【『信書』の基準|参入規制=許可制|ユニバーサルサービス・黒猫問題】

1 『信書』配達の独占|ルール内容
2 『信書』の内容|法律は曖昧→総務省ガイドライン
3 『信書送達業』の『許可制』|一般/特定信書便事業|許可基準
4 信書送達業の独占|規制の理由・趣旨
5 信書送達業の独占|違憲審査基準
6 信書送達業の独占×路頭に迷う黒猫問題|『境界不明確問題』→メール便廃止
7 『意思表示』を『信書』から新テクノロジーでリプレイスする時が来た

いわゆる『手紙』が民間業者で扱うと違法となります。
そのため,民間の宅配業者がサービスを廃止し,一般ユーザーが迷惑を被る事態が発生しています。
『信書』配達についての法規制と,テクノロジーの発展との関係についてを説明します。

1 『信書』配達の独占|ルール内容

まずは『信書』送達業務の法規制を説明します。
一般用語では『配達』ですが,法律上は『送達』という用語が使われています。
信書送達業務は,大原則としては『郵便局が独占』となっています。
なお『信書』の内容については後述します。

<郵便局による『信書送達』業務の独占規定>

あ 独占の規定

日本郵便株式会社以外の者は,『信書の送達』を事業として行ってはならない
『信書』と他の物品が混在している場合も含む
※郵便法4条2項
※平成27年2月9日答弁書;政府見解(末尾記載)

い 『信書』の定義

特定の受取人に対し,差出人の意思を表示し,又は事実を通知する文書
※郵便法4条2項

う 4条違反の罰則

懲役3年以下or罰金300万円以下
※郵便法76条1項

次に,平成15年から,民営化の促進の一環として『郵便局の独占』の一部が緩和されました。
郵便局以外の民間業者でも『許可』を得れば『信書送達』業務を行えることになったのです。

<民間業者が『信書送達』を行うための『許可』制度>

一般信書便事業,特定信書便事業の『許可』を得れば『禁止』が解除される
総務大臣が『許可』を行う
※信書便法3条1,2号,6条,29条

正式な法律名は『民間事業者による信書の送達に関する法律』ですが『信書便法』と呼ばれています。

2 『信書』の内容|法律は曖昧→総務省ガイドライン

『信書』を,敢えて一言で言えば『特定の者へのメッセージ』と言えます。
条文上に,『信書』の定義は一応ありますが,非常に大雑把なものです。
これに関する公的な基準としては,総務省が『ガイドライン』として作成し,公表しているものがあります。

<『信書』の条文上の定義(既出)>

特定の受取人に対し,差出人の意思を表示し,又は事実を通知する文書
※郵便法4条2項,信書便法2条1項

<『信書』の解|総務省のガイドライン|基本的な考え方>

※作成日(更新日)=平成26年4月1日

あ 『特定の受取人』

差出人がその意思又は事実の通知を受ける者として特に定めた者
→多数の人に『一斉に』出すタイプは除外される

い 『意思を表示し,又は事実を通知する』

差出人の考えや思いを表現し,又は現実に起こりもしくは存在する事柄等の事実を伝えること
→サービスを受けるプロセスの一環として利用される目的のものは除外される
除外される例=会員証・クレジットカード

う 『文書』

文字,記号,符号等人の知覚によって認識することができる情報が記載された紙その他の有体物のこと
→光・磁気による記録媒体は除外される
除外される例=DVD,Blu-ray Disc

総務省のガイドラインには具体例が多く挙げられています。

<『信書』に該当する文書の例|総務省ガイドライン>

あ 書状
い 請求書の類

納品書,領収書,見積書,願書,申込書,申請書,申告書
依頼書,契約書,照会書,回答書,承諾書
レセプト(診療報酬明細書等),推薦書,注文書
年金に関する通知書・申告書,確定申告書,給与支払報告書

う 会議招集通知の類

結婚式等の招待状,業務を報告する文書

え 許可書の類

免許証,認定書,表彰状
※カード形状の資格の認定書などを含む

お 証明書の類

印鑑証明書,納税証明書,戸籍謄本,住民票の写し 健康保険証
登記簿謄本,車検証,履歴書,給与支払明細書,産業廃棄物管理票
保険証券,振込証明書,輸出証明書,健康診断結果通知書・消防設備点検表
調査報告書・検査成績票・商品の品質証明書
その他の点検・調査・検査などの結果を通知する文書

か ダイレクトメール

文書自体に受取人が記載されている文書
商品の購入等利用関係,契約関係等特定の受取人に差し出す趣旨が明らかな文言が記載されている文書

<『信書』に該当しない文書の例|総務所ガイドライン>

あ 書籍の類

新聞,雑誌,会報,会誌,手帳
カレンダー,ポスター,講習会配布資料,作文
研究論文,卒業論文,裁判記録,図面,設計図書

い カタログ
う 小切手の類

手形,株券,為替証書

え プリペイドカードの類

商品券,図書券,プリントアウトした電子チケット

お 乗車券の類

航空券,定期券,入場券

か クレジットカードの類

キャッシュカード,ローンカード

き 会員カードの類

入会証,ポイントカード,マイレージカード

く ダイレクトメール

専ら街頭における配布や新聞折り込みを前提として作成されるチラシのようなもの
専ら店頭における配布を前提として作成されるパンフレットやリーフレットのようなもの

け その他

説明書の類(市販の食品・医薬品・家庭用又は事業用の機器・ソフトウェアなどの取扱説明書・解説書・仕様書,定款,約款,目論見書)
求人票,配送伝票,名刺,パスポート,振込用紙,出勤簿,ナンバープレート

