【刑法(条例)の適用範囲(準拠法)は属地主義が原則である】
1 刑法の適用範囲には『属地主義』『属人主義』『保護主義』『世界主義』がある
2 『属地主義』の『日本国内』=主権の範囲|領土
3 『属地主義』の『日本国内』=主権の範囲|領海
4 『属地主義』の『日本国内』=主権の範囲|領空
5 条例の適用範囲も原則的に属地主義である
6 一般的な『国内犯』の解釈論
1 刑法の適用範囲には『属地主義』『属人主義』『保護主義』『世界主義』がある
日本の刑法が『どこまで適用されるのか』が問題になることがあります。
外国(日本国外)や外国人が関わる場合です。
刑法の規定ではカテゴリが6種類(細かい分類)あります。
<刑法の適用範囲|まとめ>
分類 | 条文(刑法) | 内容 | 対象 |
属地主義 | 1条1項 | 犯罪が行われた場所が日本国内 | すべての犯罪 |
旗国主義 | 1条2項 | 犯罪が行われた場所が日本国籍の船舶・航空機内 | すべての犯罪 |
(積極的)属人主義 | 3条 | 日本人が犯人である | 殺人罪・傷害罪・放火罪・強姦罪・強盗罪など |
消極的属人主義 | 3条の2 | 日本人が被害者である | 殺人罪・傷害罪・強姦罪・強制わいせつ罪・強盗罪など |
保護主義 | 2条 | 場所・当事者を問わない(日本の国や社会が害される) | 内乱罪・外患罪・通貨偽造罪など |
世界主義 | 4条の2 | 場所・当事者を問わない(世界共通の利益が害される) | 条約で規定された犯罪(ハイジャック犯など;※1) |
※1 世界主義を定める条約の例
航空機の不法な奪取の防止に関する条約7条
2 『属地主義』の『日本国内』=主権の範囲|領土
刑法の適用範囲の大原則が『属地主義』です。
『日本国内』で行われた犯罪,というものです。
ここで『日本国内』の解釈が必要となります。
結論としては『領土』『領海』『領空』ということになります。
まずは『領土』から説明します。
<『領土』>
国家が支配・占有している土地
これは,次の国際法が元になっています。
<国際的な『無主地先占』ルール>
占有されていない土地は,先に占有した国家の領土となる
※国際法;明文ではない
これは明文化されていないですが,国際的な合意と言えるルール(国際法)です。
過去の新大陸発見(紹介),新航路発見→植民地獲得,国家間の競争・闘争,という人類の歴史上の苦悩から自然発生的に確立されました。
詳しくはこちら|人類の未踏エリアへの進出と領有・帰属のルールの歴史(無主地先占)
3 『属地主義』の『日本国内』=主権の範囲|領海
<海のエリアの区分>
区分 | 『基線』からの距離 | 主権=『属地主義』の対象 | 条文(国連海洋法条約) |
領海 | 〜12海里 | ◯ | 2条1項,3条 |
接続水域 | 〜24海里 | ☓ | 33条 |
排他的経済水域(EEZ) | 〜200海里 | ☓ | 57条 |
公海 | 200海里〜 | ☓ | 86条 |
<用語の説明>
あ 『基線』とは
干潮時の海岸(線)(原則)
※国連海洋法条約5条
い 『海里』とは
国際海里を用いる
1海里=1852メートル
→『領海』12海里=22.224キロメートル
<ありがちな言葉の誤用と正解>
『公海まで出れば日本の刑法の適用がなくなる』 | ☓ |
『領海から外に出れば日本の刑法の適用がなくなる』 | △ |
『外国船籍の船で領海から外に出れば日本の刑法の適用がなくなる』 | ◯ |
この『海での犯罪の成否』についてはカジノクルーズを実例として別記事で説明しています。
詳しくはこちら|船上カジノ×賭博罪|法解釈|カジノクルーズ・リアルサービス
4 『属地主義』の『日本国内』=主権の範囲|領空
<領空の範囲(概要)>
領土・領海の地表・海面から海抜高度100キロメートルまで
※国際民間航空条約(シカゴ条約)1条
※宇宙条約,カーマン・ライン
詳しくはこちら|領空(各国の主権)と宇宙空間の国際法上の扱いと境界の基準
5 条例の適用範囲も原則的に属地主義である
条例においても刑罰法規が規定されていることがあります。
この場合,都道府県が独自に制定しているので国内でも場所によってルールが違うということになります。
どの条例が適用されるのか分かりにくいです。
これについては,刑法の大原則である属地主義が適用されると解釈されています。
原則的に,行為の場所の都道府県や地区町村の制定した条例が適用される,という意味です。
<条例の属地的効力(判例)>
あ 条例の場所的適用範囲
地方公共団体の制定する条例の効力は『い』を除き,原則として属地的に生ずる
い 属地的効力の例外
ア 法令or条例に別段の定めがあるイ 条例の性質上住民のみを対象とすること明らかである ※最高裁昭和29年11月24日
6 一般的な『国内犯』の解釈論
一般的な『国内犯』の解釈論を説明します。
正面からこの解釈を示した判例は少ないです。
古い判例と,後は学説がいろいろとある,という状態です。
<一般的な『国内犯』(犯罪行為地)の解釈論>
あ 偏在説=判例・通説
『行為』と『結果』の『いずれか』が国内で生じた場合を『国内犯』とする
※大判明治44年6月16日
い ネオ偏在説(発展形)
構成要件該当事実の一部が国内で生じた場合を含む
※『新基本法コンメンタール刑法』日本評論社p13
『偏在説』と呼ばれる見解と,これを発展させた見解に整理できます。
この見解については,『賭博罪』や,わいせつ物陳列罪などの『表現系犯罪』について解釈が揺れています。
詳しくはこちら|インターネッツ経由の『賭博系・表現系』犯罪|オンラインカジノ・わいせつ・児童ポルノ