【地役権の種類(分類と「便益」の具体例)】

1 地役権の種類(分類と「便益」の具体例)

土地を利用する権利の1つとして、地役権があります。土地に関する実際のトラブルを解決する時に、地役権の基本的な知識が役立つことがあります。
本記事では、地役権の分類や、「便益」(地役権を使う目的)の典型的なものを整理します。

2 地役権の定義と「便益」の意味(要点)

(1)地役権の定義の要点→要役地の使用価値アップ

地役権の定義の要点→要役地の使用価値アップ

あ 地役権→土地便益権

地役権は、設定行為をもって定めた目的にしたがって他人の土地を自己の土地の便益に供する権利である

い 「便益」→要役地の使用価値増大

土地の便益の種類には別に制限はない
要役地たる土地の使用価値を増大するものでなければならない

う 位置関係→隣接不要

要役地と承役地は隣接地である必要はなく、距離の遠近には関係がない
※中尾英俊稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2007年p932

(2)「便益」の範囲→個人的便宜は否定・要役地の生活・事業に必要は肯定

「便益」の範囲→個人的便宜は否定・要役地の生活・事業に必要は肯定

あ 個人的便宜→否定

要役地所有者の個人的便宜(例えば個人的に昆虫採集するなど)は(要役地の)「便益」に含まない

い 要役地の生活・事業に必要→「便益」肯定

土地の便益とはいっても、承役地を利用するのは人であるため、あまり厳密に解する必要はない
要役地において生活を営みまたは事業を行うに必要なものであれば、要役地の「便益」にあたる
※中尾英俊稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2007年p932

3 行使形態による分類

(1)作為・不作為による分類(深掘り)

作為・不作為による分類(深掘り)

あ 作為→積極的行為

地役権の便益の内容は作為だけでなく不作為も含まれる
作為を内容とする地役権は、要役地の所有者が承役地を通行したり用水路を敷設したりするなど、積極的な行為を目的とするものである

い 不作為→消極的禁止

不作為を内容とする地役権は、承役地上に要役地の眺望を妨げるような建物を建築しないなど、消極的にある行為をしないことを目的とするものである

う 区別の実益→なし

作為と不作為の地役権は地役権者の行為が異なるだけで、その効力には変わりなく、両者の区別は法律上格別実益がない
※中尾英俊稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2007年p932

(2)継続・不継続による分類(深掘り)

継続・不継続による分類(深掘り)

あ 継続地役権の意味→常時実現

継続地役権とは、間断なく権利の内容が実現されている地役権である
例=通路を開設している通行地役権や送電線を敷設している地役権

い 不継続地役権→権利者の行為が必要

不継続地役権とは、概して設備を設けず、権利の内容を実現するのに個々に権利者の行為を要する地役権である
例=通路を開設しない通行地役権

う 区別の実益→時効の判定

この区別は、地役権の取得時効(民法283条)ならびに消滅時効期間の起算点(民法291条)について実益がある
※中尾英俊稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2007年p932、933

(3)表現・不表現による分類(深掘り)

表現・不表現による分類(深掘り)

あ 表現地役権→外部認識可能

表現地役権とは、権利の内容の実現が外部から認識されうるものである
例=通路を開設している通行地役権や地上の送水管敷設による用水地役権

い 不表現地役権→外部認識不能

不表現地役権は、権利の内容の実現が外部から認識しえないものである
例=要役地の眺望を妨げる建築をしないことを内容とする眺望地役権や地下の送水管による引水地役権

う 区別の実益→時効の判定

この区別は、地役権の取得時効について実益がある(民法283条)
※中尾英俊稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2007年p933

4 便益の目的(土地利用方法)による分類

(1)通行地役権→実用としては最も多い

通行地役権→実用としては最も多い

あ 通行地役権の意味

通行地役権は、要役地所有者が他人の土地を通行するために設定する地役権である

い 形態→継続・不継続

通行地役権には、通路を開設して通行するもの(継続・表現)と、通路を開設せずただ地上を通行するもの(不継続・不表現)がある
※中尾英俊稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2007年p934

(2)用水地役権→慣習による水利権という位置づけもあり

用水地役権→慣習による水利権という位置づけもあり

あ 用水地役権の意味→引水・排水目的

用水地役権は、要役地用に供するため承役地から引水し、あるいは甲地から乙地に引水または排水する目的で、溝あるいは送水管を敷設するために設定される地役権である
用水地役権が契約によって設定されることはそれほど多くない
特に田畑の灌漑用の引水のための地役権は慣習によるものが多い

い 慣習的水利権という位置づけ

慣習による灌漑用の引水の権利は、地役権よりも慣習上の権利たる水利権として構成されることも多い
※中尾英俊稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2007年p934