外部サイト|総務所|信書のガイドライン

3 『信書送達業』の『許可制』|一般/特定信書便事業|許可基準

以前は『信書』配達は,郵便局だけの独占でした。
平成15年4月から,信書便法が施行され,一部が民間業者の参入が可能となりました。
参入のためには『許可』が必要です。
ここでは,参入の条件と実情について説明します。
まず,『許可』の対象となる事業ですが『一般信書便事業』『特定信書便事業』の2種類が設定されています。

(1)一般信書便事業

俗に言う『手紙』を配達するサービスのことです。
通常郵便局で行っている『封筒を送る』ようなものが典型です。

<一般信書便>

次のいずれをも満たす

あ 大きさ

タテ・ヨコ・高さがそれぞれ40cm,30cm,3cm以下

い 重量

250グラム以下

う 配達時間(スピード)

国内において,差し出された日から原則3日以内に配達する

<一般信書便事業の許可基準>

あ 事業計画が信書便物の秘密を保護するため適切なものであること
い 事業計画が全国の区域において一般信書便物を引き受け,かつ,配達する計画を含むものであって,事業計画に次に掲げる事項が定められていること

《事業計画の必須事項》
ア 総務省令基準に適合する信書便差出箱の設置その他の一般信書便物を随時,かつ,簡易に差し出すことを可能とするものとして総務省令で定める基準に適合する信書便物の引受けの方法イ 1週間につき6日以上一般信書便物の配達を行うことができるものとして総務省令で定める基準に適合する信書便物の配達の方法

う 事業の遂行上適切な計画を有するものであること
え 事業を適確に遂行するに足る能力を有するものであること

※信書便法9条

一般信書便事業は,許可の要件の1つとして『サービスを全国に提供する』ことがあります。
いわゆる『ユニバーサルサービス』『全国全面参入型』と言われるものです。
配達事業者の参入に関して,この条件が非常に高いハードルです。
現実に,現在『一般信書便事業者(許可を取得した業者)』はありません。

(2)特定信書便事業

こちらは大きさ・重量が『手紙・封筒』レベルに限定されないものです。
一般的な『宅配便』『郵パック』というイメージに相当するものです。

<特定信書便>

次のいずれかに該当する

あ 大きさ・重量

タテ・ヨコ・高さの合計が90cmを超えるor重量が4kgを超える

い 配達時間(スピード)

差し出された時から3時間以内に配達する

う 料金

料金の額が1000円を超える

<特定信書便事業の許可基準>

あ 事業計画が信書便物の秘密を保護するため適切なものであること
い 事業の遂行上適切な計画を有するものであること
う 事業を適確に遂行するに足る能力を有するものであること

※信書便法31条

特定信書便事業の許可は『ユニバーサルサービス』が条件となっていません。
特定の地域限定でも許可を受けられます。
そこで,実際に多くの事業者が許可を得て,サービスを提供しています。

(3)許可取得業者|実績

<信書便業|許可の実績>

一般信書便事業者 なし
特定信書便事業者 431件

※総務省の公表;平成26年10月31日現在

4 信書送達業の独占|規制の理由・趣旨

以上のように,現に法規制があるのですが,ここで法規制の趣旨を説明します。
本来は経済活動は『自由』が原則です(経済活動の自由;憲法22条1項,29条)。
一般的には『独占』については,マーケットメカニズムによる社会経済の最適化を妨害するものとして禁止されているのです。
関連コンテンツ|不当廉価販売×価格協定|自由競争を逸脱する極端な値下げだけが禁止される
法律で『独占』を設定するのは,このような『原則』の正反対の『例外』なのです。
合理的な理由・根拠があって法律で規定されているのです。
逆に理由が欠けている場合は『違憲』となり,法律が無効となります。

信書配達(送達)の規制の理由をまとめます。
要するに,『規制しないとどのように困るのか』ということを整理します。

<信書配達を規制をしない場合の弊害>

あ 過疎地のサービスが提供されない

『配達しやすいところ(大都市)限定』のサービスが登場する
→『クリームスキミング』=収益性の高い地域限定のサービス提供
大都市では競争が進み,低料金化が進む(メリット)
地方・過疎地では『サービス対象外』となる

い 郵便局だけは全国にサービス提供→コスト割れで非現実的

大都市は民間との競争で『低料金』にせざるを得ない
『公共サービスなので全国一律料金』にしたい
過疎地も『大都市と同じ低料金』にせざるを得ない
『コスト割れ(=赤字=採算が取れない)』となってしまう

