【代理人の顕名の認定(肩書だけ・署名代理など)(解釈整理ノート)】

1 代理人の顕名の認定(肩書だけ・署名代理など)(解釈整理ノート)

通常、代理人は本人のために行動(法律行為)をしており、効果は本人に帰属します。ただ、その大前提として顕名(本人のためにすることの表示)が必要です。実務では、顕名といえるかどうかがはっきりしないケースもよくあります。本記事では、顕名の認定に関するいろいろな解釈を整理しました。

2 民法99条1項の条文

民法99条1項の条文

代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
※民法99条1項

3 顕名の意味と意義

顕名の意味と意義

顕名とは、代理人が相手方に対して「本人のためにすること」を表示する行為である
これにより意思表示の効果が表意者(代理人)ではなく本人に帰属することが明らかになる

4 顕名の方法

(1)顕名の方法(「本人のためにすること」の表示)→明示や黙示

顕名の方法(「本人のためにすること」の表示)→明示や黙示

あ 明示的表示

「Aの代理人B」と明示するなど、特定の者を本人とする意思表示を代理人が行うことを明示する方法

い 黙示的表示

諸般の事情から「本人のためにすること」が明らかにされていればよい(顕名があったと認める)
必ずしも明示的である必要はない

(2)黙示的表示の認定の実例→肩書や役職で顕名と認めた

黙示的表示の認定の実例→肩書や役職で顕名と認めた

あ 「主任」→顕名肯定

契約書における「A鉱山出張所主任」との記載がある場合に本人Aの契約と認めた
※大判明40年3月27日

い 役職のハンコ→顕名肯定

肩書に会社名を記載し氏名の下に役職の印章が押印されている場合に顕名を認めた
※大判大8年4月21日

5 本人を明示しないケースの扱い

本人を明示しないケースの扱い

あ 本人を示すことの要否

ア 未開示・未特定の本人でも可能とする見解 顕名の目的は表意者以外の者に効果が直接帰属することを相手方に認識させることにあるため、相手方が了承していれば未開示・未特定の者を本人とする代理行為の成立を認めても不都合はない
※大判昭和12年4月13日(金銭消費貸借の貸主は別人であることを秘していたケース)
イ 本人の特定が必要とする見解 顕名とは法律行為の主体となる者を示すものであり、主体を特定しない法律行為は認められない

い 本人を示さないケースの効果

ア 本人が開示・特定された場合 契約の効果は本人と相手方との間に生じる
イ 本人が明らかにならない場合 本人が明らかにならなければ代理人が契約関係を引き受けるという特段の合意があれば、相手方は代理人に対して契約の効果を主張できる(代理人はこれを拒めない)

6 署名代理

(1)署名代理の基本→相手方の認識により顕名の有無を判定

署名代理の基本→相手方の認識により顕名の有無を判定

あ 署名代理の意味

署名代理とは、代理人が本人の名のみを示して行為することである

い 基本的扱い

意思表示の解釈の問題として処理する
相手方の立場から合理的に解釈して、本人名が代理人自身を指すのか別人を指すのかによって判断する

う 原則的な解釈

ア 認識不可ケース 相手方の立場から見て本人と代理人が別人であることが明らかでない場合、代理人自身のための意思表示となる(顕名なし、民法100条適用)
イ 認識可能ケース 相手方の立場から見て本人と代理人が別人であることが明らかな場合、本人のための意思表示となる(顕名あり)

(2)昭和44年最判→署名代理に民法110条を類推適用

昭和44年最判→署名代理に民法110条を類推適用

代理人が本人であるかのように振る舞ったケース
相手方に「本人自身の行為であると信じたことにつき正当な理由がある」ときには、民法110条が類推適用される
※最判昭44年12月19日
※大判大4年10月30日(整合的)

7 参考情報

参考情報

佐久間毅稿/於保不二雄ほか編『新版注釈民法(4)』有斐閣2015年p20〜23

本記事では、代理人の顕名の認定について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に代理人による取引(所有者の関係者による不動産売買など)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

共有不動産の紛争解決の実務第2版

使用方法・共有物分割の協議・訴訟から登記・税務まで

共有不動産の紛争解決の実務 第2版 弁護士・司法書士 三平聡史 著 使用方法・共有物分割の協議・訴訟から登記、税務まで 第2班では、背景にある判例、学説の考え方を追加して事例検討をより深化させるとともに、改正債権法・相続法が紛争解決に与える影響など最新の実務動向を丁寧に追録して大幅改訂増補! 共有物分割、共有物持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続きを上手に使い分けるためこ指針を示した定番書!

実務で使用する書式、知っておくべき判例を多数収録した待望の改訂版!

  • 第2版では、背景にある判例・学説の考え方を追加して事例検討をより深化させるとともに、改正債権法・相続法が紛争解決に与える影響など最新の実務動向を丁寧に追録して大幅改訂増補!
  • 共有物分割、共有持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続を上手に使い分けるための指針を示した定番書!
  • 他の共有者等に対する通知書・合意書、共有物分割の類型ごとの訴状、紛争当事者の関係図を多数収録しており、実務に至便!
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
【相殺の方法・効力(民法506条)(解釈整理ノート)】
【代理・代表名義の冒用による私文書偽造罪(刑法159条)(解釈整理ノート)】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00