【形式的競売における担保権の処理(全体像)】

1 形式的競売における担保権の処理(全体像)

共有物分割の換価分割による競売は、担保権実行や強制競売(債権回収のための差押)とは異なる競売なので、形式的競売と呼びます。
形式的競売の対象不動産に担保権の設定がある場合には、競売手続の中でどのように扱うか、という問題があります。この解釈の問題は少し複雑なので、本記事では、どうして問題となるのか、という問題の全体像を説明します。

2 一般的な競売における担保権の処理方法(消除主義・前提)

形式的競売での担保権の扱い(解釈)は、一般的な競売(担保権実行・強制競売)における担保権の処理と大きく関係しています。そこで最初に一般的な競売における担保権の処理方法を押さえておきます。
要するに、担保権はすべて消滅するという単純なものであり、逆に言えば、買受人は担保権の負担がない状態の不動産を取得することができるということになります。

一般的な競売における担保権の処理方法(消除主義・前提)

あ 一般的競売の種類

担保権に基づく競売(担保権実行)
一般債権者の差押による競売(強制競売)

い 目的

債権回収が目的である

う 担保権の処理

売却代金について
(申立人以外の担保権者も含めて)
担保権者への弁済・配当が優先して行われる
担保権は消滅・抹消する
これを消除主義と呼ぶ
※民事執行法59条

3 形式的競売における担保権の処理方法の選択肢(概要)

(1)選択肢→消除主義・引受主義・二分説

形式的競売においては、担保権をどのように扱うか、ということについて条文上明確な規定がありません。解釈としては、担保権を消滅させるという消除主義(前述)と、担保権を存続させるという引受主義があり、さらに形式的競売の種類によって異なる方法をとるという二分説もあります。

選択肢→消除主義・引受主義・二分説

あ 担保権の処理に関する条文の規定

形式的競売については担保権の実行の手続を流用するという規定があるだけである
担保権の処理について明確に定める規定がない
※民事執行法195条

い 目的の特殊性

換価分割の形式的競売の目的は、分けることができる財産に換えることである
債権回収が目的ではない

う 解釈のバリエーション

担保権の処理方法は大きく3つに分けられる
ア 消除主義 担保権者への配当を行う
担保権は消滅する
通常の競売と同じ方式である
イ 引受主義 担保権者への配当を行わない
担保権は存続する
→買受人が担保権の負担の引き受ける
ウ 二分説 形式的競売の種類によって『ア・イ』のいずれかを選択する
詳しくはこちら|形式的競売の担保権処理は引受主義より消除主義が主流である

(2)消除主義を採用した場合に生じる権利関係

形式的競売で消除主義を採用した場合は、通常の担保権実行と同じように担保権者への配当が行われます。この場合、当該不動産の所有者の負担で被担保債権にかかる債務の弁済が行われたことになります。そこで所有者は債務者に対して求償権を取得するとともに、他の保証(人的保証・物的保証)に関して代位することになります。
詳しくはこちら|物上保証人の求償権(委託の有無による求償権の範囲)

(3)形式的競売を命じつつ和解により競売回避を願う判決(参考)

担保権の負担がある不動産の形式的競売では、消除主義や引受主義の選択や、消除主義を採用した場合にはその後の求償権など、実際の問題が広がる傾向があります。このようなことを見越して、形式的競売を命じる判決の中で、その後和解が成立して競売を避けることを望むコメントを出した裁判例があります。

形式的競売を命じつつ和解により競売回避を願う判決(参考)

(注・共有物分割訴訟において換価分割を採用した)
そうすると、現物分割は適当でなく、競売による分割を行うほかはないものである。・・・
本件土地は、D銀行の抵当権がついており、被担保債権の履行遅滞はないものの、これを共有物分割のためのいわゆる形式的競売に付するときは、わが国の法制度の不備もあって、関係者の権利関係も錯綜し、いろいろと困難が生じるところである。当裁判所としては、被告が特別受益の主張を取り下げて原告らの持分を認めた上で、共有物の利用方法については、和解による円満な解決が図られることを望むものである
※東京地判平成18年7月27日

