【収益還元法による土地評価における「収益」算定(最有効活用建物か現存建物か)】
1 収益還元法による土地評価における「収益」算定(最有効活用建物か現存建物か)
不動産に関する法的手続(トラブルの解決)の中で、土地の評価額をベースにする、という局面が多くあります。
土地の評価額を算定する場合は、いろいろな方法を組み合わせますが、その1つに収益還元法(やそれをアレンジしたもの)があります。収益還元法を使う時の問題として、収益を算定する時にどのような建物を想定するのかというものがあります。本記事では、この問題について説明します。
2 収益還元法の基本(前提)
収益還元法は、不動産からの将来の収益を現在の価値に換算する評価方法です。簡単に言えば、「この不動産は将来どれだけのお金を生み出すか」という視点で価値を判断する方法です。
この方法の基本的な考え方はシンプルで、次の式で表されます。
不動産価値 = 年間の純収益 ÷ 利回り率
ここでの「純収益」とは、賃貸収入から維持管理費や税金などの経費を差し引いた、実質的な手取り収入のことです。
「利回り率」は投資家が期待する年間収益率で、一般的には5%〜10%程度が目安とされています。
たとえば、年間の純収益が500万円で、利回り率が5%であれば、不動産価値は500万円÷0.05=1億円と計算されます。
収益還元法には主に「直接還元法」と「DCF法」というものに分けられますが、ここでは説明を省略します。
3 最有効使用の概念
最有効使用の原則は、不動産評価の根幹です。これは、不動産の価値は、その最も収益性の高く、法的に許容され、物理的に可能で、経済的に実現可能な使用に基づいていると規定しています。市場価値評価の場合、評価は不動産の最有効使用に基づいて行われる必要があります。
最有効使用の決定には、4つの基本的なテストに基づく厳密な分析が必要です:
(1)法的許容性
提案された使用は、すべての適用されるゾーニング条例、建築基準法、環境規制、およびその他の法的制限に準拠している必要があります。
(2)物理的可能性
敷地のサイズ、形状、地形、土壌条件、およびその他の物理的属性は、意図された使用に適している必要があります。
(3)経済的実現可能性
その使用は経済的に実行可能でなければならず、運営費、債務返済(該当する場合)、および投資に対する合理的な収益を賄うのに十分な収入または効用を生み出す必要があります。
(4)最大限の生産性
法的に許容され、物理的に可能で、経済的に実現可能なすべての使用の中で、最有効使用は不動産の純収益または現在価値を最大化するものです。
不動産の最有効使用は静的なものではなく、市場の状況、規制、または技術の変化によって時間とともに進化する可能性があることを認識することが重要です。最有効使用は、現在の使用の継続、使用の変更、または既存の改良の取り壊しと土地の再開発である可能性さえあります。
一貫した使用の原則は、改良された不動産を評価する場合、土地と改良は同じ最有効使用に基づいて評価されなければならないと規定しています。
4 「最有効活用収益」対「既存建物の収益」
土地上の既存の建物が不動産の最有効使用を表している場合、この建物から得られる収益(実際の賃貸収入であろうと、オーナー占有物件の市場賃料であろうと)は、収益還元法の「収益」としてそのまま使えます。
たとえば、賃貸需要が強く安定している高密度住宅地にあるアパートの建物は、通常最有効使用を表し、その現在または達成可能な賃貸収入が評価の基礎となります。
しかし、既存の建物が土地の潜在能力を十分に活用できていない状況もしばしば発生します。典型的な例は、高層オフィスビルや複合用途施設などの、より大規模で収益性の高い開発をサポートできる商業地区にある低層の商業ビルです。
十分に活用されていない場合、既存の建物から現在得られている収益は、土地の真の経済的可能性、ひいては基礎となる土地の市場価値を正確に反映していないことになります。既存の建物が土地の潜在能力を十分に活用できていない場合、その現在の収入だけに頼ると、土地の価値が過小評価される、ということもできます。
したがって、このようなシナリオでは、評価プロセスは、最有効使用に合致する仮想の建物を想定する、つまり、最有効使用の収益の可能性を考慮する必要があります。これには、最有効使用に従って土地の効用と収益性を最大化するように設計された建物から合理的に期待できる市場賃料、空室率、および運営費の推定が含まれます。
5 まとめ
収益還元法は、最有効活用を前提とする、という基本方針があります。実際には、収益還元法以外の評価手法も複数存在し、どの手法をどの比重で使うか、という問題が別にあります。また、実務では、土地の評価額がそのまま使われるわけではないことの方が多いです。たとえば、土地の評価額をベースとして賃料(地代)や共有持分の評価額を出す、などです。結局、多くの要素が結論に影響します。収益還元法の「収益」の選択は結論に大きく影響しない、ということもあります。
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本記事では、収益還元法による土地評価における「収益」算定について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に土地の評価を含む不動産に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。