【三為(さんため)による不動産取引のリスクやメリット】

1 三為(さんため)による不動産取引のリスクやメリット

不動産取引では、三為契約(さんため)が使われることがよくあります。本記事では、三為契約とはどんなものか、また、リスク(デメリット)やメリットを説明します。

2 三為契約(三為方式)とは

三為契約は「第三者のためにする契約」(後述)を活用した不動産取引形態です。この方式では以下のようなプロセスで取引が行われます。

<三為契約のプロセス>

あ AB間売買

売主(A)が三為業者(B)に不動産を売却する際、所有権がAから買主(C)に直接移転するという特約を付ける

い BC間売買

三為業者(B)は買主(C)と別の売買契約を結ぶ

う 所有権移転(登記)

所有権登記はAからCへ直接移転する(A→Cという移転登記をする)

AとB間の売買契約、BとC間の売買契約は別個の契約であるため、買主(C)が売主(A)と三為業者(B)間の売買価格を知ることはなく、三為業者は両契約の差額を利益とします。ただし、契約書類は通常取引より多くなります。

3 特徴と通常取引との違い

(1)登記は1回だけ

所有権がA→Cと直接移転しますので、登記もA→Cという1回で済みます。仮に「所有権がA→B→Cと移転したのに登記はA→Cとする(中間省略登記)」のであればこれは違法です。しかし、「所有権がA→Cと移転した」のであれば当然、このとおりに登記するのは適法です。「新中間省略登記」と呼ぶこともありますが、厳密には「登記を省略した」わけではありません。
「所有権がA→Cと直接移転する」ような仕組みを使うところがポイントです。民法537条、538条により認められた手法です。
詳しくはこちら|従来方式の中間省略登記の内容と違法性(裁判例の歴史)
詳しくはこちら|中間省略登記代替的手法(新中間省略登記)の内容や認める公的見解と誤解

(2)仲介業者Bの役割→「仲介」ではない

仲介業者は仲介手数料ではなく、仕入れ価格と売却価格の差額を利益とします。
法定上限のある仲介手数料と異なり、差額に制限はありません。

(3)仲介業者Bの立場→「売主」なので契約不適合責任あり

仲介業者は「仲介」(媒介)をするわけではなく、(買主であり、かつ)「売主」という立場です。
仲介業者Bは買主Cに対して契約不適合責任(旧瑕疵担保責任、物件の欠陥に対する責任)を負います(後述)。

4 売主Aのメリット

(1)仲介手数料不要

三為業者は「仲介」(媒介)ではありません。売主が仲介手数料を支払う必要はありません。

(2)契約不適合責任の回避の可能性

買主Cが不動産の欠陥を発見した場合、まずは「売主」である三為業者Bが契約不適合責任を負います。さらに連鎖的に、売主Aが三為業者Bに対して契約不適合責任を負うこともありますが、状況によってはAの責任が否定されることもあります。

(3)迅速な売却が期待できる

三為業者がすでに買い手Cを見つけているケースが多いです。

5 売主Aのデメリット

(1)相場より安く売却してしまう可能性

三為業者が利益を確保するため、買取価格が抑えられる傾向があります。

(2)買主への売却価格が不明

最終的な販売価格を知ることができません。

6 買主Cのメリット

(1)自己資金が少なくても購入可能

フルローンやオーバーローンが利用できる場合があります。

(2)業者Bに対して契約不適合責任を追及できる法的保護がある

宅建業法40条により、三為業者(宅建業者)が売主となる場合、引渡しの日から2年以上の瑕疵担保責任期間が確保され、買主に不利な特約は無効となります。
詳しくはこちら|売買の瑕疵担保責任の期間制限についての宅建業法の規定(『引渡し』の意味)

(3)割安購入の可能性

仕入れに強い三為業者なら市場価格より安く提供できることもあります。

7 買主Cのデメリット

(1)相場より高く購入してしまう可能性

三為業者の利益が上乗せされるため高額になりがちです。

(2)業者Bの仕入価格が不明

価格の妥当性を判断しにくいです。

8 三為業者Bのメリット

(1)利益の上限なし

仲介手数料と異なり、利益幅に法的制限がありません。

(2)少ない自己資金で取引可能

売主への手付金のみで取引を進められます。

(3)中間の登記は不要

A→Bという所有権移転登記は不要です。登記の費用や税金を節約できます。
詳しくはこちら|中間省略登記代替的手法による税金(コスト)削減効果

(4)在庫リスクなし

所有権は直接移転するため在庫を持ちません。

9 三為業者のデメリット

(1)宅建業法上の義務を負う

宅建業法40条により、買主に対して引渡しの日から2年以上の瑕疵担保責任期間を確保する義務があり、買主に不利な特約は無効とされます。

(2)両契約の調整が必要

売主と買主それぞれとの契約内容や条件を調整する必要があります。

(3)取引の複雑さによる事務負担

通常の仲介より契約書類が多く、手続が複雑になる場合があります。

10 当事務所によくある相談事例

たとえば、雨漏りが発覚した場合、単純な売買であれば売主との間の交渉(や訴訟)で解決できます。三為の場合は、中間の三為業者Bと(最初の)売主Aの両方が関係してくるので、交渉や訴訟が複雑になるケースもあります。ただ、前述のようにBの契約不適合責任は最低2年確保されているので、この点は安心材料となります。
一方、三為業者Bは、欠陥(契約不適合)が発覚した場合、「売主」として責任を負う一方、最初の売主Aに対する賠償請求が、期間制限や立証のハードルで認められない、あるいは、Aが(責任を認めつつ)賠償に応じない(回収できない)というトラブルに直面するケースもあります。

本記事では、三為による不動産取引について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に三為による不動産売買に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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