【地役権の時効取得の適用範囲や要件(民法283条)(解釈整理ノート)】

1 地役権の時効取得の適用範囲や要件(民法283条)(解釈整理ノート)

地役権も時効取得をすることが認めれています。条文はシンプルですがいろいろな解釈があります。本記事では、民法283条についての解釈を整理しました。

2 民法283条の条文

民法283条の条文

(地役権の時効取得)
第二百八十三条 地役権は、継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限り、時効によって取得することができる。
※民法283条

3 地役権の時効取得の適用範囲

(1)既存地役権の時効取得→否定(新規取得のみ)

既存地役権の時効取得→否定(新規取得のみ)

民法283条は、全く新たに地役権を取得する場合にのみ適用され、すでに成立している地役権を要役地とともに取得する場合には適用されない

(2)賃借人による地役権の時効取得→否定(所有者のみ)

賃借人による地役権の時効取得→否定(所有者のみ)

賃借人は地役権者となれないため、時効による地役権取得も認められない
※大判昭和2年4月22日

4 時効取得の要件(基本)

時効取得の要件(基本)

あ 継続的に行使される

継続的に行使されない地役権は、地役権設定の意思を承役地所有者が持たないことが多いため、権利として認められない

い 外形上認識することができる

外形上認識されない地役権は、承役地所有者がその行使を知らないことが多く、社会的な公認を受けるものでないため、権利として認められない

5 地役権の種類ごとの時効取得要件

(1)通行地役権の時効取得の要件

通行地役権の時効取得の要件

あ 通路の開設

通行地役権の時効取得については、継続の要件として、承役地たるべき他人所有の土地の上に通路の開設を要し、その開設は要役地所有者によってなされることを要する
※最判昭和30年12月26日
※最判昭和33年2月14日(整合的)

い 要役地所有者による通路開設者

ア まとめ 判例上は、要役地所有者による通路の開設が必要とされているが、近年は要件が緩和される傾向にある
イ 平成6年最判 要役地所有者が通路拡幅のため承役地所有者に働きかけるとともに自らもその一部を提供した場合は要役地所有者によって開設したものというべきである
※最判平成6年12月16日
ウ 昭和51年東京地判 土地の分譲者が買受人のために通路を設置した場合には買受人が自ら設置したとみる
※東京地判昭和51年1月28日

(2)用水地役権の時効取得の要件→設置と維持管理

用水地役権の時効取得の要件→設置と維持管理

あ 基本→設置と維持管理が必要

用水地役権の時効取得には水路等の設置と維持管理が必要である

い 実例

ア 大正13年大判 水路を設けて水車用の引水をしてきた場合には引水地役権の時効取得が認められる
※大判大正13年3月17日
イ 昭和25年新潟地柏崎支判 飲料水に使用するため横穴を穿って引水してきた事実があり、承役地所有者もそれに異議を述べなかった場合には引水地役権の時効取得が認められる
※新潟地柏崎支判昭和25年12月26日

6 地役権の対抗力→時効完成時の承役地所有者は当事者扱い

(1)地役権の対抗力→時効完成時の承役地所有者は当事者扱い

地役権の対抗力→時効完成時の承役地所有者は当事者扱い

時効による地役権の取得は、時効完成時の承役地所有者およびその一般承継人に対しては登記なくして対抗しうる
※大判大正13年3月17日

(2)参考情報

参考情報

中尾英俊稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p953〜955

本記事では、地役権の時効取得の適用範囲や要件について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に長年通行してきた土地の利用に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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