【サブリース業者が賃料滞納・不動産オーナーの法的立場と対応方法(事例解説)】

1 サブリース業者が賃料滞納・不動産オーナーの法的立場と対応方法(事例解説)

サブリース契約は、不動産オーナーが安定した賃料収入を得る手段として人気ですが、サブリース業者が賃料を滞納するトラブルが発生することがあります。このような状況に直面したとき、不動産オーナーはどのような選択肢があるのでしょうか。
本記事では、サブリース業者が賃料を滞納した場合に、不動産オーナー(賃貸人)が取りうる法的手段と対応方法について解説します。

2 事例

不動産所有者A(賃貸人)は、サブリース業者B(賃借人)にマンションの1室を月額家賃10万円で賃貸しました。
Bはその部屋をさらに転借人C(入居者)に月額13万円で転貸していました。
Bが3か月連続で賃料を滞納しました。

3 Cの居住を維持する方向性

(1)Bとの契約を解除した上でCと直接契約を締結する方法

Bの賃料滞納を理由に原賃貸借(AB間)契約を解除します。解除方法には、Bとの話し合いによる合意解除と、内容証明郵便等による債務不履行解除の通知があります。
いずれの場合も、AB間の契約解除によって、Cは占有権原を失います。
なお、Aは解除前にCに通知したり弁済機会を与えたりする義務は原則としてありません。ただし、事前にCがAに対して「Bが滞納したら自分が支払う」と申し出て、Aがこれを了承していた場合は例外的にCへの通知が必要です。
Bに対して契約解除を通知した上で、Cに対して直接契約(AC間)を提案します。もともとBC間の賃料は、AB間の賃料よりも高く設定されているのが通常です(サブリース業者Bの利ざやです。10%程度が1つの目安となっています)。
また、市場相場が上がっていれば、現時点の相場賃料の提案も可能です。
条件については従前の内容に縛られないので、ゼロベースで交渉できるのです。
Cとの間で条件がまとまれば、新たな賃貸借契約(AC間)を締結します。
Cが条件に同意しない場合は、後記3の選択肢に移行できます。
(滞納賃料についてはBに別途請求します。)

(2)Bとの契約を維持しながらCから直接賃料を回収する方法

賃貸人Aは転借人Cに対して賃借人に支払うべき賃料の支払いを直接請求できます(民法613条)。
直接請求権の行使は契約解除を前提としておらず、AB間の契約関係はそのまま存続します。
Cに直接請求できる金額は、原賃貸借契約(AB間)の賃料と転貸借契約(BC間)の賃料のうち、小さい方に限定されます。本件では7万円ということになります。
Cは差額(3万円)をBに支払う必要があります。
将来的な安定性を考慮すると、最終的にはBが介在しない関係に移行することが望ましいでしょう。

4 Cを退去させる方向性

(1)契約解除と明渡請求による新規入居者の募集

Bとの契約を解除します。
解除の効果はCに及びます。つまり、AはCに対して明渡を求めることができます(Cは退去する義務があります)。
Cの退去後、新たな賃借人を直接募集します。当然、従前賃料額とは関係なく、市場相場に応じた賃料設定が可能になります。
この選択肢は、前記2(1)のアプローチが不成立となった場合の代替戦略として位置づけられます。

(2)契約解除と明渡請求後、物件を賃貸に供さない方法

Bとの契約を解除します。解除の効果はCに及ぶので、Cに対して明渡を請求します。
明渡後、Aとしては、すぐには入居者を募集せず、自己使用・売却・リノベーションなどを行うこともできます。
物件の将来的な活用方法の見直しや市場状況の変化を踏まえた長期的戦略に基づく賃貸管理の選択肢です。

5 戦略的アプローチ

以上のように、Aには対応方法(選択肢)が複数あります。戦略的な対応をまとめると、次のような流れに整理できます。
・まずBとの契約を解除する決断をする
・Cに市場相場での直接契約を提案する
・Cが同意すれば直接契約(AC間)が実現する(3(1))
・Cが拒否した場合は退去を求めた上で新規入居者を募集する(4(1))
このアプローチにより、Bという不安定要素を排除しつつ、賃料収入の最大化を図ることができます。
特に「Bとの契約を解除した上でCと直接契約を締結する方法(3(1))」は、Bというリスク要因を排除しつつ、Cの居住継続によって空室リスクを回避できる点で特に有用な対応方法といえます。また、解除という法的手段を活用することで、新たな契約条件の交渉においても有利な立場を確保できます。

6 まとめ

サブリース契約において賃料滞納問題が発生した場合、不動産オーナーには複数の対応方法があります。状況や目的に応じて最適な選択肢を選ぶことで、トラブルを効果的に解決し、安定した賃料収入を確保することが可能です。特に転借人との関係構築を考慮した対応が、長期的な不動産経営の安定につながるでしょう。

7 本記事で活用した法的知識の詳細

詳しくはこちら|適法な転貸借における転借人の賃貸人への賃料支払義務(民法613条)
詳しくはこちら|賃貸借の解除を転借人や借地上建物の賃借人に対抗できるか(5準則まとめ)
詳しくはこちら|サブリースの基本(仕組み・法的性格・対抗要件・利ざや相場)

本記事では、サブリース業者の賃料滞納ケースにおけるオーナーの対応方法について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際にサブリース業者の賃料滞納に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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