【幇助犯・教唆犯|犯罪の手助け・そそのかしだけでも犯罪になる】
1 犯罪行為の手伝いをした者も犯罪となることがある;幇助犯
2 幇助犯は,幇助の意思と因果関係が重要な要件である
3 幇助の意思は一方的でも,幇助犯は成立する
4 幇助犯は,正犯者の犯罪実行を物理的or心理的に容易にすると該当する
5 幇助犯についての判例等|Winny・ナンバープレートカバー販売・盗撮用靴販売事件
6 犯罪をそそのかした者も犯罪となることがある;教唆犯
7 教唆犯が成立するためには,正犯の実行が必要だが責任は不要
8 教唆犯が成立するためには具体的な犯行の実行の決意につながることが必要
9 幇助犯と教唆犯の判別は『正犯者が実行の決意済or未了』である
1 犯罪行為の手伝いをした者も犯罪となることがある;幇助犯
(1)幇助犯とは
当然ですが,犯罪行為(実行行為)を行った者は,刑罰の対象となります。
そして,この実行犯に,一定の手伝い,手助けをした者も処罰の対象となります。
これを幇助犯(ほうじょはん)と言います(刑法62条1項)。
幇助犯は従犯の1つです。
従犯というのは,実行犯(=正犯)のサブというような意味です。
(2)幇助犯の処罰
幇助犯は正犯の刑を減刑したものが適用されます(刑法63条)。
減刑とは,例えば,有期懲役の長期(MAX)が半減するなど,明確な規定があります(刑法68条)。
(3)幇助犯の具体例
<幇助犯の具体例>
・傷害,殺人を行う正犯者に凶器を調達して渡した
ナイフや拳銃などです。
・住居侵入,窃盗を行う正犯者のために,解錠や見張りを行った
・正犯者の犯罪実行を励ました
2 幇助犯は,幇助の意思と因果関係が重要な要件である
どの程度の手伝いをすると幇助犯が成立するのか,という基準は結構曖昧です。
条文上は,『正犯を幇助した』としか記載されていません。
この点,判例や学説によって次のように解釈されています。
<幇助の成立要件>
ア 幇助行為イ 幇助の意思
知らずに役立ったという場合は成立しません。
例;コンビニがナイフを販売したら,購入者がこれを用いて傷害行為を行った
ウ 正犯者の実行行為
手助けする意図で手助けを行っても,正犯が実行しない場合は幇助犯は成立しません。
エ 幇助の因果関係
手助けが正犯の実行に役立った=容易にした場合でないと幇助犯は成立しません。
※最高裁昭和24年10月1日
※判例タイムズ1394号p139
3 幇助の意思は一方的でも,幇助犯は成立する
幇助犯の成立要件の1つに幇助の意思があります。
この点,『正犯者が幇助の意思』に気付いていない場合でも幇助犯は成立します。
※大判大正14年1月22日
4 幇助犯は,正犯者の犯罪実行を物理的or心理的に容易にすると該当する
幇助犯の成立要件の1つに幇助の因果関係があります。
細かい解釈,見解はいくつかあります。
判例で採用されていると思われる,実務的な基準は次のとおりです。
<幇助の因果関係>
幇助行為が正犯者の実行行為を物理的または心理的に容易にすれば足りる
※最高裁平成25年4月15日
※判例タイムズ1394号p139
この因果関係のことを,精神的幇助を含む促進的因果関係と言います。
5 幇助犯についての判例等|Winny・ナンバープレートカバー販売・盗撮用靴販売事件
実際に幇助犯としての検挙例,判例を説明します。
(1)ユーザーのファイル交換=著作権侵害→ソフトウェア作成者の幇助犯否定;Winny事件
ソフトウェア交換ソフトの作成者が,ユーザーのファイル交換=著作権侵害を容易にした,という主張がなされた事件がありました。
結論としては,幇助犯の成立は否定されました。
<ソフトウェア作成×著作権侵害・幇助|基準|Winny事件判例>
あ 基本的事項
客観面・ソフトウェア提供者の主観面の2つによって判断する
次の2つの要件の両方に該当する場合に幇助犯が成立する
い 判断要素
ア 客観面
『一般的可能性を超える具体的な』侵害利用状況がある
イ 主観面
『ア』のことを提供者が認識,認容している
※最高裁平成23年12月19日;winny事件判例
