【地上権と樹木の売買(林業の譲渡、登記の重要性)(事例解説)】
1 地上権と樹木の売買(林業の譲渡、登記の重要性)(事例解説)
林業では、用地が重要な資産ですが、権利形態として(土地の)所有権以外に、地上権や賃借権などもあります。ここで、樹木と地上権(林業・事業)を譲渡するケースでは、いろいろな法的な問題が生じることがあります。
2 事案
林業を営むBは、土地所有者Aから地上権の設定を受け、その「竹木所有」目的の登記がなされています。
Bは同じ土地で林業を営みたいというCに樹木と地上権を売却しました。
3 地上権譲渡の基本→自由(承諾不要)
地上権者(この場合B)は原則として地上権を自由に譲渡することができます(賃貸借の場合は原則として所有者(賃貸人)の承諾が必要です)。
この事例では、Bは地上権者としてCに地上権を譲渡する権利を有しています。
仮に譲渡禁止の特約があった場合でも、特約に違反して譲渡した場合、譲渡自体は有効となります。ただし、譲渡禁止特約に違反したBはAに対して損害賠償責任を負う可能性があります。
4 対抗要件
(1)地上権譲渡の対抗要件→登記
BからCへの地上権の移転登記がなされていれば、Cは地上権者としての地位を第三者に主張することができます。この点、Cが地上権をAに主張することについても、登記が必要とされています。
一方、Bは、Cへの地上権移転登記なされて初めて、地上権を喪失したことをAに主張できるようになります。
以上を前提とすると、地上権移転登記をしていない(登記上の地上権者はBのまま)場合は、AはBに対して地代を請求する、(AC間で)Cは無権利者なので、Cが植樹した植物は土地に付合して、Aの所有物となってしまう(民法242条)ということになります。
地上権移転登記が完了した(登記上の地上権者がCになった)後は、AはCに対して地代を請求することになり、かつ、Cが植樹した樹木は、土地に付合せず、Cの所有のままとなる(民法242条ただし書)、ということになります。
(ただし、そもそもCへの地上権移転登記がなくてもAはCを地上権者として扱う、という学説もあります。)
(2)樹木譲渡の対抗要件→明認方法
樹木の譲渡について、Cが第三者に主張するには明認方法が必要です。樹木(やその付近の立て看板)に、物理的に所有者を明示するというものです。この「第三者」の典型例は、Bから(重複して)樹木を買った(譲り受けた)Dや、Aから(樹木付きで)土地を買った(譲り受けた)Eなどです。Aは「第三者」に含まれません。
5 地上権の制限と対抗問題
(1)目的の制限と対抗問題
地上権の目的は設定行為で工作物と竹木の両方またはその一方の所有のために定めることができます。また、工作物や竹木の種類を限定することも可能です。ただし、これらの限定は登記しないと第三者に主張できません。
本事例では、「竹木所有」目的の登記がなされています。
仮にAB間の地上権設定契約書で「杉(所有)」目的に限定されていたとしても、Cが地上権移転登記を受けた場合はこの制限を受けません(たとえばヒノキの植樹も可能になります)。
なお、「竹木」の解釈として「雑木」は含みません。また、桑などのようにその植栽が耕作とみられるものについては、永小作権の対象であり、地上権の対象ではない、という解釈が一般的です。仮に、桑の植栽目的で「地上権設定契約(と地上権の登記)」がなされている場合、理論的には、「永小作権設定契約」であり、「地上権の登記は無効」となるリスクがあります。
(2)土地の範囲の制限と対抗問題
たとえば、1筆の土地の一部だけについて地上権が設定されていたとしても、1筆について地上権設定登記がなされている場合、この「制限」は登記をしないと第三者に主張できません。本事例では、Cが地上権移転登記を受けた場合はこの制限を受けません(1筆の全体の地上権を取得します)。
(3)存続期間と対抗問題
地上権の存続期間も同様です。たとえば、AB間で途中で存続期間を短縮したケースで、実際には残り10年、しかし登記上は残り20年となったまま(変更登記をしていない)だとすれば、AC間では残り20年という扱いになります。
6 地代の承継と登記の問題
(1)未発生地代の承継
Bが土地所有者Aに地代を支払う義務を負っていた場合、未発生の地代債務は地上権に付着するものとされています。したがって、地上権がCに譲渡された場合、原則としてCも地代支払義務を承継します。
(2)地代の対第三者への主張
通説によれば、地上権は無償が原則とされ、地代の定めがあっても「地代」として登記されていない場合、土地所有者は地上権譲受人に地代を請求できないとされています。この見解に従えば、地代の登記がない場合、AはCに地代を請求できないことになります(登記を不要とする学説もあります)。
(3)既発生地代の扱い
譲渡前にBが地代を滞納していた場合、その効果がCに及ぶかどうかについても見解が分かれています。判例によれば、地代の登記がなくても滞納の効果は新地上権者に及ぶとされています(反対する学説もあります)。
7 まとめ
以上のように、地上権(と樹木)を譲渡した場合、地上権移転登記をしない場合はもちろん、登記をした場合にも複雑な法的問題が生じることがあります。地上権(や樹木)を購入する事業者も、売却する事業者も、さらには地上権の設定契約をする時点で、土地所有者も、事後的に複雑な法的問題が生じないように、しっかりと契約や登記をすることが重要です。
8 本記事で活用した法的知識の詳細
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詳しくはこちら|地上権者・土地所有者間の権利義務(地上権の効力・民法265条)
詳しくはこちら|地上権の地代(位置づけ・譲渡における扱い・滞納による消滅請求)
詳しくはこちら|地上権が及ぶ土地の範囲(周囲部分・1筆の一部・上下の範囲)
詳しくはこちら|地上権に関する当事者の変更(地上権譲渡・土地譲渡の対抗)
詳しくはこちら|不動産の付合の典型例(農作物・樹木・設備・機械)
本記事では、地上権と樹木の売買について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に林業(事業)の譲渡に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。