【児童ポルノ単純所持罪・公然陳列罪(基本・サーバー運営者の責任)】
1 『児童』の定義
2 『児童ポルノ』の定義
3 児童ポルノから除外される具体例
4 児童ポルノ公然陳列罪の基本的事項
5 公然陳列にはURL表示のみも含む(概要)
6 わいせつ物陳列罪と児童ポルノ公然陳列罪の比較
7 児童ポルノ・風俗を害する書籍・物品の輸入禁止
8 児童ポルノ『単純所持』罪|平成27年7月から適用
9 児童ポルノ単純所持罪から除外される具体例
10 児童ポルノ単純所持罪から除外されない具体例
11 児童ポルノに関するクラウド・サイト運営者の責任
1 『児童』の定義
児童ポルノ法は『児童ポルノ』に関する一定の行為を規制しています。本記事では,児童ポルノ法の基本的な規定と解釈について説明します。
最初に対象となる被写体は『児童』に限定されています。この定義は,一般的な用法とは異なります。18歳未満の者という定義なのです。
<『児童』の定義>
18歳未満の者
※児童ポルノ法2条1項
2 『児童ポルノ』の定義
所持するだけで犯罪となる対象物は『児童ポルノ』です。『児童ポルノ』の定義をまとめます。
<『児童ポルノ』の定義>
次の『児童の姿態を描写』した写真・データの記憶媒体・その他の物
あ 性交系
性交or性交類似行為
い 性器接触系
次のすべてに該当する
ア 児童のor児童が性器等を触る行為
『性器等』=性器・肛門・乳首
イ 性欲を興奮させor刺激するもの
う ヌード系
次のすべてに該当する
ア 衣服の全部or一部を着けない児童の姿態イ 殊更に児童の性的な部位が露出されor強調されている
『露出していない』ものも一定範囲で含まれる
ウ 性欲を興奮させ又は刺激するもの
※児童ポルノ法2条3項
特に『ヌード系』については,形式的に,広範囲のものが該当しそうです。
この点,条文上,『不当な拡大』を回避する言葉が入っています。
『殊更に』(性的な部位の露出・強調)というあたりです。
具体例として,次のようなものは除外となります。
3 児童ポルノから除外される具体例
『児童ポルノ』の解釈は拡大することが心配されています。拡大されない,つまり,児童ポルノから除外されるケースの具体例をまとめます。
<児童ポルノから除外される具体例>
幼児のおむつ交換作業の手本を実演する動画
成長記録として撮影した幼児の水浴びシーンの画像・動画
家族旅行での海・プールでの子供の水着写真
この点『アニメ・マンガ』については判断に曖昧なところがあります。これについては別に説明しています。
詳しくはこちら|児童ポルノ法の社会的問題(非実在人物の扱い・アートへの萎縮効果)
4 児童ポルノ公然陳列罪の基本的事項
児童ポルノを規制する代表的な規定は児童ポルノ公然陳列罪です。この罪(構成要件)の基本的事項をまとめます。
<児童ポルノ『公然陳列』罪の基本的事項>
あ 目的
限定なし
い 対象行為
次のいずれか
ア 児童ポルノを不特定or多数の者に提供したイ 児童ポルノを公然と陳列したウ 児童ポルノのデータ(画像・動画等)をオンライン上で不特定or多数の者に提供した
う 法定刑
懲役5年以下or罰金500万円以下
併科あり
※児童ポルノ法2条6項
5 公然陳列にはURL表示のみも含む(概要)
児童ポルノの『公然陳列』の原則的な内容は『画像や動画を公表した』というものです。
この点『画像・動画のあるURLを公表した』というものも含まれると最高裁で判断されています。
詳しくはこちら|外部サイト情報表示×適法性|キュレーションアプリ・バイラルメディア・まとめサイト
6 わいせつ物陳列罪と児童ポルノ公然陳列罪の比較
児童ポルノ公然陳列罪は『わいせつ物陳列罪』の『児童ポルノ』版と言えます。
わいせつ物陳列罪の『わいせつ』の判断基準については別に説明しています。
詳しくはこちら|わいせつ物陳列罪の基本と『わいせつ』の定義・判断基準
児童ポルノ法公然陳列罪とわいせつ物陳列罪の2つの罪(構成要件)には,被写体(陳列人物)と露出程度に違いがあります。この比較をまとめます。
<わいせつ物陳列罪と児童ポルノ公然陳列罪の比較>
罪名 | わいせつ物陳列罪 | 児童ポルノ公然陳列罪 |
条文 | 刑法175条 | 児童ポルノ法2条6項 |
被写体 | 年齢無制限 | 18歳未満 |
露出程度 | 一般的な『わいせつ』レベル | 『通常着衣に覆われる部分』 |
基準の比較 | 高い(該当しにくい) | 低い(該当しやすい) |