サーバー運営者などの『直接実行者ではない者』の法的責任については別に説明しています。
Winny事件判例も含めて掲載しています。
別項目;クラウドサービス等利用者による著作権侵害→運用業者の刑事責任
(2)幇助犯での検挙事例|道交法違反・条例違反の幇助
<幇助犯で検挙された事例>
あ バイクのナンバープレートを跳ね上げる金具(ステー)の販売
跳ね上げることにより,周囲からナンバープレートを読み取れなくなります。
い 赤外線を遮断する自動車のナンバープレートカバーの販売
オービスでのナンバー読み取りができなくなります。
う 盗撮ができる靴の販売
運動靴にキャメラを一体化させた商品で,盗撮が容易にできるガジェットです。
自動車・バイクのナンバープレートを隠すパーツの販売業者が検挙された事例があります。
前提として,ナンバープレートを『見えにくい』状態にする行為は道交法違反となっています。
道交法と,各都道府県の公安委員会規則によって規制されています(道交法71条6号,東京都道路交通規則8条(15))。
ナンバープレートを隠すことのできるパーツを販売していた業者が,道交法違反の幇助として検挙されています。
また,『盗撮』は条例違反となります。
『盗撮ができる靴』の販売業者が条例違反の幇助犯として検挙された事例もあります。
6 犯罪をそそのかした者も犯罪となることがある;教唆犯
(1)教唆犯とは
正犯者をそそのかしたこと自体が犯罪となります。
教唆犯(きょうさはん)と言います(刑法61条1項)
例えば犯行方法,手口の詳細を教えるというものが典型です。
直接口頭で伝える方法も,出版,インターネット上の伝達など広く含みます。
(2)教唆犯に適用される刑罰
教唆犯に該当した場合,正犯と同じ刑が適用されます(刑法61条1項)。
もちろん,個別的な関与の程度で量刑が異なります。
とにかく,法定刑としては正犯と同じ,という規定になっているのです。
7 教唆犯が成立するためには,正犯の実行が必要だが責任は不要
教唆犯が成立するには,そそのかされた正犯者が実行することが要件となります。
この点,正犯者が刑事責任を欠くということがあります。
典型例は刑事未成年者です(刑法41条)。
14歳未満も者に犯罪行為をそそのかした,という例です。
法的には,正犯者が『責任』阻却という状態です。
この場合でも,教唆した者への非難可能性は変わりません。
このような考えにより,教唆犯は成立すると考えられています。
※判例タイムズ1077号p176
8 教唆犯が成立するためには具体的な犯行の実行の決意につながることが必要
教唆犯は,そそのかすことだけにより犯罪が成立します。
条文上は『教唆』という文言です。
いずれにしても,対象が不明確→際限なく拡がるリスクがあります。
解釈上,ある程度の関与がある場合に教唆犯が成立することとされています。
<教唆の内容(手段,方法,程度の基準)>
あ そそのかす程度
一定の犯罪を実行する決意を正犯者に生じさせる
い 手段,方法
特に限定されない
例;指示,指揮,命令,嘱託,誘導,強く勧める
※最高裁昭和26年12月6日
9 幇助犯と教唆犯の判別は『正犯者が実行の決意済or未了』である
幇助犯も教唆犯も,言わばサブです。
法律上は従犯とされます。
メイン=正犯に対応する役割,立場なのです。
ここで,幇助と教唆は実際には区別が曖昧です。
<幇助と教唆を想定する事例設定>
Aが拳銃を調達して,Bに渡した
Bが殺人を行った
手伝った,容易にした=幇助犯とも言えます。
一方,そそのかした=教唆犯とも言えます。
この判別について,実務上は次のような解釈が用いられています。
<幇助と教唆”の判別基準>
正犯者が従犯の関与前に既に実行の決意をしていたか否か
<幇助と教唆の成立例>
従犯者の関与前における正犯者が実行の決意 | 従犯の種類 | 趣旨 |
既に決意していた | 幇助犯 | 正犯実行を容易にした |
まだ決意に至っていなかった | 教唆犯 | 正犯実行をそそのかした |
※判例タイムズ1228号p133