う 過疎地のみ公営→経済的不合理が大きい

例;郵便局が『過疎地のみ』サービス提供
信書送達は『発信者・受信者』がいるので,1エリア内に収まらない
仮に1エリアだけ,とすると他の事業者との協働関係となる
規模の経済が働かないので経済的に効率が非常に悪くなる

結局,いくつかのことが『前提』として埋め込まれています。

<信書配達独占政策|前提事項>

あ 全国にサービスを提供する
い 全国一律料金
う 郵便局が利益を確保する

→大都市の利益を地方の赤字に当ててバランスを取る

最後に,公的な『趣旨』に関する情報をまとめておきます。

<信書便のユニバーサルサービスに関する公的見解>

あ 郵政民営化法7条の2

(郵政事業に係る基本的な役務の確保)
第七条の二 日本郵政株式会社及び日本郵便株式会社は、郵便の役務、簡易な貯蓄、送金及び債権債務の決済の役務並びに簡易に利用できる生命保 険の役務が利用者本位の簡便な方法により郵便局で一体的に利用できるようにするとともに将来にわたりあまねく全国において公平に利用できること が確保されるよう、郵便局ネットワークを維持するものとする。
2(略)

い 『規制改革実施計画』|平成25年6月14日閣議決定

(信書便市場の競争促進)
郵便・信書便分野における健全な競争による多様なサービス創出を促進する観点から、信書の送達のユニバーサルサービスを確保した上で、一般信書 便事業の参入要件の明確化や特定信書便事業の業務範囲(特定信書便事業者が扱える信書便の大きさや重量、送達時間及び料金に係る限定)の在り 方等、郵便・信書便市場における競争促進や更なる活性化の方策について、市場参入を検討する者や特定信書便事業者の意見を踏まえつつ、検討を行い、結論を得る。

5 信書送達業の独占|違憲審査基準

信書送達の独占は,憲法の『経済活動の自由』に反するものです(憲法22条1項,29条)。
もちろん,一定の合理的な理由があれば『合憲』です。
憲法違反かどうかの判断についてはその『基準』自体にバラエティーがあります。
信書送達業務の独占という法律の『違憲審査基準』を整理します。

<信書送達業務独占規定の合憲性審査基準>

あ 規制の種類

経済的自由権(の規制)

い 経済的自由権規制×違憲審査基準|概要

極端に合理性ない(ことが明白)でない限りは合憲

詳しくはこちら|人権基本・違憲立法審査権|違憲審査基準|経済的自由権×目的2分論

要するに,国会で法律を改正しない限りは,裁判所サイドで『無効』とするハードルは高い,ということです。
分かりやすく言えば,ロビー活動天国,ということです。

6 信書送達業の独占×路頭に迷う黒猫問題|『境界不明確問題』→メール便廃止

結局,現在の法規制を前提とすると『一般信書便』は許可を取れないのが実情です。
『ユニバーサルサービス』(全国対応)が高いハードルとなっているのです。
要するに『封筒に入れた手紙』を送る事業は『郵便局だけの独占』が崩されないまま,という状態です。

一方で『特定信書便』の範囲内では,多くの民間事業者が参入し,好ましいサービス・料金競争が展開しています。
ここで,範囲限定でがんばっている『特定信書便』が,『法律』の攻撃を受けています。
ユーザーが『信書』を入れて送ってしまう,ということが続出しているのです。
各民間業者は『信書を入れないように』という注意書きをするなど工夫しています。
しかし,一般の方は細かい意識をせずに,身内・知人に発送するプレゼントに『手紙』を添えてしまいます。
配送業者が『郵便法違反の幇助や共同正犯』となることはあまり考えられません。
また,誤って『信書』を入れてしまったユーザーが刑事裁判を受けるということも通常考えにくいです。
とは言っても『ユーザーに犯罪をさせてしまった』ということ自体は事実です。
行政指導や評判低下などの不利益・リスクがあります。
コンプライアンス上の問題,とも言えます。
結局,このような『厄介ごと』を理由としてヤマト運輸が『メール便』のサービスを停止すると報道されています(平成27年1月)。
黒猫が路頭に迷う,という風刺も拡散している模様です。
外部サイト|twitter|路頭に迷う黒猫達

この黒猫の悲劇は,『法律の境界が曖昧』ということにより発現したものです。
『規制内容の合理性』とはまったく別次元の問題です。
とは言っても,無関係とも言い切れません。
そもそも,『「規制対象が判断できない」=規制の合理性が疑わしい』と,強く思う次第です。

7 『意思表示』を『信書』から新テクノロジーでリプレイスする時が来た

以上のように『意思表示』は制度として『信書』が独占しています。
しかし機能の面ではブロックチェーンという新たなテクノロジーが『超えて』いると言えましょう。
ブロックチェーンがリプレイスする今後の状況・法的問題を,別記事で説明しています。
詳しくはこちら|『信書』をブロックチェーンでリプレイス|理論的な信頼性は実用レベル

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