話しは変わりますが、離婚の際の財産分与の審判で、担保権の負担のある不動産を分与するとその後に別の問題が生じることから、なんと財産分与自体をしないで、その後の消長を見ることにした実例があります。
詳しくはこちら|財産が複雑であるため財産分与請求を棄却した裁判例(消長見判決)
担保権がついている(実質)共有不動産をどちらかの単独所有にすると問題が生じる(複雑になる)から避けたい、という発想の部分では共通しています。

4 形式的競売における担保権処理方法の決定→執行裁判所

(1)昭和61年東京高判・売却条件として執行裁判所が決定する

以上のように、形式的競売において担保権をどのように扱うか、という判断にはバリエーションがあります。ここで、実際の案件で実際に判断するのは、執行裁判所です。
たとえば、共有物分割訴訟の判決が言い渡されると、その後、共有者(の1人)が裁判所の別の部署に形式的競売の申立をします(東京であれば東京地裁民事執行センター)。その形式的競売の手続を担当する部署(執行裁判所)が担保権の処理方法を判断、決定することになります。
逆に、共有物分割訴訟を担当する裁判所が判断して判決に担保権の処理方法を記載するということはできないのです。

昭和61年東京高判・売却条件として執行裁判所が決定する

(なお、民法第二五八条の規定による換価のための競売については、民事執行法第一九五条により担保権の実行としての競売の例によるものとされているが、目的物件に設定されている抵当権が売却により消滅するものとすべきか否かは、本来、当該競売裁判所が同法の規定に基づき決定すべきものと解されるから、右抵当権の消滅を前提としたその余の部分は不相当であって取消しを免れず、その限り(原判決が認容できないこと)において本件控訴は一部理由がある。)
※東京高判昭和61年3月24日

(2)平成18年東京地判・消除主義的な判決主文(参考)

換価分割の判決として、消除主義を指定することはできないはずなのですが、そのようにも読める感じがする判決があります。

平成18年東京地判・消除主義的な判決主文(参考)

(注・換価分割の判決の主文の一部)
別紙物件目録記載の土地を競売し、その売却代金から競売に要した費用その他の優先配当額を控除した残金のうち4分の1を原告X1に、8分の1を原告X2に、8分の5を被告に分配する。
※東京地判平成18年7月27日

通常の換価分割の判決では「優先配当額を控除」というフレーズは出てきません。
詳しくはこちら|共有物分割訴訟の訴状の請求の趣旨・判決主文の実例

5 形式的競売における無剰余取消の適用の有無(概要)

担保権の処理方法の延長として、形式的競売にも無剰余取消の規定を適用(準用)するかどうか、という問題もあります。これはオーバーローン(設定されている担保の金額の方が不動産の価値を上回ること)の場合には、担保権者以外の者による競売の申立をできなくする(競売手続を取り消す)という制度です。
判例により、結論としては形式的競売にも適用することとなっていますが、これは消除主義が前提となっているので、必ず無剰余取消が適用されるとは言い切れません。詳しくは別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|形式的競売における無剰余取消の適用の有無(オーバーローン不動産売却の可否)

6 関連テーマ

(1)融資契約の期限の利益喪失との関係(参考)

ところで一般的に、融資の契約では、担保とした不動産について差押や競売がなされることが、期限の利益の喪失の事由として規定されていることが多いです。そうすると、担保とした不動産について形式的競売がなされると期限の利益を喪失し、金融機関が一括返済を請求するということが一応考えられます。このようなリスクやその回避策については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|形式的競売×担保権への影響|期限の利益喪失

本記事では、形式的競売における担保権の処理方法の全体像を説明しました。
実際には、個別的事情や主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に共有不動産や競売に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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