【公正証書原本不実記載等罪の成立を認めた判例の集約】
1 公正証書原本不実記載等罪の成立を認めた判例の集約
2 所有者以外による不正名義の取得(侵害タイプ)
3 当事者の協力による架空の名義の作出(ウソタイプ)
4 登記・登録事項の一部が虚偽(一部ウソタイプ)
1 公正証書原本不実記載等罪の成立を認めた判例の集約
登記や戸籍などの一定の公的な記録について,不正な申請(届出)をすると,公正証書原本不実記載等罪が成立することがあります。
詳しくはこちら|公正証書原本不実記載等罪の基本(条文と公正証書の意味)
本記事では,公正証書原本不実記載等罪の成立が認められた実際の事例(判例)を紹介します。
2 所有者以外による不正名義の取得(侵害タイプ)
公正証書原本不実記載等罪が成立する典型の1つは,所有者ではない者が所有者となるような登記申請をするというものです。真実の所有者に実害が生じることにつながるような状態です。
<所有者以外による不正名義の取得(侵害タイプ)>
あ 所有者以外による抵当権設定仮登記
他人所有の建物を預かり保管していた者が,当該建物の電磁的記録である登記記録に不実の抵当権設定仮登記をした
→本罪に該当する
※最高裁平成21年3月26日
い 所有者以外による付属建物登記
建物の所有権についての登記名義人が,同一宅地上にある他人所有の便所,物置を,自己所有の付属建物として登記申請し,登記簿にその旨を記載させた
※大判昭和10年2月20日
3 当事者の協力による架空の名義の作出(ウソタイプ)
登記や登録の申請の当事者である複数の者が協力をして,虚偽の名義の登記の申請をすることも,公正証書原本不実記載等罪の典型の1つです。当事者は困らないけれど,公的な記録が信頼できなくなるという社会的な利益が損なわれている状況です。
<当事者の協力による架空の名義の作出(ウソタイプ)>
あ 架空の抵当権設定登記
登記申請者の両方が合意の上,虚偽の抵当権設定登記を申請して登記簿にその旨を記載させた
※大判明治42年2月10日
い 執行妨害目的(架空)の賃借権設定仮登記
暴力団員と競売建物の所有者が,執行妨害目的で内容虚偽の賃借権設定の仮登記を申請して,登記簿にその旨を記載させた
※鳥取地裁米子支部平成4年7月3日
※東京地裁平成5年12月20日(同趣旨)
う 別人名義の自動車登録
自動車の所有などの実態を隠蔽するために
本来の実質的な所有者とは別人の名義で新規登録及び移転登録を申請して自動車登録ファイルにその旨を記載させた(新規登録・移転登録)
※東京地裁平成4年3月23日
え 別人名義での船舶簿
小型船舶を取得したが,本人名義では港の停泊許可が下りないなどの理由から,親族が所有権を取得したことにしようと,その旨の小型船舶の『船籍簿』に記載させた
(→船籍簿には公証的機能があった→権利義務に関するある事実を証明する効力を有する文書に該当する)
※最高裁平成16年7月13日
お 架空の離婚届
ア 公正証書原本不実記載等罪の成立
当事者の両方が,真実離婚の意思がなく,ただ,外形上離婚したように装って離婚届を提出し,戸籍簿にその旨を記載させた
※大判大正8年6月6日
イ 現在の解釈の傾向
現在では,民事上有効(真正)な届出であると判断される可能性もある
詳しくはこちら|離婚意思の内容(形式的意思)と離婚意思が必要な時点(離婚届の作成・提出時)
4 登記・登録事項の一部が虚偽(一部ウソタイプ)
申請者に間違いはないけれど,登記や登録される内容の一部に虚偽のものが含まれるケースも,公正証書原本不実記載等罪の典型です。ただし,虚偽の事項の内容が軽微である場合には,不実(の記載)とは認められないこともあります。
<登記・登録事項の一部が虚偽(一部ウソタイプ)>
あ 所有権移転の登記原因のウソ
所有権移転の原因が贈与であるのに,売買によるとの虚偽の申立をし,その旨,不動産登記簿に記載させた
※大判大正10年12月9日
い 所有権移転の登記原因日付のウソ
ア 最高裁判例(成立)
準禁治産者である債務者が,自己の債務を担保する手段として,その所有の山林につき所有権移転登記の仮登記をした
債権者の同意を得て,日付を遡らせ,準禁治産宣告以前の売買であるように仮装して申請し,登記簿にその旨を記載させた
※大判昭和9年9月14日
イ 下級審判例(不成立・参考)
抵当権設定登記における登記原因日付の齟齬について
=不実の記載ではない
→公正証書原本不実記載等罪は成立しない
※大隅簡裁昭和41年9月26日
詳しくはこちら|公正証書原本不実記載等罪の虚偽の申立と不実の記載・記録
う 自動車登録上の使用の本拠の位置のウソ
ア 最高裁判例
自動車登録ファイルの『使用の本拠の位置』・『使用の住所』について虚偽の登録申請をしてその旨を記載させた
※最高裁昭和58年11月24日
イ 下級審裁判例
自動車登録原簿の『使用の本拠の位置』について虚偽の登録申請をしてその旨を記載させた
※大阪地裁昭和45年2月21日
本記事では,公正証書原本不実記載等罪の成立が認められた実例をまとめて紹介しました。
実際には,細かい事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に公正証書原本不実記載等罪に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。