【裁判所による財産開示手続の全体像(手続全体の要点)】

1 裁判所による財産開示手続の全体像(手続全体の要点)

債権者が金銭を回収する基本的な法的制度は、債務名義を取得して、債務者の財産の差押をする、というものです。差押のためには、債権者が、債務者の財産をみつけだす必要があります。この財産をみつけだすための制度として、裁判所が主催する財産開示手続があります。本記事では、財産開示手続全体の要点を説明します。

2 財産開示手続の申立要件→債務名義あり+不奏功要件

(1)申立要件・申立権者

財産開示手続を申し立てるには、執行力ある債務名義を持ち、かつ回収不能の状態(不奏功)であることが必要です。債務名義は、令和2年の法改正により種類を問わず申立可能となりました。ただし、債務者が過去3年以内に財産開示をしている場合は、原則として新たな申立はできません。

(2)財産開示手続の申立制限

財産開示手続の申立には制限があり、債務者が3年以内に財産開示をした場合、原則として新たな申立はできません。ただし、例外もあります。
詳しくはこちら|財産開示手続の要件(申立権者・不奏功要件・申立制限)

3 財産開示手続の管轄と手続の流れ

(1)財産開示手続の管轄

財産開示手続は、債務者の住所地の地方裁判所に申し立てる必要があります。仮に遠方であっても大丈夫です。この手続で申立人が裁判所に行くことは必須ではないのです。

(2)財産開示実施決定の手続

財産開示実施決定は、執行裁判所が申立要件を満たしていると判断した場合に行います。決定は当事者に告知され、債務者には正本が送達されます。

(3)財産目録の提出

債務者は、財産目録を、裁判所が定めた期限(通常、財産開示期日の約10日前)までに提出する必要があります。提出期限と通知は財産開示期日呼出状とともに送達されます。

(4)財産開示期日における宣誓と陳述

財産開示期日では、債務者は宣誓をした上で財産について陳述します。宣誓拒否は罰金の対象となります。通常は、すでに財産目録を提出してあるので、口頭で個々の財産の説明をすることはありません。

(5)財産開示期日における質問権

財産開示期日では、執行裁判所と申立人が債務者に質問することができます。もちろん、質問は債務者の財産状況の把握に必要な範囲に限られます。

(6)財産開示手続における債権者の出席→不要

財産開示手続において、申立人(債権者)は出席しなくても手続を実施できます。実務上も、申立人の出席なしで行われることが多いです。

(7)財産開示手続の記録の閲覧・謄写→別の債権者も可能

財産開示手続が行われた後には、申立人はもちろん、債務名義を有する債権者も記録を閲覧・謄写できます。要するに他の債権者が行った手続を活用できるのです。
詳しくはこちら|財産開示手続の管轄と手続の流れ

4 開示する「財産」と「情報」の範囲

(1)開示する「財産」の範囲

財産開示手続で開示すべき財産は、債務者に属するすべての積極財産(プラス財産)です。ただし、生活必需品は除外されます。

(2)開示する財産の「情報」の範囲

財産開示手続では、強制執行に必要な事項を開示します。要するに債権者が差押をする時に申立書に記載する情報、ということになります。要するに、結果的に債権者が差押をすることができるようになる、という仕組みになっているのです。
詳しくはこちら|財産開示手続の開示情報の内容と範囲(債権者が得られる情報)

5 財産開示手続の制裁→罰金にアップ

(1)債務者の違反行為への制裁→懲役と罰金

財産開示手続では、債務者が自主的に情報を開示する仕組みになっています。そこで、債務者が協力しない場合には制裁として懲役と罰金刑が用意されています。具体的には、正当な理由なく財産開示期日に出頭しない場合、宣誓を拒んだ場合、虚偽の陳述をした場合、正当な理由なく陳述を拒んだ場合です。

(2)財産開示手続の実効性

財産開示手続の実効性は、債権者の工夫により高められる可能性があります。適切な活用により、債権回収を実現した実例も存在します。また、罰金制度の導入により、債務者の協力を得やすくなることが期待されています。ただし、その効果は個々の事案や債権者の対応によって異なります。財産開示手続は、債権者が債務者の財産状況を把握するための重要な手段ですが、その有効性を最大限に引き出すには、債権者側の戦略的な活用が求められます。
詳しくはこちら|財産開示手続の制裁(罰金・懲役)と実効性

6 令和元年改正

令和元年(令和2年施行)の民事執行法改正により、財産開示手続の申立対象が拡大されました。金銭債権に関する全ての種類の債務名義で申立が可能となり、仮執行宣言付判決や執行証書なども対象に含まれました。
また、過料の制裁に代わり罰金制度が導入されました。
これらの変更は、債権者が財産開示手続によって債権回収を実現しやすくするために行われたものです。
詳しくはこちら|裁判所による債務者の財産調査に関する令和元年民事執行法改正

7 参考情報

参考情報

※園部厚著『実務解説 民事執行・保全 第2版』民事法研究会2022年p271〜274

本記事では、財産開示手続の全体像について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に財産開示手続など、債権回収に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
【営業に関する差押対象物|差押対象物の要件=独立性・換価可能・譲渡性】
【債権者破産の申立は『支払不能』の疎明が必要,配当率は低い傾向】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00