【法定地上権の地代相場・地代確定請求訴訟と成立範囲の全体像】
1 『法定地上権』の地代相場は『固定資産税の3〜4倍』
2 『法定地上権』の地代が協議で決まらない場合,裁判所が定める;地代確定請求訴訟
3 法定地上権の『範囲』は『建物の利用に必要な限度』である
4 法定地上権の『範囲』は『土地の一部』となることもある;『一物一権主義』の例外
5 法定地上権の『範囲』が『2筆以上にまたがる』ということもある
6 『庭』となっている隣接地は『法定地上権の範囲』とは認められない傾向
1 『法定地上権』の地代相場は『固定資産税の3〜4倍』
法定地上権については,当初から条件の協議,合意,という契約のプロセスがありません。
法定地上権が成立した後に,協議や裁判所により地代が決まります。
この点法定地上権の地代相場は,通常の借地と同じように考えるのが基本です。
多くの裁判例を分析,集約すると次のようにまとめられます。
<法定地上権の地代相場>
あ 固定資産税の3~4倍
特に4倍が多い
い 更地評価額の1%
ごく一般的な『借地権』よりも『法定地上権』の方が若干高め,という位置付けです。
詳しくはこちら|公租公課倍率法の基本(裁判例・倍率の実情データ)
2 『法定地上権』の地代が協議で決まらない場合,裁判所が定める;地代確定請求訴訟
(1)法定地上権の地代を決定するだけの裁判手続がある
法定地上権の地代について,地主,地上権者の間で協議が合意に至らない場合もあります。
その場合,地代の額を算定するというところだけを裁判所が行う手続があります(民法388条,民事執行法81条)。
(2)土地評価額自体は,先行する競売手続の調査結果を使える
法定地上権は,必ず競売が先行しています。
競売の手続きにおいて,不動産鑑定士が評価書を作成しています。
ですから,前提の資料はある程度しっかりと準備された状態と言えます。
(3)新規賃料=積算方式,継続賃料=スライド方式,が多い
そこで,主に算定方法の選択が審理対象となることが多いです。
実際には,個々の事例において,異なる算定方法が取られています。
典型的な算定方法を次にまとめます。
<借地の地代算定方式の典型例>
あ 当初の賃料
新規地代に準じて積算方式による
詳しくはこちら|『賃料』の種類(地代・家賃・新規賃料・継続賃料)
い 事後的な賃料の増減額
継続賃料に準じてスライド方式などによる
詳しくはこちら|改定賃料算定手法の種類全体(主要4手法+簡易的手法)
※大阪高裁平成2年9月25日
3 法定地上権の『範囲』は『建物の利用に必要な限度』である
(1)1筆の土地が1つの建物の敷地であることが明らかな場合
競売の対象の土地が,一戸建てに適した形状,面積の土地であれば問題は生じません。
その土地全体について法定地上権が成立することになります。
(2)法定地上権の範囲の基準は,建物利用に必要な限度となる
広い土地であり,形状,面積から,複数の建物の敷地になるようなものであると一義的に決まりません。
実際にそのような広い土地の一部に建物が存在するような場合です。
民法388条,民事執行法81条では,その建物について,地上権が設定されたものとみなすとしか規定されていません。
建物の周囲の何メートルまで,ということは明記されていません。
この点,少なくとも建物の敷地のみではない,と言えます。
つまり建物の直下部分だけではないという趣旨です。
法定地上権の成立範囲の解釈を次にまとめます。
<法定地上権;成立範囲>
建物として利用するのに必要な限度の範囲で成立する
※大判大正9年5月5日
より詳しく考えると,次のようになります。
<法定地上権の成立範囲の具体的判断例>
あ 判断要素
・接道(公道へ通じる通路)の位置関係
・建物の配置を中心とした現実的な利用状況
い 平均的な成立範囲;目安
・建物の周囲1〜2メートル程度
・公道に通じるための通路部分
なお,一般的な借地においても,借地権の範囲(境)が不明確であるケースも多いです。
この場合の借地範囲の判断の際も,上記判断要素は重視されます。
4 法定地上権の『範囲』は『土地の一部』となることもある;『一物一権主義』の例外
(1)一物一権主義によると土地の一部を対象とする地上権は認められない
所有権の一般論として一物一権主義,という考え方があります。
例えば土地については,1筆の土地を最小単位として扱う,という考え方です。
そうすると,1筆の土地の一部に(法定)地上権を認める,というのはおかしいことになります。
(2)1筆の土地の一部を対象とする地上権は認められる;一物一権主義の例外
この点,法定地上権ではない,一般の地上権では当事者間で地上権の範囲を自由に設定することが認められています。
つまり一物一権主義の例外ということです。
法定地上権の場合も,建物の利用に必要な範囲で成立するので,一般的に,境界と一致しないことがあります。
実際に1筆の土地の一部に法定地上権が成立するケースも多いです。
結論として,1筆の土地の一部にだけ法定地上権が成立するということはあり得るのです。
5 法定地上権の『範囲』が『2筆以上にまたがる』ということもある
<事例設定>
法定地上権が成立する建物を所有している
敷地は2つの土地(2筆)にまたがっている
両方の土地について法定地上権が成立するのか
法定地上権の成立範囲は建物の利用に必要な範囲です。
1筆の一部,ということもありますし,また,2筆以上にまたがる,ということもあります。
この解釈自体は,判例の考え方から当然とされています。
6 『庭』となっている隣接地は『法定地上権の範囲』とは認められない傾向
<事例設定>
法定地上権が成立する建物を所有している
建物の直下部分は1筆に収まっている
ただ,現況として,隣接する1筆が『庭』となっている
建物直下部分と庭部分の土地所有者は同一人である
隣接地にも法定地上権が成立しないのか
(1)庭はメインの土地の利用効率を高める効果を持つ
法定地上権が成立する範囲は建物の利用に必要な範囲と解釈されています。
庭というものは,確かに,建物をより有効に利用する,利用効率を高める,という機能があります。
(2)法定地上権の制度趣旨から,成立は例外かつ最小限が要請される
ここで,法定地上権という制度の根底的な考え方は,不合理な建物の撤去を避けるというものです。
つまり,原則論で考えると,利用権を設定していない以上は利用権がないということになります。
その例外として,土地利用権を特別に・救済的に創設する,というのが法定地上権の制度趣旨なのです。
このような趣旨から法定地上権の成立範囲は最小限にすべきという方向性が導かれます。
(3)判例でも最小限という要請は認められている
このテーマそのものについての判例は見当たりませんが,同趣旨のテーマについての判例はあります。あくまでも参考として紹介します。
<土地賃借権の対抗力の範囲(参考)>
建物保護法における土地賃借権の『対抗力の範囲』
→最小限の範囲で認める(趣旨)
※最高裁昭和40年6月29日
『庭となっている隣接する土地』については『借地権の範囲としては認められない』可能性が高いです。