【不動産の先取特権の基本(民法325条〜328条)(解釈整理ノート)】

1 不動産の先取特権の基本(民法325条〜328条)(解釈整理ノート)

先取特権にはいろいろなものがありますが、その1カテゴリとして不動産の先取特権があります。
詳しくはこちら|先取特権の基本(種類・優先順位・実行=競売申立方法・活用例)
不動産の先取特権は現実的な支障のため、実務では使われない傾向がありますが、逆に戦略的に活用することもあります。本記事では、不動産の先取特権の基本的解釈を整理しました。

2 民法325条〜328条の条文

民法325条〜328条の条文

(不動産の先取特権)
第三百二十五条 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の不動産について先取特権を有する。
一 不動産の保存
二 不動産の工事
三 不動産の売買
※民法325条
(不動産保存の先取特権)
第三百二十六条 不動産の保存の先取特権は、不動産の保存のために要した費用又は不動産に関する権利の保存、承認若しくは実行のために要した費用に関し、その不動産について存在する。
※民法326条
(不動産工事の先取特権)
第三百二十七条 不動産の工事の先取特権は、工事の設計、施工又は監理をする者が債務者の不動産に関してした工事の費用に関し、その不動産について存在する。
2 前項の先取特権は、工事によって生じた不動産の価格の増加が現存する場合に限り、その増価額についてのみ存在する。
※民法327条
(不動産売買の先取特権)
第三百二十八条 不動産の売買の先取特権は、不動産の代価及びその利息に関し、その不動産について存在する。
※民法328条

3 不動産保存の先取特権

不動産保存の先取特権

あ 被保全債権

不動産保存の先取特権は、以下の費用に関し、その不動産について存在する
(ア)不動産の保存のために要した費用(イ)不動産に関する権利の保存、承認若しくは実行のために要した費用 ※民法326条

い 登記の必要性

この先取特権を保存するためには、保存行為完了後直ちに登記をする必要がある
※民法337条

4 不動産工事の先取特権

不動産工事の先取特権

あ 基本

不動産工事の先取特権は、工事の設計、施工又は監理をする者が債務者の不動産に関してした工事の費用に関し、その不動産について存在する
※民法327条1項

い 対象となる者

工事の設計、施工又は監理をする者
業としているものであることは不要
例=大工・左官などの自分で工事をする者、工事の設計監督をする者、請負人として注文を受けて工事の完成を引受けた者など

う 対象範囲の制限

工事によって生じた不動産の価格の増加が現存する場合に限り、その増価額についてのみ存在する
実際に要した労務や材料費とは関係なく、工事によって不動産の価値が増した額について、登記された予算額の範囲内で認められる
※民法327条2項

え 登記の必要性

工事の先取特権を保存するためには、工事着手前に工事費用の予算額を登記しなければならない
※民法338条

5 保存と工事の区別→重複しない

保存と工事の区別→重複しない

建物の倒壊しようとするのを修理するのは「保存」、一定の計画に従って改造するのは「工事」である
建築の場合の一連の工事は1個の工事であり、上棟までを工事とし、その後は保存であるとすることは許されない
※大判明治43年10月18日

6 不動産売買の先取特権

不動産売買の先取特権

不動産売買の先取特権は、不動産の代価及びその利息に関し、その不動産について存在する
※民法328条

7 実務の傾向→不動産の先取特権は使われていない

実務の傾向→不動産の先取特権は使われていない

不動産の先取特権はその効力を保存するために特に登記を必要とし、その手続が簡易でないために、実際に作用することは少ない

8 関連テーマ

(1)不動産先取特権の登記・抵当権規定の準用

詳しくはこちら|不動産先取特権の登記・抵当権規定の準用(民法337条〜341条)(解釈整理ノート)

9 参考情報

参考情報

我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p568〜570

本記事では、不動産の先取特権の基本について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に不動産売買の代金や建物の工事(建築)代金に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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