【土地境界のトラブルの原因と解決(境界特定)の全体像】
1 公図は古く長さの記載もないので境界を再現しにくい
2 境界の特定の基準(枠組みと判断材料となる事情)
3 測量や鑑定の費用は宅地で10〜60万円程度かかる
4 境界確定訴訟の性質は形式的形成訴訟
5 境界確定訴訟×土地の共有|共有者全員参加が必須
6 境界確定訴訟の判決が無効となることもある(概要)
7 筆界特定制度などの解決手段もある
1 公図は古く長さの記載もないので境界を再現しにくい
境界(公法上の境界)を記録している公的な記録は公図です。
ところが,この公図は,最初は明治の初期に測量して作られたもので,非常に精度が低いです。そもそも公図には長さが一切入っていません。記載されている数字は地番だけなのです。
そのため,境界を正確に再現できないことが多いです。そして,隣地の所有者同士で意見が対立するトラブルが発生するのです。
なお,近年測量し直した正確性の高い『公図』もあります。この『公図』は俗称であり,最近のものは,正確には(法14条)地図というものです。
詳しくはこちら|公図・地図・図面による境界の判断(特定)と立証方法
2 境界の特定の基準(枠組みと判断材料となる事情)
実際の境界のトラブルでは最終的に裁判所や法務局の手続で境界を特定することになります。
この点,境界を判断(特定)するための基準にはいろいろなものがあり,単純ではありません。
実務でも多くの事情を元に,総合的に境界の位置を判断しています。
判断の基準を整理すると,まず,判断の方針ともいうべき枠組みがあります。
公平性や登記の面積とのバランスを考慮するなどの内容です。
詳しくはこちら|境界確定訴訟における境界の判断の枠組み(判例とドイツ民法)
具体的な判断の内容としては,いくつかの主要な判断材料(事情)が決まっています。
占有状況,公図その他の地図,境界を示す木や石,自然地形などのことです。
判断材料ごとの,判断の方法や裏付けのための証拠を別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|境界の位置を判断(特定)する事情ごとの判断基準と立証方法
とにかく,境界の判断で考慮する事情はとても広い範囲にわたります。
主張する事情・証拠の取捨選択をしっかりを行う必要があります。
逆に言えばやり方によって結果に違いが出やすいのです。
3 測量や鑑定の費用は宅地で10〜60万円程度かかる
境界のトラブルを解決する,つまり境界を特定(判断)するためには,前提として測量が必要です。
測量は文字どおり,長さを図るとか面積を算出するというものです。
費用としては100坪以下の一般的な宅地では10万円〜15万円程度が相場です。
これに加えて,判断材料となる木の年輪など,より専門的な調査が必要となることもあります。
測量とこのような専門的な調査や判断を組み合わせたものを鑑定と呼びます。
鑑定を測量士や土地家屋調査士に依頼すると,一定の費用がかかります。
100坪以下の一般的な宅地では30〜60万円程度が相場です。
境界確定訴訟の中で,裁判所が鑑定を発注することもあります。
その場合でも,鑑定の費用は当事者が負担します。
詳しくはこちら|境界の判断(特定)に使う事情の立証方法(証拠方法)
4 境界確定訴訟の性質は形式的形成訴訟
境界確定訴訟は,裁判所で証拠を元に,筆界(公法上の境界)の正しい位置を確定する手続です。
法律的な理論では,形式的形成訴訟という特殊な性質という位置づけです。
<境界確定訴訟の性質とネーミング>
あ 境界確定訴訟の法的性質
本質的には非訟事件である
形式的な手続は民事訴訟である
形式的形成訴訟である
※最高裁昭和41年5月20日
※最高裁平成7年3月7日
い ネーミング
一般的には『境界確定訴訟』と呼ばれる
最近の法律上の用語では『筆界』というものがある
『筆界確定訴訟』と呼ばれることも増えている
※不動産登記法132条,147条,148条
形式的形成訴訟という特殊な性質が,所有権確認訴訟との併合や訴えの変更という訴訟での扱いに現れています。
詳しくはこちら|所有権確認訴訟と境界確定訴訟の比較と請求の併合・訴えの変更
また,和解が成立する時の具体的扱いでも特殊性が反映されます。
詳しくはこちら|境界確定訴訟における合意(和解)の可否と方法
5 境界確定訴訟×土地の共有|共有者全員参加が必須
境界確定訴訟に関わる土地が共有となっているケースもあります。
この場合,訴訟の性質とともに『原告・被告』が問題となります。
<境界確定訴訟×土地の共有>
隣接する土地の一方or双方が共有である
→境界確定の訴えは『固有必要的共同訴訟』である
=共有者全員が原告/被告になる必要がある
※最高裁昭和46年12月9日
6 境界確定訴訟の判決が無効となることもある(概要)
レアケースですが,境界確定訴訟の判決が無意味になる,ということもあります。
判決を元にして現地に境界が再現できないという根本的な欠陥といえる実例もあります。
また,当事者の馴れ合いによる判決では,肝心の登記申請の段階で,判決内容どおりの登記が認められないこともあり得ます。
詳しくはこちら|境界確定訴訟の判決の効力(原則的に登記可能だが例外あり)
判決は当然,訴訟における主張の時点で当事者の主張に影響されます。
弁護士がしっかりと主張をしていれば,このようなアクシデントは防げるはずです。
7 筆界特定制度などの解決手段もある
境界のトラブルを解決する法的手段の代表的なものは境界確定訴訟です(前記)。
ただ,これ以外にもいろいろな解決手続があります。
筆界特定制度は筆界(公法上の境界)を特定することを目的とする制度です。境界確定訴訟と似ていますが違うところも多いです。
また,境界確定訴訟とは別の訴訟として所有権確認訴訟もあります。
さらに,訴訟とは別に処分禁止や妨害物除去の仮処分を活用できることもあります。
また,境界のトラブルの中には不動産侵奪罪や境界標損壊罪などの刑事責任が発生することもあります。
交渉の段階で刑事責任追及の警告をすることや,実際に告訴するケースもあります。
詳しくはこちら|土地境界のトラブルの解決手続の種類や方法の全体像