、仮に地上権か土地賃借権かが決まったとしても、具体的な問題点については、特約の存在などにより、結論は演繹的には必ずしも導出されないからである
したがって、結局は、一切の事情を考慮して、直接にその具体的問題についての合理的判断が下されるべきである
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p870
3 地上権該当性の判断基準(具体的判断要素)
建物所有目的以外のケースについて、地上権にあたるかどうかの判断基準としては複数のものがあります。個々の判断基準を整理します。主に、地上権と賃借権のどちらにあたるのかを判別することが前提となっています。
(1)譲渡性による区別→自由譲渡可能は地上権肯定方向
譲渡性による区別→自由譲渡可能は地上権肯定方向
あ 原則→譲渡性差異
原則として、地上権には譲渡性があり、土地賃借権には譲渡性がない(民法612条)
そのため、土地用益権者がその敷地利用権を土地所有者の承諾なしに自由に譲渡できるか否かは、地上権か土地賃借権かを識別する一つの基準となる
※大判明治32年1月22日
い 限界→特約可能性
この基準も絶対的なものではない
土地賃借権であっても、あらかじめ土地賃貸人が土地賃借権譲渡につき包括的承認を与えている場合は譲渡の自由がある
また、地上権についても譲渡禁止の特約は当事者間では有効である
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p869
(2)期間による区別→長期は地上権肯定方向
期間による区別→長期は地上権肯定方向
あ 原則→長期は地上権肯定方向
地上権の場合は、その目的から見て短期のものは合理的とはいえず、極めて長期のものも認められる
これに対して、土地賃借権はその期間の長さが制限されている(民法604条1項)
そのため、長期のものは地上権である
※大判明治33年10月29日
い 例外の存在
ア 短期の地上権
期間による判定(判断基準)も絶対的なものではない
地上権でも短期のものが可能である
※大判明治34年4月17日
※大判明治34年10月23日
※大判明治34年11月25日
イ 長期の賃借権(借地権)
土地賃借権も、建物所有を目的とするものについては、長期の制限は除かれ、逆に短期が制限されている(借地借家法3条但書)
ウ まとめ
期間の長短は判別の基準として絶対的なものではない
※大判大正3年6月4日
(3)修補義務による区別→修繕義務なしは地上権肯定方向
修補義務による区別→修繕義務なしは地上権肯定方向
あ 修繕義務の有無(前提)
原則として、地上権においては、土地所有者は土地を地上権者の利用しうる状態におく義務(修補義務)を負わない
一方、土地賃借権においては、土地賃貸人はこの修補義務を負う(民法606条1項)
したがって、この修補義務の有無が地上権か土地賃借権かを識別するための一つの基準となる
い 修繕義務の有無による判定
ア 修繕義務あり→賃借権
地主の費用負担があるケースについて、土地賃借権と判断した
※東京地判明治37年3月8日
イ 修繕義務なし→地上権
利用権者の費用負担がある(土地所有者に負担なし)のケースについて、地上権と判断した
※大判明治37年11月2日
う 限界→特約可能性
この基準も絶対的なものではない
地上権においても、特約によって土地所有者が修補義務を負うことは可能である
また、土地賃借権においても特約により土地賃貸人がこの修補義務を免れることも可能である
※東京地判明治42年2月12日
※東京地判大正5年2月7日
(4)契約書上の文言による区別
契約書上の文言による区別
あ 地上権、賃貸借と整合する文言
当事者が契約書中で「地上権」「地代」あるいは「賃貸借(賃借権)」「賃料」というような用語を用いていることも、判断の一材料となる
この基準も絶対的なものではない
い 例外的な文言使用の実情
ア 地上権における「賃借」
地上権の場合を含めて他人の土地の利用一般を「賃借」と称することがある
※東京地判大正2年6月30日
イ 賃貸借における「地代」
「地代」という語は広く土地使用料一般を意味することもある
※東京地判大正元年10月23日
ウ 賃借権についての「地上権」という呼称(俗称)
土地賃借権のことを一般に「地上権」と呼ぶ例もある
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p870
(5)都会地の土地利用→賃借権と推定
都会地の土地利用→賃借権と推定
都会地における他人の宅地利用の場合には、土地賃借権であると推定されるべきである
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p870
4 地代なし(無償)のケース→地上権否定方向
地上権は通常、土地使用の対価として地代の支払がなされますが、法律上は無償であることも許容されます(地代が必須の要件ではありません)。つまり、土地の所有者以外の者が無償で土地を利用しているケースでは、地上権と使用貸借のどちらか、ということになります。大きな方向性としては、使用貸借である(地上権ではない)と判断される傾向があります。
(1)原則→使用貸借認定(地上権否定)
原則→使用貸借認定(地上権否定)
強力な用益物権である地上権が無償で設定されることは稀であるため、無償の場合に地上権と判定することは一般的に困難である
(区別の基準はほぼ地上権と土地賃借権の区別に準ずる)
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p870
(2)判断の具体例(判例)
判断の具体例(判例)
あ 夫婦間の土地利用関係
ア 大正15年大判→地上権認定
夫婦間で設定された土地用益権で建物所有を目的とし、存続期間および地代の定めがないケース
地上権と判定した
※大判大正15年11月3日
イ 昭和47年最判→規範(使用貸借が原則)
夫婦間での土地の無償使用の関係を地上権と判定するためには、何らかの理由があって当事者が特に強固な用益関係の設定を意図したと認められるべき特段の事情が存在することが必要である
※最判昭和47年7月18日
い 公益性大→地上権認定
皇室御料林が50年の期間で無償で水産業・林業の改良などを目的とする公益性の強い社団法人に「貸下げ」られたケース
地上権と判定した
※東京地判昭和35年3月31日
(3)建物所有目的の無償土地利用ケースの判断基準(参考)
本記事では、建物所有目的(借地権)ではない土地利用関係を前提として説明しています。この点、建物所有目的のケースにおける、地上権・使用貸借の判定については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|借主の金銭負担の程度により土地の使用貸借と借地(賃貸借)を判別する
本記事では、地上権の認定基準について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に地上権(土地の利用関係)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。