【共有物の管理者と共有者の委任関係(授権否定・管理者選任関係)】
1 共有物の管理者と共有者の委任関係(授権否定・管理者選任関係)
令和3年の民法改正で、共有物の管理者の制度が条文として規定されました。
詳しくはこちら|共有物の管理者の制度(令和3年改正)
共有物の管理者に関しては、共有者との関係(内部関係)について法律的な問題があります。本記事ではこのことを説明します。
2 管理者との委任契約の当事者→契約をした共有者のみ(授権否定)
(1)部会資料→契約をした共有者のみ(授権否定)
まず、共有者と管理者の関係を考えてみます。共有者が、多数決をして「Cを管理者として選任する」ことを決定します。その後、共有者(のうち誰か)が、Cに管理者となってくれることを頼み、Cが承諾して、正式に「Cが管理者」になります。この契約の種類は委任契約です。
この委任契約の当事者ですが、受任者が管理者(C)であることはよいのですが、誰が委任者か、という問題があります。
改正前の議論では、持分の過半数による決定で授権を認める見解がありました(谷口氏・平野氏見解)。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借の解除の意思表示の方法(反対共有者の扱い)
この見解によれば共有者全員が委任者になりますが、法改正の際の議論では、これを否定しているように読めます(最後のカッコ書き)。
そして、実際に管理者との間で契約をした共有者(A)だけが委任者である、という見解が示されています。厳密には、管理者に対して委任契約の申込または承諾の意思表示をした共有者(A)、ということになります。
管理者との委任契約の当事者→契約をした共有者のみ(授権否定)
(そのように解さないと、委任契約の締結に反対した当事者もその契約上の義務を負うことになるし、民法第252条は、共有者を本人とする契約の代理権を法律上管理人(注・「管理者」が正しいと思われる)に付与するものではないと解される。)。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議(令和2年8月25日)『部会資料41』p12
(2)平野裕之氏・物権法→共有者全員
平野裕之氏は、共有者の全員が、(準)委任契約の当事者(委任者)になる、という見解をとっています。
反対する共有者の授権があるとして扱う見解とセットになっています。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借の解除の意思表示の方法(反対共有者の扱い)
平野裕之氏・物権法→共有者全員
これに対して、第三者に管理を委ねる場合には、決定後、共有者全員の名で(→21-39)第三者との準委任契約を締結することになる。
※平野裕之著『物権法 第2版』日本評論社2022年p364
3 共有者と管理者の法律関係→管理者選任関係など
前述の見解を前提とすると、管理者と契約をしていない共有者(B)は委任者ではない、かつ、Bは管理者に代理権の授与をしていない、そして、たとえば管理者が行った第三者Dとの間の賃貸借契約などの効果がBに直接及ぶわけではない、ということになります。
では、BはDの賃借権(占有権原)を否定できるかというとそれはできません(前述)。
このように、一見整合しない2つの「関係」が登場するのです。法改正の議論の中では、委任関係とは別に管理者選任関係というものがあるという説明がなされています。
ただし、これについては別の見解も提唱されています。
共有者と管理者の法律関係→管理者選任関係など
あ 部会資料→管理者選任関係説
ア 2分論
この考え方によれば、持分の価格の過半数により管理者を選任した場合には、管理者と共有者全員との間に管理者選任関係が成立し、それとは別に委任契約が締結されれば、管理者と実際に契約の当事者となった共有者との間に委任関係が成立することになる。
イ 将来の解釈論発展の望み
管理者選任に反対をしていた共有者と管理者との間に委任関係があるとみることはできないと解されるが、いずれにしても、この問題は今後の解釈に委ねることも考えられる。
ウ 実務的な視点
もっとも、実際には、管理者は、持分の過半数の者の意向に沿って活動をすることになるであろうし、管理費用や管理者の報酬は、基本的に委任契約の当事者である共有者から回収することになることには変わりがないと考えられる。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議(令和2年8月25日)『部会資料41』p12
い 伊藤栄寿氏見解→管理権限説
ア 管理権限説の内容
(i)管理権限説
団体代表者説、共有者代理人説、管理者選任関係説と異なり、委任契約を締結していない共有者と管理者との間に特別な法律関係を考える必要はない(基本的に委任関係だけを考えればよい)とする見解も成り立ち得る。
