【賃料改定事件の裁判手続(調停前置の適用範囲と例外)】
1 賃料改定事件の調停前置
2 調停前置の適用対象となる案件
3 調停前置が適用されない案件
4 調停前置を欠く訴訟提起と付調停(基本)
5 調停前置を欠く訴訟提起と付調停(例外)
6 調停申立の履行済の判断
7 調停条項の裁定制度(概要)
1 賃料改定事件の調停前置
賃料増減額請求に関する案件は,訴訟より先に調停を行うルールがあります。
これを調停前置と呼びます。
本記事では賃料改定の案件に適用される調停前置について説明します。
まずは,基本的事項をまとめます。
<賃料改定事件の調停前置>
あ 調停前置(基本)
賃料増減額請求事件について
原則として訴訟より前に調停の申立をしなければならない
※民事調停法24条の2
い 調停前置の例外(概要)
特殊事情により調停前置が適用されないことがある(後記※1)
う 調停前置の趣旨・導入経緯
調停前置は協議を重視する趣旨である
平成4年の法改正で導入された
詳しくはこちら|賃料改定事件の調停前置の趣旨と導入経緯
2 調停前置の適用対象となる案件
賃料改定に関する調停前置が適用される対象の案件をまとめます。
<調停前置の適用対象となる案件>
あ 規定の内容
調停前置が適用される案件
→賃料の額の増減額の請求に関する事件
※民事調停法24条の2第1項
い 具体的な案件(請求)の内容
賃料の増減請求権が行使されたことを理由とする請求
具体例は『ア〜ウ』である
ア 新たな賃料の額の確認を求める事件イ 新たな賃料の給付を求める事件ウ 相手方からする債務不存在の確認を求める事件
※寺田逸郎『借地・借家法の改正について』/『民事月報47巻1号』法務省民事局1992年p154
※橋本和夫『地代・家賃紛争の調停制度』/『ジュリスト1006号』1992年p120
3 調停前置が適用されない案件
賃料改定に関係していても調停前置が適用されない種類の案件もあります。
<調停前置が適用されない案件>
あ 基本的事項
『い〜え』の案件(請求)について
→調停前置の規定は適用されない
しかし裁判所の裁量による付調停が相当であることが多い
※民事調停法20条1項
※橋本和夫『地代・家賃紛争の調停制度』/『ジュリスト1006号』1992年p120,121
い 明渡請求
賃料の未払による賃貸借契約の解除を前提とする
土地or建物の明渡請求
賃料の増減が実質的な争点となっていても同様である
※幾代通ほか『新版 注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣1996年p869
う 合意による変更に関するもの
当事者間の合意によって賃料を変更したことを前提とする
増減後の賃料の確認や給付の請求
→『合意の認定』が審理対象である
=適当な増減の額を摸索するという性質のものではない
※福田剛久『民事調停法の一部を改正する法律及び民事調停規則の一部を改正する規則』の概要』/『判例タイムズ785号』1992年p28
※寺田逸郎『借地・借家法の改正について』/『民事月報47巻1号』法務省民事局1992年p155
え 賃料改定特約の有効性判断
賃料の自動改定特約について
→特約の相当性により有効性が判断される
趣旨としては増減額請求と同一といえる
しかし『増減額請求』には該当しない
→調停前置の適用対象ではない
※橋本和夫『地代・家賃紛争の調停制度』/『ジュリスト1006号』有斐閣1992年p120
4 調停前置を欠く訴訟提起と付調停(基本)
調停前置のルールに違反している提訴は,調停に付されることになります。
つまり,訴訟の審理はせず,調停の担当部に回されるということです。
<調停前置を欠く訴訟提起と付調停(基本)>
あ 基本的事項
調停申立をせずに訴訟が提起された場合
→裁判所は事件を調停に付さなければならない
※民事調停法24条の2第2項
い 訴訟手続の中止
受訴裁判所は調停が終了するまで訴訟手続を中止することができる
※民事調停規則5条参照
5 調停前置を欠く訴訟提起と付調停(例外)
調停を行っていない提訴があっても審理に入らないのが原則です(前記)。
しかし,例外的に訴訟の審理を進めることもあります。
<調停前置を欠く訴訟提起と付調停(例外;※1)>
あ 調停前置の例外
受訴裁判所が付調停を相当でないと認める場合
→ そのまま訴訟手続を進行させることができる
『い・う』のような具体例がある
※民事調停法24条の2第2項
い 参加見込みなし
当事者(相手方)が調停期日に参加する見込みがない
例;行方不明である
う 調停成立見込みなし
調停成立の見込みがない
例;過去に何度も地代紛争があり訴訟に至っているケース
※下田文男『民事調停法の一部改正』/『法律のひろば平成4年3月』p30
※福田剛久『『民事調停法の一部を改正する法律及び民事調停規則の一部を改正する規則』の概要』/『判例タイムズ785号』p28,29
6 調停申立の履行済の判断
提訴より前に『調停申立を済ませたかどうか』は実質的に判断されます。
<調停申立の履行済の判断>
あ 条文の規定
調停の『申立』後であれば訴訟提起が可能である
い 実務的運用
実質的な当事者間の協議が行われていない場合
→職権での付調停が妥当である
※民事調停法20条1項
う 調停申立の取下
調停が取下によって終了している場合
→調停申立の効力は遡及的に消滅している
実質的に調停活動があった場合
→調停前置の要請を満たしている
※幾代通ほか『新版 注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣1996年p870
え 家事事件の調停前置(参考)
家事事件の調停前置における扱いと同様である
詳しくはこちら|家事事件の調停前置の基本(趣旨・不服申立)
7 調停条項の裁定制度(概要)
賃料改定の調停では特殊な制度として裁定という手続があります。
裁判所に改定賃料を決めてもらうというものです。
<調停条項の裁定制度(概要)>
調停委員会が解決案を定める制度がある
一種の仲裁判断である
※民事調停法24条の3
詳しくはこちら|賃料改定の調停における調停条項の裁定制度