【借主の金銭負担の程度により土地の使用貸借と借地(賃貸借)を判別する】
1 土地の使用貸借と借地(賃貸借)の違い
建物所有目的の土地の賃貸借は借地として、いろいろな借主保護のルールが適用されます。
詳しくはこちら|建物所有目的の土地賃貸借は『借地』として借地借家法が適用される
一方、土地の使用貸借は借地ではないので、強力な借主保護のルールは適用されません。
例えば、契約の終了についても、借地と比べて容易に認められる傾向があります。
詳しくはこちら|一般的な使用貸借契約の終了事由(期限・目的・使用収益終了・相当期間・解約申入)
実際には、使用貸借が賃貸借(借地)かがはっきり区別できないこともあります。
そうすると、貸主(所有者)と借主で意見が熾烈に対立し、トラブルとなります。
本記事では、土地の使用貸借と賃貸借の判別方法について説明します。
2 賃貸借と使用貸借の条文
最初に、賃貸借と使用貸借の条文を確認しておきます。両方ともある物の貸し借りということは共通しています。違いは、無償か、賃料を支払う(有償)かの違いといえます。使用貸借は無償ですが、純粋にタダではなく、借主は通常の必要費は支払うことになっています。
賃貸借と使用貸借の条文
あ 賃貸借
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
※民法601条
い 使用貸借
ア 基本
使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。
※民法593条
イ 費用負担
借主は、借用物の通常の必要費を負担する。
※民法595条1項
3 金銭以外の対価(賃料)
前述のように、賃料を支払うことで賃貸借といえるのですが、解釈としては、金銭ではなくてもよいということになっています。金銭以外の財産や利益、労務の提供でも物を借りる(使わせてもらう)対価であれば賃料と同じ扱いになるのです。
金銭以外の対価(賃料)
対価は金銭であることを必要とせず・・・現物供与でも・・・労務給付でもよい(旭川地判昭26・7・3下民集2・7・853―未墾地を開墾するための3年を下らない期間の労力提供がその後その土地を地代を払わずに収益することの対価と認められた)。
※幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣2003年p163
4 賃料の名義
借地借家法の適用を逃れるために、地代や賃料という名目を避ける方法が以前はよくみられました。しかし金銭支払の名目だけで賃貸借契約かどうかが判断されるわけではありません。支払う金額の程度や当該物の使用との対応(対価といえるか)によって、賃料(賃貸借)といえるかどうかが判断されます。
賃料の名義
金銭である場合その名義は問題でない。
財団法人たる家主への寄附金名義でも、寺院たる家主への燈明料名義でもよい―東京地判昭25・8・10下民集1・8・1274、京都簡判昭27・1・30下民集3・1・104)、
※幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣2003年p163
5 固定資産税(公租公課)の金額による基準
土地の貸し借りで、地代はないけど固定資産税分は借主が支払うというケースがよくあります。では、このように金銭の支払があるから賃貸借になるかというとそうではありません。もともと使用貸借は純粋なタダではなく、一定の維持の費用(通常の必要費)を借主が負担することになっているのです。
ここで、借主が、固定資産税分の金額しか支払っていない場合は、貸主の手元に残る金銭はありません。そこで、貸主に使用対価を支払っているとはいえません。結論としてこのようなケースでは、通常、使用貸借であると判断されます。
では、支払金額が固定資産税の額を超えれば賃貸借になるかというと、そうとは限りません。賃貸借と判定されるためには支払金額が、使用・収益の対価といえるレベルに達する必要があります(後述)。
固定資産税(公租公課)の金額による基準
あ 使用貸借における通常の必要費の負担(前提)
維持費用の負担について
例=固定資産税の負担
→通常の必要費である→借主が負担する
※民法595条1項
※東京地裁平成9年1月30日
詳しくはこちら|土地の利用権の種類や内容で固定資産税の負担者が異なる
い 支払金額による判別
ア 維持費レベル
借主が通常の必要費を負担している
例=固定資産税
→使用貸借となる
イ 使用収益に対する対価のレベル
借主が使用収益に対する対価の負担をしている場合
→賃貸借となる
※最判昭和41年10月27日
※大判昭和8年11月11日
6 使用貸借・賃貸借の判断要素
借主が、固定資産税よりも高い金額を支払っている場合はそれだけで賃貸借であると判断できるかというとそうではありません(前述)。その地域の賃料の相場の金額であれば賃貸借となりますが、問題は固定資産税よりは高い、賃料の相場よりは低いというケースです。はっきりした判別基準はありません。相場よりは低いことの理由があるはずです。親子や夫婦、あるいは雇用関係がある、といった特殊な事情があるはずです。個別的な特殊事情を踏まえて判断することになります。
使用貸借・賃貸借の判別要素
あ 借主の費用負担
借主の不動産利用に関する費用負担の有無、その金額
