【共有持分買取権の基本(流れ・実務的な通知方法)】
1 共有持分買取権の基本
2 持分買取権の基本
3 求償トラブル解決のバリエーション
4 持分買取権の行使の具体的な流れ
5 持分買取権の行使方法(通知)
6 共有持分買取権の要件の解釈(概要)
7 共有持分買取権の償金の金額(概要)
8 共有物分割における共有物に関する債権の扱い(概要)
9 共有を解消する手続(持分買取権・持分放棄・共有物分割)の比較(参考)
1 共有持分買取権の基本
共有物に関する費用を,共有者の1人が負担した場合,他の共有者に対して,共有持分割合に応じた金額を請求(求償)することができます。
詳しくはこちら|共有物に関する負担の基本(具体例・求償・特定承継人への承継)
この求償(請求)を受けた共有者が支払わない場合には,この共有者の共有持分を他の共有者が強制的に買い取る制度があります。(共有)持分買取権といいます。
本記事では,共有持分買取権の基本的な内容を説明します。
2 持分買取権の基本
持分買取権の基本的な内容は単純です。共有物に関する費用について,1年間,持分割合相当の負担をしない共有者がいる場合に,他の共有者が当該共有持分の対価(償金)を支払って共有持分を取得するというものです。
<持分買取権の基本>
あ 前提事情
共有物に関する負担について
共有者Bが1年以内に義務の履行をしない
い 持分買取権
他の共有者AがBに相当の償金を支払う
→AはBの持分を取得する
※民法253条2項
3 求償トラブル解決のバリエーション
ところで,共有者の間で費用(出費)の分担,つまり求償がなされないというトラブルはよく生じます。この場合には,一般的な金銭債権として請求や,債務者の持つ財産の差押をするという解決方法もあります。これに加えて,本記事で説明している持分買取権の行使もあるという関係です。
<求償トラブル解決のバリエーション>
あ 求償トラブル(前提事情)
土地・建物をA・Bで共有している
固定資産税・管理費をAが全額支払っている
AはBに立替金の半額の支払を求めている
Bは一向に支払わない
い 金銭債権の一般的解決方法
訴訟や差押などにより金銭債権を回収する
債権回収の一般的な方法である
う 共有持分買取権による解決
AはBの持分を強制的に買い取ることができる
4 持分買取権の行使の具体的な流れ
持分買取権を行使する場合の流れを整理します。
理論的には,持分取得の意思表示で持分は移転します。持分を失った者が登記申請に協力しない場合には持分移転登記手続を請求する訴訟を提起します。
<持分買取権の行使の具体的な流れ>
あ 共有物の管理費用の求償権発生
不動産をA・Bが共有している
共有物に関する費用の全額をAが支払った
い 求償債権の催告
AがBに対して『Bの持分割合』相当額を請求(求償)した
Bは支払っていない
う 持分買取権の行使
『い』から1年が経過した
AはBに『B持分に相当する評価額』を支払う
同時に『B持分を買い取る』という通知をする
え 持分取得
Bの共有持分がAに移転する
→Aの単独所有となる
お 登記請求訴訟
Bが共有持分をAに移転させる登記に協力しない場合
→Aは登記移転手続請求訴訟を申し立てる
か 登記申請
(勝訴判決確定またはBの任意の協力により)持分移転登記の申請手続をする
→移転登記が実行される(登記に反映される)
5 持分買取権の行使方法(通知)
持分買取権の行使の具体的な方法は,持分を取得する意思表示です。つまり相手方(求償を履行しない共有者)に対して通知をするのです。
<持分買取権の行使方法(通知)>
あ 意思表示に関する規定
持分を取得する通知について
法律上,方法・様式についての定めはない
→理論的には口頭による意思表示でも可能である
い 償金の提供との関係(概要)
持分を取得する意思表示(あ)は,償金の提供とともに行う必要がある(一般的見解)
詳しくはこちら|共有持分買取権に関する解釈の基本(主体・起算点・償金提供・部分的行使・効果)
う トラブルリスク
『通知を受けていない』という反論を受ける可能性がある
え 実務的方法
通知をしっかりと記録に残すことが望ましい
実務では通常,内容証明郵便を用いて通知を行う
6 共有持分買取権の要件の解釈(概要)
以上のように,共有持分買取権の制度自体は比較的シンプルです。しかし,細かい要件についてはいくつかの解釈論があります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有持分買取権に関する解釈の基本(主体・起算点・償金提供・部分的行使・効果)
7 共有持分買取権の償金の金額(概要)
実際に共有持分買取権を行使する場面では,償金(持分の対価)の金額について熾烈に対立することが多いです。償金の金額は,簡単にいえば,対象となる共有持分の評価額です。償金の金額算定については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有持分買取権の『相当の償金』の金額の算定・求償権との相殺
8 共有物分割における共有物に関する債権の扱い(概要)
持分買取権は共有物に関する債権の実現方法の1つです(前記)。この点,共有物分割の手続の中で,共有物に関する債権を回収する特別の扱いもあります。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有物分割における共有者間の債権の保護(民法259条)
9 共有を解消する手続(持分買取権・持分放棄・共有物分割)の比較(参考)
共有持分買取権は相手を共有関係から離脱させる(排除する)ものです。ほかにも,共有関係の解消につながる制度はあります。
つまり実務では,共有に関するトラブルを解決する手段として複数の選択肢があるということが多いのです。
それぞれの手続をしっかり検討することが,最適手段の選択・判断につながります。共有関係を解消する,あるいは共有関係から離脱する3つの手続の比較については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|持分買取権・持分放棄・共有物分割|3つの制度の比較
本記事では,共有持分買取権の基本的な内容を説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的な扱いや最適な解決方法は違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。