【債権差押における他の債権者との競合;配当要求,シャットアウト時点】
1 配当要求権者は債務名義所持者と仮差押債権者である
2 差押をした債権者としては,他の債権者の配当要求→優先回収ができない,ということになる
3 債権差押では裁判所は配当要求終期を定めない
4 競合がないと配当は行なわれず,『直接取立』となる
5 『直接取立→回収』or『取立訴訟の訴状送達』の時点で他の債権者をシャットアウトできる
6 仮差押では,他の債権者より優先する効果はない
1 配当要求権者は債務名義所持者と仮差押債権者である
債務名義を有している債権者は,他の債権者が申し立てた差押手続に参加できます。
配当要求と言います。
債務名義の主なものは,確定判決,執行証書(公正証書),仮執行宣言付支払督促命令などです。
別項目;債務名義には多くの種類がある
単に借用書,契約書などの債務名義以外の証拠などを持っているだけでは参加できません。
また,債務名義がない場合でも,仮差押を行っている場合も配当要求ができます(民事執行法51条)。
2 差押をした債権者としては,他の債権者の配当要求→優先回収ができない,ということになる
差押をした場合,最終的に申し立てた債権者は債権を回収できます。
ただし,独占とは限りません。
他の債権者もその差押手続に参加することがあり得ます。
配当要求のことです。
文字どおり,最終的な金銭の配当を受けることを要求する手続のことです。
配当を他の債権者と分け合うことになることもあるのです。
3 債権差押では裁判所は配当要求終期を定めない
不動産差押の手続では,裁判所が配当要求終期を定めます。
これは,配当要求の締切日,のことです。
この点,『債権執行』の場合も,『配当』という制度があります。
しかし,裁判所が,『配当要求終期』を定める,ということはありません(民事執行法166条には49条の準用なし)。
『配当要求の締切』は,一定の手続が行われた時と規定されているのです(後記『5』)。
4 競合がないと配当は行なわれず,『直接取立』となる
<債権差押において『直接取立』となる条件>
債権者の競合が生じない場合
<競合とは>
ア 差押債権者以外に配当要求債権者が存在するイ 被差押債権+配当要求債権の合計額が,差押債権よりも大きい
(1)競合が生じた場合は配当実施
要するに競合とは,『第三債務者の弁済した金銭をある割合で複数の債権者に分け合う』状態のことです。
この場合,第三債務者は債務を弁済する代わりに供託します。
そして,供託された金額について,複数の債権者で按分配当する,などの処理を行います。
(2)競合が生じない場合は『直接取立』
逆に,単純に単独で債権者が差押をした場合は,競合を生じてない状態です。
そのままであれば,配当は行われません。
つまり,債権全額について,回収できることになります(勿論,差押債権が債権額未満の場合は差押債権額が最大限となります)。
競合が生じない場合は,差押をした債権者が,直接第三債務者から回収(取立)することができます。
なお,直接取立ができる時期は,債務者への差押命令送達から1週間後となっています。
5 『直接取立→回収』or『取立訴訟の訴状送達』の時点で他の債権者をシャットアウトできる
債権差押をした場合,すぐには安心できません。
他の債権者が参加した場合,配当を按分することになってしまうからです。
ここで,『いつまで他の債権者は参加できるか』が重要なところになります。
これをまとめます。
<他の債権者の参加をシャットアウトできる時点>
あ 直接取立による回収(条項なし。当然解釈)
い 第三債務者の供託(165条1号)
う 取立訴訟の訴状が第三債務者に送達された時(165条2号)
え 転付命令(160条)
なお,この『シャットアウト』のことを『配当要求遮断効』と呼びます。
<他の債権者の参加可能性を最小限に抑制する方法>
・『債務者への送達後1週間』の時点で,即座に第三債務者への請求を行う(直接取立)
・第三債務者がすぐに応じない場合は,即座に提訴する
第三債務者がなかなか払ってくれない時点で,他の債権者が,同一債権について差押を申し立てた場合は,配当実施となります。
つまり,単独で独占的に回収することができなくなってしまうのです。
6 仮差押では,他の債権者より優先する効果はない
仮差押は文字どおり仮なのです。
債務者がその財産を動かさないようにしておく,つまり,『ロックしておく』という機能なのです。
仮差押を申し立てた債権者を優遇する目的ではないのです。
逆に言えば,他の債権者が仮差押をした財産について差押を申し立てることは可能です。
配当の中でも,仮差押債権者が有利に扱われるということはありません。
条文
[民事執行法]
(開始決定及び配当要求の終期の公告等)
第四十九条 強制競売の開始決定に係る差押えの効力が生じた場合(その開始決定前に強制競売又は競売の開始決定がある場合を除く。)においては、裁判所書記官は、物件明細書の作成までの手続に要する期間を考慮して、配当要求の終期を定めなければならない。
2 裁判所書記官は、配当要求の終期を定めたときは、開始決定がされた旨及び配当要求の終期を公告し、かつ、次に掲げるものに対し、債権(利息その他の附帯の債権を含む。)の存否並びにその原因及び額を配当要求の終期までに執行裁判所に届け出るべき旨を催告しなければならない。
(略)
(配当要求)
第五十一条 第二十五条の規定により強制執行を実施することができる債務名義の正本(以下「執行力のある債務名義の正本」という。)を有する債権者、強制競売の開始決定に係る差押えの登記後に登記された仮差押債権者及び第百八十一条第一項各号に掲げる文書により一般の先取特権を有することを証明した債権者は、配当要求をすることができる。
(配当要求)
第百五十四条 執行力のある債務名義の正本を有する債権者及び文書により先取特権を有することを証明した債権者は、配当要求をすることができる。
(差押債権者の金銭債権の取立て)
第百五十五条 金銭債権を差し押さえた債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から一週間を経過したときは、その債権を取り立てることができる。ただし、差押債権者の債権及び執行費用の額を超えて支払を受けることができない。
2 差押債権者が第三債務者から支払を受けたときは、その債権及び執行費用は、支払を受けた額の限度で、弁済されたものとみなす。
3 差押債権者は、前項の支払を受けたときは、直ちに、その旨を執行裁判所に届け出なければならない。
(転付命令の効力)
第百六十条 差押命令及び転付命令が確定した場合においては、差押債権者の債権及び執行費用は、転付命令に係る金銭債権が存する限り、その券面額で、転付命令が第三債務者に送達された時に弁済されたものとみなす。
(配当等を受けるべき債権者の範囲)
第百六十五条 配当等を受けるべき債権者は、次に掲げる時までに差押え、仮差押えの執行又は配当要求をした債権者とする。
一 第三債務者が第百五十六条第一項又は第二項の規定による供託をした時
二 取立訴訟の訴状が第三債務者に送達された時
三 売却命令により執行官が売得金の交付を受けた時
四 動産引渡請求権の差押えの場合にあつては、執行官がその動産の引渡しを受けた時