【地上権の地代(位置づけ・譲渡における扱い・滞納による消滅請求)】

1 地上権の地代(位置づけ・譲渡における扱い・滞納による消滅請求)

地上権における土地利用の対価を地代といいます。実務では、地上権の地代に関してトラブルになるケースも多いです。本記事では、地上権の地代についての法的扱い(解釈、議論)を整理します。

2 地上権の地代の位置づけ→必須(要素)ではない

(1)地上権における地代の位置づけ→必須ではない(無償可)

地上権における地代の位置づけ→必須ではない(無償可)

地代は地上権の要素ではない
(賃借権・永小作権(設定)では、賃料や地代が要素(必須)である)
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p879

(2)地代支払形態→一時払い(権利金)と定期払い(地代)

地代支払形態→一時払い(権利金)と定期払い(地代)

地上権が有償で設定された場合(広義の地代がある場合)でも、支払形態は複数ある
定期払の地代(狭義の地代)の形で支払われる場合がある
設定時に一括して権利金の形で支払われる場合がある
両者が併用されることもある
建物所有を目的とする場合には、併用の形が一般的である
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p879

3 当事者が変更(譲渡)した場合の地代の扱い

(1)未発生地代→土地所有権・地上権に付着

未発生地代→土地所有権・地上権に付着

あ 地代債権債務の位置づけ

定期払の地上権においては、未発生地代債務は地上権に付着する
未発生地代債権は土地所有権に付着する
地代債権債務は、所有者・地上権者間の地上権関係の内容の一部を構成する

い 権利移転→債権債務継続

所有者・地上権者の一方が交替した場合でも、地代債権債務は、その内容が新地上権者ないし新所有者に対抗しうるものである限り、新当事者の間で存続する
(ただし、新当事者(第三者)に主張するために登記が必要かどうかは別である(後記))
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p880

(2)地代の対第三者主張→登記必要説と登記不要説あり

地代の対第三者主張→登記必要説と登記不要説あり

あ 登記必要説(通説)

法文の形式(民法266条、不動産登記法78条参照)からいえば、地上権は無償が原則とされる
設定当事者間で地代の定めがあっても、その旨が登記されていないときは、地上権譲受人に対して所有者は特約の効力を対抗できない(所有者は地代請求ができない)
※大阪控判明治39年12月4日

い 登記不要説

通説の見解は現実の状況に適していない
地上権譲受人は原則として地上権に付着する地代支払義務の存在を予想しているといえる
地代支払義務承継を否定する判例はいずれも建物保護法施行前の下級審の裁判例に過ぎない
これらの判例は今日ではもはや先例としての意味を持たないと言える
借地借家法所定の対抗要件を具えた地上権が譲渡された場合、地代支払義務の存在は公示されていなくても、地上権譲受人が当然にこの義務を承継する
このことを考慮すると、地代の登記の必要を強調することは不当である
地代についての登記がなくとも、地上権譲受人はこの義務を当然に承継すると解すべきである
※大判大正3年5月9日(登記不要説を前提としていると読める)
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p879

(3)過去(既発生)の地代→登記必要説と登記不要説あり

過去(既発生)の地代→登記必要説と登記不要説あり

あ 登記不要説(判例)

譲渡前の(元)地上権者の地代滞納の効果も、地代の登記がなくとも、当然に新地上権者に及ぶ
※大判大正3年5月9日(未発生地代の主張にも登記は不要と読める)

い 登記必要説(通説)

通説(我妻=有泉375、舟橋405)は、この判例に反対している
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p880

(4)法定地上権の地代確定前の譲渡→遡及あり

法定地上権の地代確定前の譲渡→遡及あり

法定地上権についての地代確定訴訟(民法388条後段)の継続中に、その法定地上権が譲渡されたケースについて
その後に上記訴訟の判決が確定すれば、法定地上権の譲受人は、譲受時にさかのぼって判決によって定まった地代債務を承継する
※最判昭和43年2月23日

4 地代(金額)の決定と変更→原則合意のみ

地代(金額)の決定と変更→原則合意のみ

あ 内容決定→原則合意

地代債権債務の内容は当事者の合意で定まる
合意によってのみ変更される

い 例外的な裁判所による地代形成

民法388条、罹災都市借地借家臨時処置法17条および25条ノ2、借地借家法17条2項により、裁判所が地代を定めたり変更したりする場合がある
建物所有を目的とする地上権については、借地借家法11条の地代増減額請求の制度がある
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p880

なお、借地借家法が適用されない地上権のケースでも、一般原則(事情変更の原則)による地代の変更が認められることが理論上はありえます。
詳しくはこちら|借地法・借家法の立法前の賃料増減額請求(慣習・事情変更の原則)

5 地代滞納による地上権消滅

(1)地代滞納による消滅請求権の行使→意思表示のみ

地代滞納による消滅請求権の行使→意思表示のみ

あ 基本→2年滞納による消滅請求

地上権者が引き続き2年以上地代の支払を怠ったときは、土地の所有者は、地上権の消滅を請求することができる
※民法266条、276条

い 原則→意思表示で足りる

地代不払を理由に土地所有者が地上権を消滅させるためには、その旨を意思表示すれば足りる
※大判大正7年5月23日

う 例外→受領拒絶ケースでは拒絶解消が必要

土地所有者が地代を受領しない旨の意思が明確であるため、地上権者が口頭の提供をしなくても地代債務不履行の責めを負わない状況にある場合には例外がある
この場合、土地所有者が自己の受領拒絶の態度を改め、以後に地代の提供があればこれを確実に受領すべき旨を明らかにしたのち相当の期間を経過したか、または相当期間を定めての催告をしたのに地上権者がこの期間を徒過した等、自己の受領遅滞等の事態を解消させる措置を講じたのちでなければ、地上権を消滅させることはできない
※最判昭和56年3月20日

(2)滞納レベル→2年「分」以上

滞納レベル→2年「分」以上

「引き続き2年以上地代の支払を怠る」というのは、単にある期の地代の支払を2年以上にわたって延滞したというだけでは十分でない
2年分以上の地代の支払を延滞することを指す
※大連判明治43年11月26日

6 他の規定の準用

(1)地代に関する準用→永小作権と賃貸借の規定

地代に関する準用→永小作権と賃貸借の規定

あ 一次準用→永小作料規定

地代については、民法266条1項によって、永小作料についての274条から276条までの規定が準用される
民法274条および275条(収益に関する規定)は主として竹木の植栽を目的とする地上権についてだけ準用される

い 二次準用→賃貸借規定

その他の点については、266条2項によって、賃貸借に関する規定が準用される
準用される賃貸借の規定の主なものは、民法611条(土地一部滅失による地代減額請求)、614条(地代支払時期)および312条以下(地代の先取特権)である
賃貸借に関する規定のうち、609条・610条は、266条1項(274条・275条)により排除される(準用されない)
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p880、881

(2)建物所有目的の地上権(借地権)→借地借家法の適用

建物所有目的の地上権(借地権)→借地借家法の適用

建物所有を目的とする地上権(借地権)の地代については、借地借家法11条(増減額請求権)および12条(先取特権)の規定の適用がある
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p881、882

本記事では、地上権の地代について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に地上権など、土地の利用に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【地役権の種類(分類と「便益」の具体例)】
【サブリース業者が賃料滞納・不動産オーナーの法的立場と対応方法(事例解説)】

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