【区分地上権における「工作物」の特殊性(具体例・土地との付合・区分建物の空中階)】
1 区分地上権における「工作物」の特殊性(具体例・土地との付合・区分建物の空中階)
区分地上権は地下や上空の工作物所有目的の場合だけ、設定できます。「地下や上空」というところが、通常の地上権とは異なります。この特殊性が法的扱いにいろいろな影響を及ぼしています。
本記事では、「工作物」の特殊性に起因する法的扱いについて整理しました。
2 区分地上権の条文と「工作物」の具体例
(1)民法269条の2の条文
民法269条の2の条文
第二百六十九条の二 地下又は空間は、工作物を所有するため、上下の範囲を定めて地上権の目的とすることができる。この場合においては、設定行為で、地上権の行使のためにその土地の使用に制限を加えることができる。
2 前項の地上権は、第三者がその土地の使用又は収益をする権利を有する場合においても、その権利又はこれを目的とする権利を有するすべての者の承諾があるときは、設定することができる。この場合において、土地の使用又は収益をする権利を有する者は、その地上権の行使を妨げることができない。
※民法269条の2
(2)区分地上権の目的→工作物所有のみ
区分地上権の目的→工作物所有のみ
竹木所有のために設定することはできない
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p895
工作物の概念については、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|地上権の基本事項(性質・「工作物」「竹木」の意味)
(3)工作物の具体例→地下鉄(トンネル)・送電線・高架線など
工作物の具体例→地下鉄(トンネル)・送電線・高架線など
建物所有を目的とする区分地上権については、借地借家法が適用される
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p895
3 地下工作物の特殊性と法的問題
(1)土地との一体性→工作物非該当の可能性
土地との一体性→工作物非該当の可能性
あ 通常の建物→付合なし(前提)
建物以外の地下の工作物についても、通常の工作物と異なる問題が生じる
通常の工作物の場合には、それが土地に「権原によって附属させ」られた場合には、土地に付合しないと解されている(民法242条ただし書)
い 地下工作物→強い付合
地中の工作物の場合には、工事の性質上、工作物は土地の本体的構成部分と化する(いわゆる「強い付合」)と評価する傾向がある
この場合、「工作物所有を目的とする」地上権といえるかという別の問題が生じうる
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p895、896
(2)土地との一体性→原状回復は「土地」のみ
土地との一体性→原状回復は「土地」のみ
あ 原則→土地と建物は別個不動産
民法の原則によれば、建物はその敷地とは別個の不動産とされる
い 地下の建物→土地と一体化・原状回復の特殊性
しかし、地下に建設された建物等については、土地(正確には土地の構成部分である土砂・岩石等)と切り離された建物自体を観念することが困難な場合が少なくない
地下建物の収去は、普通の建物の場合と違って、単に土地の原状回復を意味するのみであることが多い
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p895
(3)地上権者の土地変更制限→理論修正必要
地上権者の土地変更制限→理論修正必要
あ 原則→変更行為禁止
地上権者は、土地に対して、回復することのできない損害を生ずべき変更を加えることができない(民法271条の準用)
い 地下工作物→理論修正必要
地下の工作物の設置は、ほとんど常に、土地に回復することのできない損害を生ずべき変更を加えるものである
この点で従来の理論をなんらかの形で修正する必要がある
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p896
4 無権原者による空中工作物設置と付合→付合否定(参考)
無権原者による空中工作物設置と付合→付合否定(参考)
あ 原則→付合肯定
無権原者が土地に設置した工作物は土地に付合する(民法242条本文)
い 空中工作物→付合否定
空中の工作物は、たとえ無権原者によって設置されても、土地に付合することがないと解すべきである
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p896
5 区分建物の空中階と区分地上権→否定
区分建物の空中階と区分地上権→否定
あ 区分地上権の設定→否定
甲所有地上の2階建て建物2階のみを乙が所有する目的で、2階部分が占める空間に乙のために区分地上権が設定する、という発想について
このような2階部分は、本来の空中の工作物(例えば、中途の支柱のない高架橋の中途部分)と違って、建物の1階部分を媒介として敷地地盤によって支持されている
空間の利用権原のみでは、2階部分がそこに存在することの適法性を基礎づけるに十分ではない
(肯定する見解もある)
い 実務→敷地利用権の準共有
他人の土地上の建物を区分階層別に所有するためには、全区分所有者が敷地の利用権を準共有することが必要である
この方法であれば、建物区分所有者の一人のみが(例えば地代不払の理由によって地上権消滅請求ないし解除を受けて)土地所有者から明渡請求をされた場合に、他の区分所有者の立場はどうなるかといった困難な問題を回避できる
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p896
実務では、区分所有建物の敷地利用権を準共有する方法が取られることがよくあります。この場合の賃料(地代)不払に起因する問題については、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|区分所有建物の敷地の賃借権・賃料債務の性質・解除の範囲の解釈論
本記事では、区分地上権における「工作物」の特殊性について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に区分地上権など、(地下、上空を含む)土地の利用に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。