(3)電線路敷設地役権→登記上は最も多い

電線路敷設地役権→登記上は最も多い

あ 電線路敷設地役権の意味

電線路敷設地役権は、電気事業者が他人の土地に電線路を敷設するため、自己の所有する発電所または変電所用地のために設定する地役権である
現在地役権のうち最も多く登記されているのは、電線路敷設のための地役権であるといわれている

い 農地法によるみなし設定

国が取得した未墾地等につき、電気事業者が電線路の施設の用に供していたときは、その電線路に近接する発電所その他の施設の用地でその電気事業者が所有する土地を要役地としてその土地上に地役権が設定されたものとみなす(農地法54条2項)
※中尾英俊稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2007年p934

(4)電線路敷設地役権→人的便益の要素もあり

電線路敷設地役権→人的便益の要素もあり

あ 実質→人的要素がメイン

送電線敷設のための地役権は、発電所等の施設のある土地の便益に供する権利と構成されている
しかし、このような権利は、むしろ電気事業者が電線路を敷設するために制限的に他人の土地を使用する権利であると解する方が自然である
「人の便益」であれば(土地の便益でなければ)地役権として認められない

い 登記→土地地役権構成

電線路の権利を保全し地役権として登記するには、土地の便益に供する権利として位置づけるしかない
※中尾英俊稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2007年p934

(5)送電線敷設のための区分地上権→標高の特定に支障あり(参考)

送電線敷設のための区分地上権→標高の特定に支障あり(参考)

あ 区分地上権による利用権設定

送電線敷設の権利設定の方法として、区分地上権(民法269条の2)を設定することが考えられる
内容=電線路ならびに電柱を含めて、工作物所有のため空間に上下の範囲を定めて他人の土地を使用する
区分地上権を設定すれば電気事業者のために地役権と同じ効力をもつ権利を設定することができる

い 問題点→地形不適合

区分地上権は空間の上下の範囲を定めなければならない(不登78条5号)
その範囲を標高何メートルから何メートルの間と定めることは山岳、傾斜地の多いわが国の実情には合わない点が多い
※中尾英俊稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2007年p934

(6)眺望・日照地役権→眺望・日照の権利は弱いので地役権活用は有用

眺望・日照地役権→眺望・日照の権利は弱いので地役権活用は有用

あ 内容→不作為義務

眺望・日照地役権は、要役地の眺望や日照を妨げる建造物を建てないことを目的とする地役権で、専ら不作為を内容とする
※中尾英俊稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2007年p934

い 眺望や日照の権利→弱い傾向(参考)

(地役権の設定がないケースの一般論として)
日照や眺望が妨げられたという理由で(建物所有者や建築業者に対する)損害賠償請求や工事の差止請求が認められることは多くない
眺望・日照地役権を設定することができれば、確実に眺望・日照を確保することができる

日照や眺望の権利性については、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|日照確保のためには日照地役権設定がベスト
詳しくはこちら|眺望権は権利として認められない|『眺望地役権』設定は有意義

(7)田ざわり・蔭打→農村の日照確保の慣習的地役権

田ざわり・蔭打→農村の日照確保の慣習的地役権

あ 田ざわり・蔭打の意味→農作物日照確保

田ざわり・蔭打地役権は、主に山間部の農村において耕地が樹木の蔭になって農作物の成長が妨げられるのを防ぐために設定される
(山林が「田ざわり」であり、樹木の刈取りが「蔭打ち」である、名称は地方によって異なる)
この地役権は、一定の範囲にわたり耕地に近接する山林の樹木の刈取りを耕地の所有者に認めたり、あるいは山林に樹木の植栽をさせないという内容をもつ
この地役権が明確な契約によって設定されることは少なく、多くは慣習によるものである

い 性質→日照地役権

耕地の便益のため山林所有者に不作為を義務づける地役権であり、日照地役権の一種といえる
※中尾英俊稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2007年p935

(8)浸冠水地役権→水力発電所の洪水対策

浸冠水地役権→水力発電所の洪水対策

浸冠水地役権は、電気事業者等が、水力発電所の貯水池周辺において洪水時に一時的に浸水あるいは冠水する土地に対し設定する地役権である
当該発電所敷地を要役地として、発電所ダム運営による浸冠水の認容および住居その他工作物の建設禁止を内容とする
いわゆる遊水地もこの地役権に相当する
※中尾英俊稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2007年p935

本記事では、地役権の種類について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に地役権など、土地の利用に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【民事保全の事件記録の閲覧謄写ができる者(利害関係人)の範囲】
【地上権の地代(位置づけ・譲渡における扱い・滞納による消滅請求)】

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