例『胸部の露出』 | 該当する | 該当しない |
7 児童ポルノ・風俗を害する書籍・物品の輸入禁止
児童ポルノや『風俗を害する書籍』などの物品は輸入禁止とされています。
<児童ポルノ・風俗有害物品=輸入禁制品>
あ 輸入禁制品
ア 児童ポルノイ 風俗を害すべき書籍・図画・彫刻物その他の物品
い 法定刑
懲役10年以下or罰金1000万円以下
※関税法69条の11第1項7号,8号,109条2項
う 国会の解釈論
この輸入禁制品は『物品』が対象である
『サーバーから画像・動画などのデータをダウンロードすること』は含まれない
※閣議決定を経た『答弁書』;平成27年2月13日
外部サイト|山田太郎議員|『アマゾンジャパンに対する家宅捜索に関する質問主意書』に対する答弁書
8 児童ポルノ『単純所持』罪|平成27年7月から適用
児童ポルノ単純所持罪は,児童ポルノを『所持』『保管』すると成立します。
これについて説明します。
<児童ポルノ『単純所持』罪の成立>
あ 目的
自己の性的好奇心を満たす目的
い 対象行為
次のいずれか
ア 児童ポルノを所持したことイ 児童ポルノのデータを保管したこと
う 限定
次の事情が『明らかに認められる』場合に限定される
ア 自己の意思に基づいて所持するに至ったことイ 自己の意思に基いて保管するに至ったこと
う 法定刑
懲役1年以下or罰金100万円以下
え 施行時期
改正法施行=平成26年7月15日
罰則の適用開始=平成27年7月15日
※児童ポルノ法7条1項
※平成26年改正附則1条2項
9 児童ポルノ単純所持罪から除外される具体例
児童ポルノ単純所持罪は解釈で拡大して適用されることが心配されます。規定に『不当な拡大』の回避策が入っています。『自己の意思に基づいて』という限定です。
これによって,不当な適用が避けられるようになっています。適用除外となる具体例をまとめます。
<児童ポルノ単純所持罪から除外される具体例>
あ 送り付け
電子メールなどで,児童ポルノ(画像ファイル)を『送り付けられた』
い ネットサーフィン→意図しないアクセス
ネットサーフィン中に意図せずに,サイトにアクセスした
そのサイトに児童ポルノが掲載されていた
う ウィルス感染
パソコンがウィルスに感染した
ウィルスの作用により,勝手に児童ポルノがダウンロードされた
え サイトの運営者・管理者
投稿サイト・アプリに,ユーザーが児童ポルノを投稿した
サイト・アプリの運営者・管理者が形式的に『保持』するに至った
※『自由と正義15年5月』日本弁護士連合会p79
10 児童ポルノ単純所持罪から除外されない具体例
前記の『対象外』になるはずのプロセスでもその後の事情によっては違う結論になります。具体例をまとめます。
<児童ポルノ単純所持罪から除外されない具体例>
意図せずに児童ポルノを閲覧・入手した(前記)
→その後,改めて自身のパソコンの個人用フォルダに保管し直した
※第186回国会衆議院法務委員会会議録21号p21
しかし,『除外されるかどうか』が不明確・曖昧,という次のようなカテゴリが残っています。これは社会的に大きな問題です。これについては別に説明しています。
詳しくはこちら|児童ポルノ法の社会的問題(非実在人物の扱い・アートへの萎縮効果)
11 児童ポルノに関するクラウド・サイト運営者の責任
現在,クラウドとしてサーバーを提供するサービスが普及しています。
児童ポルノ法上,サイトなどの運営者の努力義務が規定されています。
<児童ポルノに関するクラウド・サイト運営者の責任>
あ クラウド・サイト・アプリ運営者の努力義務
児童ポルノの情報流通に関する捜査機関への協力
児童ポルノの情報送信を防止する・これに付随する措置
い 義務の内容
努力義務である
=違反者への罰則はない
※児童ポルノ法16条の3
児童ポルノ法では,サイト運営者の『法的責任』は規定されていません。
また『監視義務』まではないと解釈されています。
しかし,運営事業者も『責任が及ぶ』リスクがあります。
例えば,違法な画像が投稿されているのを知っていて(知らされて)削除しない,というような場合です。
この点,具体的事案での判断(事実認定)では『知っていたかどうか』の判断が曖昧になることが多いです。
また,法改正で『負担を課される』可能性もあるので,要注意です。
詳しくはこちら|投稿・販売のサイト・アプリ運営者が負う法的責任|まとめ