【地上権が及ぶ土地の範囲(周囲部分・1筆の一部・上下の範囲)】
1 地上権が及ぶ土地の範囲(周囲部分・1筆の一部・上下の範囲)
地上権は、工作物、竹木の所有のために土地を利用する権利(物権)です。
詳しくはこちら|地上権の基本事項(性質・「工作物」「竹木」の意味)
実務では、地上権の「範囲」が問題になることがあります。本記事では、地上権が及ぶ範囲についてのいろいろな解釈を整理してまとめました。
2 工作物、竹木の周囲(周辺)部分→含む
(1)地上権設定可能範囲→「必要なその周囲の土地」も含む
地上権設定可能範囲→「必要なその周囲の土地」も含む
※大判明治34年7月8日
※大判明治34年10月28日
※大判大正14年4月23日
(2)周囲の土地の位置づけ→意思解釈の推定+設定可能
周囲の土地の位置づけ→意思解釈の推定+設定可能
あ 意思解釈(事実認定)→周囲土地も推定
周囲の土地は、地上権設定契約で特段の定めがないかぎり、地上権の対象とされているものと推定される
い 設定可能な範囲
周囲の土地は、それ自体の上に工作物の設置や樹木の植栽がなされることが目的とされていなくとも、地上権の対象となりうる
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p872
3 土地の一部を対象とする地上権→可能
(1)過去の議論(深堀り)
過去の議論(深堀り)
あ 過去の理由付け
地上権設定の登記には地上権の範囲を明らかにすることが要求されていた(旧不登111)
これを根拠として土地の一部の上の地上権設定を肯定した
※台湾高上判昭和5年2月5日
い 法改正による没却
しかし、昭和35年の不動産登記法の改正により、地上権の範囲は登記事項でなくなり(旧不登111I)、現在の不動産登記法78条もそれを引き継いでいるため、この説明は通用力を失った
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p872
(2)現在の実務→土地の一部を対象とする地上権を肯定
現在の実務→土地の一部を対象とする地上権を肯定
あ 「筆」概念と取引の関係→一致しない
「筆」の概念は、行政的および物権公示技術的な土地の単位づけであり、取引上や用益上の単位と必ずしも一致するわけではない
一筆の土地の一部についての取引は、それを直接に公示する手段はないとはいえ、当事者の合意(民法176条参照)としても否定すべきではない
い 借地の実務→ありふれている
建物所有を目的とする地上権は、一筆の土地の一部の上のものであっても、借地借家法10条所定の対抗要件を具備することによって対抗力を有しうる
一筆の土地の一部の上の地上権を肯定することは、今日といえども実際上必要である
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p872、873
(3)土地の一部を対象の地上権の扱い→例外・登記による対抗力
土地の一部を対象の地上権の扱い→例外・登記による対抗力
あ 位置づけ→例外
地上権は一筆の土地の全部に及ぶのが普通であり、具体的なある地上権が一筆の土地の一部にしか及ばないというのは、地上権の効力の例外的な制限と見ることができる
い 制限の対抗力→登記が必要
ア 地上権登記(そのもの)→「制限」は登記必要
このような制限を受ける地上権が(この制限は登記する方法がないため)制限のないものとして登記されている場合、この地上権が第三者に譲渡されると、土地所有者は上述の制限をもって地上権譲受人に対抗できなくなる
その結果、譲受人は制限のない地上権、つまり一筆の土地全部に及ぶ地上権を取得することになると解すべきである
イ 代用対抗要件→「制限」の登記不要
ただし、上述の地上権が登記されておらず、借地借家法所定の公示手段のみを具えているにすぎない場合には、このような問題は生じえない
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p873
4 地上権の上下(垂直)の範囲→制限なし
(1)地上権が及ぶ上下の範囲→制限なし
地上権が及ぶ上下の範囲→制限なし
あ 判例→制限なし(所有権と同じ)
(区分所有権ではない)通常の地上権においては、観念的には、地上権の支配力は地表の上下に及ぶと考えてよい
地上権者は、土地所有者が有しうるのと同じ範囲での支配力を土地に対して有する
※大判明治32年1月22日
※大判明治37年11月2日
い 議論の実益→乏しい
現在の土木・建築等の技術の及びえない高空や地底深くへの地上権の支配力を論ずることは無意味である
所有権自体の支配力についても同様のことがいえる(民法207条II3参照)
「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」による制限はある
う 区分地上権(参考)
垂直的な土地の一部だけについての地上権(地下または空間を利用する地上権)も認められている
※民法269条の2
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p873
土地所有権の上下の範囲については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|土地所有権の『上下の限界』|上空は300m・地下は40m
(2)土地所有者の上下空間の利用権限→否定
土地所有者の上下空間の利用権限→否定
この種の地上権も、地表の近傍のみを利用する一種の区分地上権(民法269条の2参照)ではなく、あくまでも普通の地上権であるというべきである
(ただし、地上権のみならず、土地所有権自体すらも、一定の場合には限定されると解されうる)
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p873、874
本記事では、地上権の及ぶ範囲について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に地上権など、土地の利用関係に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。