【担保責任を負わない特約の効力(民法572条)(解釈整理ノート)】

1 担保責任を負わない特約の効力(民法572条)(解釈整理ノート)

売買契約(その他の有償契約)では、欠陥(瑕疵)が発覚した場合には担保責任(契約不適合責任)が発生します。
詳しくはこちら|売買・請負の契約不適合責任(瑕疵担保責任)の全体像
実際には、担保責任を負わない特約がなされているケースも多いです。そのような特約は原則として有効ですが、民法572条は、例外的に否定することを定めています。本記事では、民法572条に関する解釈を整理しました。

2 民法572条の条文

民法572条の条文

(担保責任を負わない旨の特約)
第五百七十二条 売主は、第五百六十二条第一項本文又は第五百六十五条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。
※民法572条

3 担保責任の強行性→否定(前提)

担保責任の強行性→否定(前提)

民法572条は、売主の担保責任を免除する特約(無担保特約)に関する規定である
売主の担保責任は当事者間の利害調節を目的とするものであり、公序良俗に関わる強行規定ではないため、原則として特約による責任の軽減・排除・加重が可能である
売主は原則として担保責任に関する特約を自由に締結することができる

4 無担保特約の効力制限

(1)売主が知りながら告げなかったケース

売主が知りながら告げなかったケース

売主が権利の帰属、数量不足、他人の権利による制限、瑕疵等を知りながら買主に告げなかった場合は、特約があっても責任を免れない
ただし、買主も売買当時その事実を知っていた場合は、特約の効力が認められる(通説)

(2)売主が自ら第三者に譲渡・権利設定をしたケース

売主が自ら第三者に譲渡・権利設定をしたケース

売主が目的物を自ら第三者に譲渡した場合や、目的物を制限する権利を自ら設定した場合は、特約があっても責任を免れない
売主が自ら行った処分行為によって生じた権利の制限や喪失の場合が該当する
(ア)売主自身が売買目的物を他人に譲渡した場合(イ)売主自身が売買目的土地上に地上権を設定した場合(ウ)売主自身が売買目的物に抵当権を設定した場合 これは売買契約以前になされた場合に限り、それ以後の場合は債務不履行の問題となる(通説)
売主が忘却していた場合でも適用される
買主がこれを知っている場合には本条の適用はない

(3)条文以外の効力制限

条文以外の効力制限

あ 一般的見解

上記2つの法定事由を除いては、特約の効果として売主はすべての担保責任を免れる

い 別の見解

無担保特約があっても、売買目的の権利が全部他人に帰属して移転不能の場合や担保物権行使で買主が目的物全部を失った場合には、解除のみは可能と解すべきとする見解もある

5 担保責任を加重する特約

担保責任を加重する特約

法定の担保責任を加重する特約は可能である(制限はない)
担保責任を重くする特約も有効である
※最判昭和45年4月10日

6 宅地建物取引業法40条による特則(参考)

宅地建物取引業法40条による特則(参考)

宅建業者が売主となる宅地・建物売買においては、瑕疵担保責任の期間について、目的物引渡日から2年以上とする場合を除き、民法の規定より買主に不利な特約をしてはならない
宅建業法40条違反の特約は無効である

詳しくはこちら|売買の瑕疵担保責任の期間制限についての宅建業法の規定(『引渡し』の意味)

7 参考情報

参考情報

柚木馨・高木多喜男稿/柚木馨ほか編『新版 注釈民法(14)』有斐閣2002年p413〜416
我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p1241、1242

本記事では、担保責任を負わない特約の効力(民法572条)について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に売買契約の後に欠陥(契約不適合)が発覚したケースに関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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