【不動産先取特権の登記・抵当権規定の準用(民法337条〜341条)(解釈整理ノート)】

1 不動産先取特権の登記・抵当権規定の準用(民法337条〜341条)(解釈整理ノート)

一定の状況があると、契約(合意)をしなくても不動産について担保権が発生することがあります(不動産の先取特権)
詳しくはこちら|不動産の先取特権の基本(民法325条〜328条)(解釈整理ノート)
ただし、不動産の先取特権は登記が必要という重大なルールがあり、実務では活用しにくいです。本記事では、不動産先取特権の登記と抵当権のルールが準用されることに関するいろいろな解釈を整理しました。

2 民法337条〜341条の条文

民法337条〜341条の条文

(不動産保存の先取特権の登記)
第三百三十七条 不動産の保存の先取特権の効力を保存するためには、保存行為が完了した後直ちに登記をしなければならない。
※民法337条
(不動産工事の先取特権の登記)
第三百三十八条 不動産の工事の先取特権の効力を保存するためには、工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければならない。この場合において、工事の費用が予算額を超えるときは、先取特権は、その超過額については存在しない。
2 工事によって生じた不動産の増価額は、配当加入の時に、裁判所が選任した鑑定人に評価させなければならない。
※民法338条
(登記をした不動産保存又は不動産工事の先取特権)
第三百三十九条 前二条の規定に従って登記をした先取特権は、抵当権に先立って行使することができる。
※民法339条
(不動産売買の先取特権の登記)
第三百四十条 不動産の売買の先取特権の効力を保存するためには、売買契約と同時に、不動産の代価又はその利息の弁済がされていない旨を登記しなければならない。
※民法340条
(抵当権に関する規定の準用)
第三百四十一条 先取特権の効力については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、抵当権に関する規定を準用する。
※民法341条

3 不動産先取特権の登記による効力保存(共通)

不動産先取特権の登記による効力保存(共通)

不動産に関する先取特権は、法定の方法により登記することで効力を保存する(民法337条〜340条)
登記は効力発生要件であり、登記がなければ当事者間でも効力を有しない

4 不動産先取特権の登記の時期

(1)不動産保存の先取特権の登記の時期→完了後遅滞なく

不動産保存の先取特権の登記の時期→完了後遅滞なく

保存行為が完了した後直ちに(遅滞なく)登記をしなければならない
※大判大正6年2月9日(効力発生要件と解釈)
※民法337条

(2)不動産工事の先取特権の登記の時期→工事前

不動産工事の先取特権の登記の時期→工事前

あ 基本

工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければならない
工事の費用が予算額を超えるときは、先取特権は超過額については存在しない
※大判大正6年2月9日(効力発生要件と解釈)
※民法338条

い 増価額の評価→配当加入時に鑑定必要

工事によって生じた不動産の増価額は、配当加入の時に、裁判所が選任した鑑定人に評価させなければならない
※最判平成14年1月22日(競売開始のときは増価なしと評価されても、その後の工事で増価すれば、売却時に現存する増価額でよい)
売買契約と同時に、不動産の代価またはその利息の弁済がされていない旨を登記しなければならない
※民法340条

う 新築工事の特例→所有権保存よりも先

新築工事の場合、先取特権保存の登記申請がなされると先取特権の登記をするために登記用紙を開設する
不動産工事の先取特権の保存登記をした者は建物完成とともに建物所有者に対してその所有権保存登記手続を請求できる
※大判昭和12年12月14日

5 先取特権と抵当権の優劣関係

先取特権と抵当権の優劣関係

あ 保存・工事の先取特権→優先

民法337条・338条の規定に従って登記をした不動産保存および不動産工事の先取特権は、抵当権設定との前後を問わず、抵当権に先立って行使することができる

い 売買の先取特権→登記の先後

不動産売買の先取特権と抵当権との効力の優劣は、登記の前後による(民法339条の適用はない)

6 抵当権規定の準用(民法341条)

<抵当権規定の準用(民法341条)>

あ 基本

先取特権の効力については、先取特権に関する規定のほか、その性質に反しない限り、抵当権に関する規定が準用される

い 準用される主な規定

(ア)効力の及ぶ目的物の範囲(民法370条)(イ)果実に対する効力(民法371条)(ウ)被担保債権の範囲(民法375条)(エ)代価弁済(民法378条)(オ)抵当権消滅請求(民法379条以下)(不動産先取特権にのみ準用) 〜〜〜

7 参考情報

参考情報

我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p578〜581

本記事では、不動産先取特権の登記・抵当権規定の準用について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に不動産売買の代金や建物の工事(建築)代金に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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