い 低廉さの程度
不動産の相当賃料額(相場)との比較
う 人間関係
貸主と借主の関係性
例=親子・夫婦・親族・雇用関係など
※『判例から学ぶ民事事実認定 ジュリスト増刊2006年12月』有斐閣p191
7 人間関係を重視して使用貸借と判定された実例
土地の貸し借りについて、使用貸借なのか、賃貸借なのか、が判断された実例を紹介します。当初、借主は、貸してくれているお礼として、お歳暮・お中元(商品)を贈っていましたが、金銭は支払っていませんでした。その後、商品券を贈るようになり、さらに時代の流れとともに金銭(現金)を支払うように変化しました。
結局、金額として地代の相場よりも低いし、賃貸借(借地)という強い権利関係を意図したものとはいえないため、使用貸借(にとどまる)と判断されました。
人間関係を重視して使用貸借と判定された実例
あ 事案
元々親戚同士で土地を貸し借りしていた
対価を現金で支払うことはなく『お礼』としてお歳暮・お中元が贈られていた
時代の流れとともに、商品ではなく商品券が贈られるようになった
最近では、現金が支払われるようになった
い 判断結果
使用貸借であると判断された
8 建物の使用貸借・賃貸借を判別した実例(平成元年横浜地判)
建物の貸し借りについて、使用貸借なのか、賃貸借なのか、が判断された実例を紹介します。支払っていた金額は家賃相場よりも低かったのですが、低かった理由は、母親の面倒をみていたことにあったのです。言い換えると、母親の面倒をみることが、賃料の一部になっていたということです。実質的には低い賃料ということにはらなない、つまり賃貸借として認められました。
建物の使用貸借・賃貸借を判別した実例(平成元年横浜地判)
あ 事例
妹夫婦が『姉の夫の所有建物』に居住していた
『家賃』としては低額の金銭が支払われていた
通い帳に領収印を押印していた
妹夫婦が『姉妹の母親』の面倒をみていた
い 裁判所の評価
『低額な家賃』+『母親の面倒』=『標準的な家賃』
(『母親の面倒をみる』ことが『低額な家賃』に反映されている)
う 裁判所の判断
建物の賃貸借であると認定した
※横浜地判平成元年11月30日
9 土地の交換的貸し借り→使用貸借否定(昭和10年大判)
最初に説明したように、賃貸借の賃料は金銭だけとは限りません。金銭以外の利益を賃料として認めた(賃貸借であると認めた)実例として、土地の交換的な貸し借りがあります。2人がそれぞれ土地を1筆所有していて、相互に相手に使わせた(貸した)というケースです。現実の金銭の支払いはお互いにしていませんでしたが、お互いの土地の使用には対価関係があるという判断です。
土地の交換的貸し借り→使用貸借否定(昭和10年大判)
あ 使用貸借の対価→なし(無償)(前提)
使用貸借ハ当事者ノ一方カ無償ニテ使用及収益ヲ為シタル後返還ヲ為スコトヲ約シテ相手方ヨリ或物ヲ受取ルニ因リ其効力ヲ生スル契約ニシテ所謂無償契約ニ属スルコトハ民法第五百九十三条ノ規定ニ徴シ明ナル所ナリ
い 土地の交換的貸し借り(事実認定)
然ルニ原審ノ認定シタル事実ニ依レハ被上告人ハ其所有ニ係ル本件土地一畝三歩ヲ上告人ニ対シ返還時期ノ定ナク無償ニテ貸付クルト同時ニ上告人ニ於テモ之ト交換的ニ其所有ニ係ル他ノ土地二畝三歩ヲ被上告人ニ対シ返還時期ノ定ナク無償ニテ貸付クル契約カ右当事者間ニ成立シタリト云フニ在リテ
う 使用貸借(原審判断)→否定
右事実ニ依レハ他ニ特別ノ事情ナキ限リ右契約上被上告人ノ為スヘキ土地ノ使用ト上告人ノ為スヘキ土地ノ使用トハ互ニ対価タル関係ニ在ルモノト認ムルヲ相当トスヘク
従テ右契約ハ全般的ニ観テ無償契約ト為スコトヲ得サル結果使用貸借ニ非サルモノト謂ハサルヲ得ス
然ルニ原審ハ前記ノ如キ事実ヲ認定シナカラ何等特別ノ事情ヲ判示スルコトナク右契約ヲ以テ使用貸借ナリト為シ之ニ使用貸借ニ関スル規定ヲ適用シテ其契約ノ終了ヲ肯定シ以テ被上告人ノ本訴請求ヲ認容シタルハ審理不尽理由不備ノ違法アルモノニシテ破毀ヲ免レス
※大判昭和10年3月28日
10 融資承諾書による賃貸借の立証(参考)
話題は少し代わりますが、土地の賃貸借(借地権)を立証するために、金融機関に差し入れてある融資承諾書を使う方法もあります。融資承諾書には地代が明記されていたけれど、実際の支払いがなかったので賃貸借とは認めないという最高裁判例もあります。このように実務の立証では実際の支払いが重視されるのです。
詳しくはこちら|融資承諾書(地主承諾書)による賃貸借(借地権)や譲渡承諾の立証
11 無償の土地利用は使用貸借か地上権である(参考)
前述のように、不動産を借りている者が支払っている金額が小さい(または一切ない)場合には、使用貸借になります。ただ、土地の場合は、無償の貸し借りは、使用貸借以外に、地上権(設定)ということもあり得ます。ただ、はっきりと(無償の)地上権を設定した形式がないケースでは、地上権ではなく使用貸借という判断になります。
詳しくはこちら|無償の土地利用は原則として使用貸借だが地上権のこともある
本記事では、使用貸借と賃貸借の判別について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に土地や建物の貸し借りに関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。