【建物のサブリースにおける火災発生時のサブリース業者の責任(事例解説)】
1 建物のサブリースにおける火災発生時のサブリース業者の責任(事例解説)
収益物件(建物)の運用で、サブリース方式が使われているケースはとても多いです。この場合、入居者が火災を起こしてしまった時に、サブリース業者の責任が大きな問題となります。本記事ではこれについて説明します。
2 事案
建物がサブリース方式で運用されています。
具体的には、賃貸人(所有者)A、賃借人(転貸人=サブリース業者)B、転借人(入居者)Cの三者が存在します。
Cが当該建物で火災を起こしました。
サブリース業者Bは責任を負うのでしょうか。
3 回答
(1)責任肯定説(履行補助者構成)
転借人Cは賃借人Bの履行補助者と位置づけて、Cの過失による目的物の滅失・毀損については、Bは賃貸人Aに対して責任を負うという解釈です。この見解は昭和4年6月19日の大審院判決が示しています。
この見解を前提とすると、Cの過失(または故意)によって火災が発生した場合には、BもAに対して賠償責任を負うことになります。
(2)過失責任説
賃借人Bが転借人Cの選任・監督に過失があるときにのみ、賃貸人Aに対して責任を負うという解釈です。東京地裁昭和40年9月25日判決がこの見解を採用しています。また、この見解をとる学説も多いです。
この見解を前提とすると、Cの過失によって火災が発生した場合でも、BがCの選任監督につき過失があるといえる場合にのみ、Bが賠償責任を負うことになります。
ただし、Cに故意または重大な過失がある場合には、選任または監督に過失があるとされる傾向が強いです。
(3)失火責任法の適用→否定
失火責任法は、火災発生について軽過失は免責する(重過失の場合だけ責任を負う)という、責任軽減のルールです。ただし、債務不履行による損害賠償(契約責任)”については失火責任法の適用はありません(最高裁昭和30年3月25日判決)。
本件で問題となっている責任は契約責任です。失火責任法の適用(責任の軽減)はありません。
4 取るべき予防策→保険加入
(1)選任監督責任を果たす→決定打ではない
以上の理論を前提として、サブリース業者としての予防策を考えましょう。
単純に考えると、入居者の審査(履行補助者の選任)、入居時や入居後の「指導」(監督)を徹底する、ということになります。ただ、実際に何をすれば選任、監督を徹底したのか、ということはハッキリしません。一定の火を使う器具の使用禁止や、設備や家電の使用にあたっては取扱説明書を読んで使用方法を遵守する、とういことを説明する(契約書の条項に入れておく)、ということが挙げられます。ただ、「選任、監督の責任を果たした」と確実に評価されるというわけではありません。また、責任肯定説が採用されて、選任監督に過失なしだとしても賠償責任を負う、という可能性も十分にあります。
(2)BやCの保険加入
そこで、現実的なリスクヘッジとして、サブリース業者B自身が賠償責任保険(借家人賠償責任保険)への加入する、また、入居者Cに保険加入を義務付ける、という対策が有用ですし、実際によく行われています。
5 本記事で活用した法的知識の詳細
詳しくはこちら|建物の瑕疵や火災による近隣の損害|工作物責任・失火責任法
詳しくはこちら|適法な転貸借における目的物返還義務・滅失毀損時の賠償責任(民法613条)
本記事では、建物のサブリースにおける火災発生時のサブリース業者の責任について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際にサブリースによる収益物件運用に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。