【建物所有目的の賃貸借(借地)における賃貸人(地主)の修繕義務(解釈整理ノート)】
1 建物所有目的の賃貸借(借地)における賃貸人(地主)の修繕義務(解釈整理ノート)
賃貸借契約の目的物が損傷したケースでは、修繕が「必要」であり、かつ、「可能」である場合、賃貸人は修繕義務を負います。この(修繕の)「可能性」の判定では、物理的に修理可能、というだけでなく、経済的に可能(合理的である)ということも要求されます。
詳しくはこちら|賃貸人の修繕義務の要件である「可能性」(解釈整理ノート)
修繕の「可能性」に関しては、特に借地(建物所有目的の土地の賃貸借)のケースでは、見解が分かれています。本記事では、借地ケースの修繕の「可能性」に関するいろいろな解釈をまとめました。
2 借地(賃貸借)における賃貸人の修繕義務の要点
借地(賃貸借)における賃貸人の修繕義務の要点
賃貸人が土地を修繕する義務(主に経済的可能性については、見解が分かれている
原則として修繕義務があると考えられる
ただし、具体的事案ごとに総合的に判断する必要がある
3 肯定説(修繕義務あり)
(1)肯定説(修繕義務あり)
肯定説(修繕義務あり)
あ 見解
借地(賃貸借)においても、賃貸人(地主)は修繕義務を負う
(民法606条の適用を除外しない)
い 裁判例
ア 台風による擁壁損傷ケース
台風の豪雨による借地の擁壁の亀裂により崩壊の危険が生じたケースについて
土留の管理は賃借人の責任とするとの特約があった
それにも関わらず、賃貸人の修繕義務(2300万円相当の工事)を認めた
※東京地判昭和61年7月28日判タ624・186
イ 近隣土地の盛土による地盤低下ケース
近隣の土地の盛土(地盛)のため当該土地が窪地となった
雨水の停滞が生じ、建物の敷地として使用不適当となった
借地人が当該土地に盛土(地盛)をした費用を民法608条1項の必要費と認めた(修繕義務があることが前提となっている)
※大判昭和12年11月16日
ウ 震災による地盤沈下ケース
震災で付近一帯が地盤沈下して河川の水が侵入した
建物敷地(宅地)としての用をなさなくなった
借地人が盛土(地上げ)をした費用を民法608条1項の必要費と認めた(修繕義務があることが前提となっている)
※大判昭和13年3月12日
(2)否定説(修繕義務なし)
否定説(修繕義務なし)
あ 見解
借地(賃貸借)においては、賃貸人(地主)は修繕義務を負わない
い 理由
通常の地代水準の下では、例外的に必要となる土地の修繕工事を賃貸人の義務とすることは妥当でない
建物築造後の契約期間中に賃貸人が地盛等の土地の修補をすることは通例として予定されていない
賃料も修繕費用を斟酌していないのが通例である
う 裁判例
特段の事情がない限り自然現象としての地盤沈下につき賃貸人は修繕義務を負わない
※東京地判昭和40年6月19日
4 借地(賃貸借)における賃貸人の修繕義務の総合判断
借地(賃貸借)における賃貸人の修繕義務の総合判断
(ア)土地賃借権(借地権)の長期安定性(イ)地代の低廉さ(修繕義務を軽減する要因となる)(ウ)土地の修補を必要とするに至った要因(エ)修繕費用額
5 参考情報
参考情報
我妻榮ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p1305、1306
本記事では、賃貸人の修繕義務の要件について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に賃貸借のケースの修繕義務(不具合の発生)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。