【履行期と履行遅滞・催告(民法412条)(解釈整理ノート)】

1 履行期と履行遅滞・催告(民法412条)(解釈整理ノート)

民法412条は、履行期と履行遅滞や催告について定めています。平成29年の改正で、関連する条文との関係が整理され分かりやすくなっています。本記事では、民法412条に関する解釈を整理しました。

2 民法412条の条文と平成29年改正の趣旨

(1)民法412条の条文

民法412条の条文

(履行期と履行遅滞)
第四百十二条 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
2 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。
3 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
※民法412条

(2)平成29年改正の趣旨

平成29年改正の趣旨

不確定期限の場合について、期限が到来した後に債権者から履行の請求がなされる前に債務者が期限の到来を知る場合と、期限は到来したが債務者が期限の到来を知らない状態で債権者から履行の請求を受ける場合の法律関係を明文化した(2項)

3 履行遅滞の意味と効果の基礎(前提)

履行遅滞の意味と効果の基礎(前提)

履行遅滞とは、債務者が債務の本旨に従った履行をしないことの一態様であり、履行期が到来しても債務を履行しない状態をいう
履行遅滞になると、債務者は遅滞の責任を負うこととなる

4 履行遅滞責任の発生時期の基本

(1)確定期限ありケース(1項)→期限到来時

確定期限ありケース(1項)→期限到来時

あ 履行遅滞責任発生時点

債務の履行について確定期限がある場合
債務者は、その期限の到来した時から当然に遅滞の責任を負う
債権者による催告は不要である

い 確定期限の内容

確定期限とは、2025年4月1日というように、いつ到来するかがはっきりしている期限を指す
一定期間をもって期限とする場合は、期間の終末が確定期限である
例=月末までに、4月中に、など
※大判昭和4年2月9日

(2)不確定期限ありケース(2項)→到来後催告時または到来認識時

不確定期限ありケース(2項)→到来後催告時または到来認識時

あ 不確定期限の意味

不確定期限とは、到来することは確実であるが、いつ到来するかがはっきりしない期限である

い 履行遅滞責任発生時

債務の履行について不確定期限がある場合
債務者は、以下のいずれか早い時から遅滞の責任を負う
(ア)その期限の到来した後に履行の請求を受けた時(イ)その期限の到来したことを知った時

う 判例

いわゆる「出世払」債務の例で、債務者が期限到来を知ることを要するとした
※大判大正4年12月1日

(3)期限の定めなしケース(3項)→催告時

期限の定めなしケース(3項)→催告時

債務の履行について期限を定めなかった場合
債務者は、履行の請求(催告)を受けた時から遅滞の責任を負う

5 催告(履行請求)の意味と内容

催告(履行請求)の意味と内容

あ 催告の意味

催告とは、債権者が債務者に対してその債務の履行を請求する意思の通知である

い 催告の内容→債務の同一性を認識可能

催告としての効力を生じるためには、債務の同一性が示されれば足りる
債権者の請求額が実際の債務額より過大であっても、債務者が催告されている債務を認識できる場合には、遅滞を生じる
※大判大正2年12月22日

6 裁判上の請求による催告→訴状送達により効果発生

裁判上の請求による催告→訴状送達により効果発生

あ 効力発生時→訴状送達時

裁判上の請求による催告は、訴状の送達によって債務者に到達することにより効力を生じる

い 不適法提訴・訴えの取下→効力維持

訴えの提起が訴訟法上不適法でも、または後に訴えの取下げがあっても、訴状の送達によって生じた履行請求としての効力には影響がない
※最判大正2年6月19日

7 プラスアルファが必要な催告

(1)証券に化体した債務の催告→証券呈示が必要

証券に化体した債務の催告→証券呈示が必要

その履行について確定期限の定めがある場合でも、期限到来後に証券の所持人が債務者にその証券を呈示して催告しなければ遅滞を生じない

(2)取立債務の催告→債権者の協力が必要

取立債務の催告→債権者の協力が必要

債務の履行について先に債権者の協力を必要とする債務については、債権者がまず必要な協力をして、またはその提供をして、履行を催告しなければ遅滞とはならない

(3)期限の定めのない消費貸借の返還催告→相当の期間の設定が必要

期限の定めのない消費貸借の返還催告→相当の期間の設定が必要

貸主は相当の期間を定めて催告すべきであり、これを定めないで催告すれば、催告の時から相当の期間を経過して後に遅滞を生じる(民法591条1項)

8 不法行為の損害賠償と催告

(1)不法行為の損害賠償→催告不要

不法行為の損害賠償→催告不要

あ 基本

不法行為による損害賠償債務は、催告をしなくても、不法行為の時から当然に遅滞を生じる
※最判昭和37年9月4日
※最判昭和58年9月6日(不法行為に基づく弁護士費用の賠償)

い 具体的事例(判例)

後期高齢者医療広域連合が代位取得した損害賠償請求権は給付日の翌日から遅延損害金が発生する
※最判令和元年9月6日
金融商品取引法21条の2に基づく損害賠償債務も損害発生と同時に遅滞に陥る
※最判平成24年3月13日

(2)安全配慮義務違反による損害賠償→催告必要

安全配慮義務違反による損害賠償→催告必要

不法行為と類似しているが、不法行為そのものではない→請求時から遅滞に陥る
※最判昭和55年12月18日

(3)社会保障給付と損害賠償の調整(参考)

社会保障給付と損害賠償の調整(参考)

労災保険法に基づく給付や公的年金制度に基づく各種年金給付は、制度の趣旨に従い特定損害の補填を目的としており、著しく遅延する特段の事情がない限り、これらが支給されるか支給確定すると、その対象損害は不法行為時に補填されたものとして損益相殺的調整を行うことが公平の観点から相当である
※最判平成22年9月13日(労災保険給付)
※最大判平成27年3月4日(公的年金給付)

9 法定の権利に基づく債務→催告必要

法定の権利に基づく債務→催告必要

あ 遺留分権利者の価額弁償請求権

遺留分権者が価額弁償権を確定的に取得し、かつ受遺者に対し支払を請求した日の翌日から遅滞を生じる
※最判平成20年1月24日

い 遺産分割完了後の認知

遺産分割完了後の認知により相続人となった者の価額支払請求権(民法910条)にかかる他の共同相続人の価額の支払債務は、履行の請求を受けた時に遅滞に陥る
※最判平成28年2月26日

う 詐害行為取消権による受領金支払債務

詐害行為取消判決の確定により発生した受益者の受領金支払債務は、履行の請求を受けた時に遅滞に陥る
また、詐害行為取消判決の確定より前にされたその履行の請求も民法412条3項の「履行の請求」に当たる
※最判平成30年12月14日

10 関連テーマ

(1)督促・催告・相当期間に関する問題の整理

詳しくはこちら|督促・催告・相当期間に関する問題の整理

11 参考情報

参考情報

我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p780〜783

本記事では、履行期と履行遅滞や催告について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
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