イ 伊藤栄寿氏見解
(注・第三者を管理者として選任したケースについて)
・・・そうすると、管理権限説が支持されるべきことになる。
(注・共有者の1人を管理者として選任したケースについて)
・・・この点からも、共有者と管理者の関係については、管理権限説が採用されるべきといえる。
※伊藤栄寿稿/潮見佳男ほか編『詳解 改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法』商事法務2023年p105、108、109
4 解任の意思表示(実行行為)→委任者以外も可能
以上のように、共有者と管理者の関係は2つに分けられます(分けないと説明がつきません)。
2つのうち、委任関係は、共有者のうち実際に委任契約をした者Aと管理者Cの間にだけ存在します。
では、解任のことを考えてみます。共有者の持分の過半数(多数決)で解任することを決定できます(前述)。その後、一般論としては、委任者が受任者に対して解任の意思表示をします。
この一般論を元にすると、委任者ではないBが受任者(管理者)Cに対して解任の意思表示をすることはできないことになります。
しかし、これについては、法改正の際の議論では、Bが解任の意思表示をすることができる方向の見解が示されています。明確な理由や解釈は示されていません。
解任の意思表示(実行行為)→委任者以外も可能
※法制審議会民法・不動産登記法部会第13回会議(令和2年6月2日)『部会資料27』p16
5 委任の報酬(管理者選任関係説前提)
以上で、誰が委任者になるかということを説明しましたが、このことが実際に問題となるのは、管理者の報酬を誰が支払うかというものです。
これについては、要するに、委任契約の中で報酬を決めるということが想定され、この場合は、(共有者の全員ではなく)(共有者のうち)委任者となった者が報酬の支払義務を負うことになります。
だからといって、他の共有者Bは報酬を負担しなくてよいというわけではありません。たとえば共有者Aが管理報酬を支払った場合、この費用(負担)は共有物の管理の費用にあたるので、AはBに(Bの持分割合相当額を)求償できることになります。
委任の報酬(管理者選任関係説前提)
あ 報酬の合意→個別合意
もっとも、持分の価格の過半数によって共有者の1人を管理者に選任する場合に、その管理者になる者とその選任に賛成をした者との間で、民法上の共有者間のルールとは別に、管理者と選任に賛成する共有者の間の法律関係を別に定める契約をすることができるのかについては、別途問題となり得る。
例えば、選任に賛成をした者が管理者に対して報酬を支払うことを合意することは、許されると考えられる
い 合意していない共有者→拘束なし+求償を受ける
(この合意は、合意をしていない他の共有者を拘束しない。なお、共有者が報酬を支払った場合に、それが管理費用(民法第253条)に該当し、求償が認められるのかは、別途問題になる。)。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議(令和2年8月25日)『部会資料41』p13
6 委任の費用償還義務者→委任者のみ(共有者全員ではない)
共有物の管理者の金銭関係は前述の報酬とは別に(管理者が立て替えた)費用もあります。費用の支払義務を負うのも、委任者(になった共有者)です。委任者であるAが費用を支払った後に、共有者の内部的処理として、AがBに求償できるのも、報酬の扱いと同じです。
委任の費用償還義務者→委任者のみ(共有者全員ではない)
※法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議(令和2年8月25日)『部会資料41』p14
7 共有物の賃貸借における賃貸人の名義(参考)
以上で説明した、共有物の管理者と共有者の関係は、共有物を対象として、第三者との間で契約を締結する状況でも基本的にあてはまります。たとえば、管理分類の賃貸借であれば、過半数持分権者で決定をした上で、共有者(の一部の者)が賃借人との間で契約を締結します。この構造は共有物の管理者への委任と同じなのです。
詳しくはこちら|共有不動産の賃貸借契約における賃貸人の名義(反対共有者の扱い)
共有物を対象とする賃貸借を解除する時にも誰の名義を使うかが問題となります。この場合は解除の不可分性の問題の関係するので複雑になります。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借の解除の意思表示の方法(反対共有者の扱い)
本記事では、共有物の管理者と共有者の間の法律関係について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産(共有物)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。